人と地域を元気にする地産地消の給食改革!【第3弾=東京都「ふじようちえん」③】
食を通した直感的な体験を重ねる幼児の学び③
【この連載について】
この連載は、総務省地域力創造アドバイザー/食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが、地産地消の給食に取り組む日本全国の画期的な事例を取材したルポルタージュです。
第3弾は、食を通したユニークな幼児教育で国内外から注目されている東京都立川市のふじようちえんを取材し、全4回でまとめていきます。
第1回 第2回 第4回
●誕生は1971年 地域の子どもたちのために始まった
「ふじようちえん」の創設は1971年。今の園長・加藤積一さんのお父様である加藤幹夫さんが始めたものだ。当時の名前は「立川藤幼稚園」。
「父親の兄弟の一番上が戦争でなくなった。それで急遽、父親が農家を継ぐことになった。父親も市役所の教育関係に携わったこともあり、いつか教育をしたいという思いもありました。地域や市役所の勧めもあって園を開きました。最初は81名で始まりました」とは、加藤績一園長。
当時、立川市は都心のベッドタウンになっていた。 1950年約6万3000名の人口は1970年には11万7000名と急激に増えていた時期でもある。幼稚園は、まさに求められて生まれたものでもあった。その後も立川市の人口は増えて、2020年は約18万1000名となっている。
開園して2年目からモンテッソーリ教育を取り入れた。これはイタリアのローマ大学最初の女性医学博士であったマリア・モンテッソーリ(1870〜1952年)によって考案された教育法。
「『子どもには、自からの成長発達させる力が備わっている』という『自己教育力』がある」というのが基本にある。もともと子どもは、自らが自立に向けて学び、吸収して、成長をしていく。その内在する力を発揮できる環境があれば、自発的に活動して成長し、能力を発揮することができるというもの。
加藤幹夫さんは、モンテッソーリ教育を知り合いだった教育者の方に聞き共感した。園を開園するにあたり小学校の校長をされ定年退職された森豊三郎さんを園長に迎えた。森さんは上智大学に1970年に付設された「上智モンテッソーリ教員養成コース」に学び、ヨーロッパ、北米などモンテッソーリ教育の海外現場視察を行い、またモンテッソーリ教育に関心のある関東一円の先生方を園に集めて月1回の研修会も開催した。50年前、こうして「ふじようちえん」にモンテッソーリ教育が取り入れられることとなる。
●お父さんの理想は『男はつらいよ』のフーテンの寅さん
「モンテッソーリ教育は、最初、明治時代に入っているんです。でも広がらなかった。そして『東京オリンピック』(1964年)のあとくらいに入っているんですよ。すごいほそぼそなんですけど、それが上智大学で残った。
父は詳しく知っているわけではないけど、子どもたちの持っている本来の能力を伸ばすという観点から、共鳴を感じた。ときあたかも受験地獄。むちゃくちゃ勉強して、いい点をとって、いい学校を出ようという。そういう時代ですね」(加藤積一さん)
この頃、戦後のベビーブームから若い人が増え、受験戦争という言葉が生まれる。1970年後半には共通一次試験が行われ、学歴信仰が、問題視されるようにもなった。
「父親がよく言ってたのは、『いくらいい学校を出ても、社会に出てからが勝負だから。学校、いい所でても、社会に出たら、たいしたことないというのはいっぱいいるからと』しょっちゅういっていた。ときあたかも『男はつらいよ』の時代。『寅さんみたいな人がいいな』とよく言っていた。寅さんは、今でいう『非認知能力(IQなどで測れない内面の力)』の権化ですよあの人は。『認知能力(知能検査で測定できる能力)』はないかもしれないけど(笑)」(加藤積一さん)
寅さん(渥美清)を主人公にした『男はつらいよ』は、1968年(昭和43年) - 1969年(昭和44年)に、フジテレビで制作・放映。そののち松竹によって1969年(昭和44年)『男はつらいよ』が映画化される。それから1995年(平成7年)までに48作が映画化された。1997年(平成9年)と、2019年(令和元年)に特別編が公開されている。
