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「わたしの叔父さん/Onkel」

映画を観に行ったら上映前の予告で次観たいものを見つけてしまった。
劇場に足を運ぶたびにそうなるので、このループから抜け出すことは無いのでは……と思っている。

というわけで、Frelle Petersen監督「わたしの叔父さん」の感想記事です。
公式サイトのリンクはこちら。

ざっくり説明すると、デンマークの農村に暮らす女性とその叔父にスポットを当てた、生き方について考えるような作品です。


なお、本記事では物語の結末に関して言及しています。
前情報なしで観たい方はご注意ください。


 農家を営むペーダ(叔父)のと共に暮らすクリス(姪・主人公)は牛や作物の世話をして日々を過ごしている。
毎朝決まった時間に起きて叔父を起こす。
食事の準備をして仕事に励み、食事と団らんの時間過ごし眠る。
作中繰り返し描かれるこの流れが、「彼女たちの生活が特段代わり映えのしないもの」という事を強調している。
(少し残酷だと感じたのは、その「代わり映えのしない日常」の中で食事のシーンに決まって日々刻々と動き続ける世界情勢のニュースが挟まれる事。
これによって、彼女たちだけなんだか世界からぽつんと置いてかれたかのような印象を受けた。)

クリスにとって代わり映えのしない日々が少しづつ動きだすのは、牛舎の牛の出産を助けた日からだ。
この日を境に彼女が叔父以外の人と会話をするシーン・外の世界の描写が増える。作中クリスは獣医師の助手を務めたり、教会で出会った青年とデートに出かけることになる。
叔父を含め周囲の人間たちは彼女が自分の道を切り開くためにさりげなく協力をしてくれるが、クリスは叔父のことが常に気がかりだった。
最終的に彼女は獣医師(助手)の道を捨て、好意を向けてくれる青年に応えることもなく、叔父と共に農家として暮らすことを選択した。

肝心のラストですが、私は好きです。
叔父の介護のために若いクリスが獣医としての道も外に出るという選択肢も捨てるのか、という批判は当然湧くと思うし私自身少しもやっとした点である。
個人的に、ここで注目すべきなのはクリスは14歳の時に自殺という形で家族を亡くしている点。
花を素直に供えられないシーンを見るに、この事実をきちんと消化しきれていないまま今日まで来てしまったのではないかと思う。
多感な時期に家族を失うという悲しい出来事を経験したことが彼女の人生に暗い影を落としたであろうことは想像に難くない。
周りがみな外の世界に飛び出すことを良しとしてくれても、叔父との生活を彼女が選択したのは今度こそ家族のそばにいたいという気持ちがあったのではないだろうか。
彼女自身が腹を決めて選び取った道がいい方向に進むといいなあと感じた作品だった。

若干話が変わりますが、介護する家族の負担が大きいことや、一次産業の後継者不足(子世代が継ぎたがらない)などは日本でも頻繁に話題になっていて関心の高いテーマかと思うのですが、この作品はこの辺りの課題を作品の中に取り込みつつ全く答えを出してなくて、むしろ問いかけの役割を担っています。
「2020年前後の農村の風景を切り取ったある種の記録映像」「あくまでクリスの物語(経緯が普遍的ではない)」という事を留意しなければならないなと思いました。
あくまで観た私たちが「どう生きるか」を考える作品だと感じます。


各地で上映中なのでよければ見てみてくださいね。

2021.02.14 まど

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