これが映画だ! 第五回
センス・オブ・ワンダー、それだけだった…
“映画の魔術師”“SF映画の父”などと呼ばれたのがジョルジュ・メリエスだった。なんの物語性も無い活動写真時代に、エンターテイメント精神を持ち込んだ歴史的な作品、それが『月世界旅行』だった。誰にでも出来たトリック撮影を昇華させ、ストーリーと大きな弾丸状のロケットや月世界など、小道具、大道具にセットまで作り上げ、まさに“センス・オブ・ワンダー”という言葉を形にして見せた功績は半端ではない。多分、現代の子供は“なんじゃ、こりゃ!”と笑い転げることは必死だろう。しかしメリエス(出演している)を始めとする演者も必死だっただろう。
当時の映画では異例の長さ、豪華な製作費、革新的な特殊効果、ストーリーテリングの重要性は他の映画製作者たちに大きな影響を与え、物語映画全体の発展に大きく貢献した。この作品はメリエスの代表作であり、人間の顔が描かれた月面の目に宇宙船が着陸する瞬間は、映画史上で最も象徴的でよく参照されるショットの一つである。本作はSFというジャンルの最初の例として、また映画史上最も影響力のある映画の一つとして広く認知されている。
メリエスはマジシャンかつフランスの映画製作の先駆者であり、一般には物語映画の可能性を最初に見出した人物とされているが、本作時点においてすでに『シンデレラ』(1899年)や『ジャンヌ・ダルク』(1900年)などの物語映画で成功を収めていた。監督、プロデューサー、脚本、デザイナー、技術、広報、編集、さらにしばしば俳優としてすべての作品に幅広く関わったことから、最初の映画作家の一人とも評されている。ジョルジュ・メリエス、彼がいなければ、ストーリー性のある映画は勿論、SF映画のジャンルの確立も、もう少し遅くなっていたことは間違いない。
最終シーンでは"Labor omnia vincit"(ラテン語で「仕事はすべてを勝ち取る」の意味)の標語が刻まれた記念像が除幕される。実は本作の中には様々な風刺が盛り込められているらしい。
今回の主役級映画
月世界旅行 Le Voyage dans la lune
監督・脚本・出演 ジョルジュ・メリエス
原作 ジュール・ヴェルヌ
1902年/フランス/モノクロ※/18分※
※手彩色によるカラー版が存在する
※現存するフィルムの上映時間
次回予告
『M』『ロストワールド』『カリガリ博士』『ナポレオン』など映画黎明期の作品はまだまだあるが、次回『メトロポリス 完全復元版』で一区切りにしようと思っている。最初にあげた映画たちは『これが映画だ!』が続く限り、折を見て紹介するつもりである。
ということで、次回は映画ファンなら避けて通れない『メトロポリス 完全復元版』をお届けしよう。