1969年の第1作『男はつらいよ』、第2作『続・男はつらいよ』が映画化される。1970年代に入って『男はつらいよ フーテンの寅』が映画化され、それから1979年『男はつらいよ 寅次郎春の夢』まで、1970年代に24作品が映画になっている。
●幼稚園と保育園を運営する『学校法人みんなのひろば』
現在、『学校法人みんなのひろば』として幼稚園684名。保育園4か所(それぞれ約100名)を運営している。
「先生たちが広く活躍できる場があるといいかなというのと、立川市が、まだ人が増えているということから、運営が広がりました」とは、加藤久美子副園長。
【写真】「ふじようちえん」の入り口脇にある事務室
●「スマイルエッグス」 1999年オープン(東京認証保育所)
●「Fuji赤とんぼ保育園」 2018年2月オープン(企業主導型保育事業)
●「なすび保育園」 2018年4月オープン(認可保育園)
●「Fujiれもん保育園」 2020年4月にオープン(企業主導型保育事業)
ちなみに、加藤績一さんは園全体を運営する「学校法人みんなのひろば」理事長、加藤久美子さんは法人事務長でもある。
「現在、幼稚園開園50年目です。『スマイルエッグス』、『Fuji赤とんぼ保育園』の後、『なすび保育園』が生まれた。『一富士 二鷹 三茄子(いちふじ にたか さんなすび)』にあやかって『なすび保育園』。『ふじようちえん』は、本当は『藤』なんだけど、富士山の富士と思っている人もいる。確かに、園から富士山がよく見えるんです。
『なすび保育園』と名前をつけて良かったと思っています。実際に、農園担当者が茄子苗を500ポットくらい育てます。それを園児のご家庭はもとより、ご近所に配るんです。うまく育って、『ナスできたよ‼』という人もいるし、失敗しちゃったという人もいる。ちょっとした交流の場になっている。
園の前のファミリーマートさんは店長さんがすごく熱心で『ファミリーマートにとってもいい事例なんです」と言って、ナスを並べる台まで作って、みんなどうぞ、どうぞ‼ と配ってもらっています(笑)。まさしく、地域のコミュニュティですね」(加藤績一さん)
「ららぽーとの向いに斬新な保育園があった」と質問したのは、編集部の山林早良さん。「あれは『Fuji赤とんぼ保育園』。飛行機をイメージしたもの」と加藤さん。
「立飛ホールディングスは、旧立川飛行機という会社なんです。もともと立川には飛行場があって、戦前に飛行機『赤とんぼ』も作っていた歴史があります。もともと広大な土地があり、そこを『ららぽーと』が借りている。
そこの社長とお話する中、『ここで保育園ができますよ』といったら、やりますとなった。ところが先方には、保育園のノウハウがないから、建築から運営からなにから全部うちでやらしてもらえることになったんです。それが、この形になっています。(笑)」。
【写真】園舎屋上からの風景
●2代目園長・加藤積一さんの転機は子どもたちの「遊ぼうよ」だった
「ふじようちえん」を加藤積一さん・久美子さん夫婦で継いだのは1993年からだ。
加藤積一さんは1957年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科を1979年卒業。政治家の秘書を1年半経験。商社勤務、会社経営を経て、1991年に「ふじようちえん」に入る。2000年から園長。2011年から「学校法人みんなのひろば」理事長。
「会社経営をしていたときは、ケーキやチョコの販売をしていました。バレンタイデーでは、ブロックのチョコを砕いて袋に詰めたりと、いろいろな商品を作りました。すごく当たって、女子高生によく売れた。当時は、板チョコ販売が普通で、ブロックチョコを切って売るという発想がなくて、袋に詰めてもお洒落なものがなかったんですよね。こまかいけど女子高生に受けて、うれしくなるほど買ってもらいました(笑)」(加藤績一さん)
当時、社員が約10人で会社の運営も順調だった。そんなとき園を経営するお父さんから電話があった。「幼稚園バスの運転手がインフルエンザに罹ってしまったので、1週間だけでいいから運転してくれ」というものだった。
急遽、園の手伝いをした加藤績一さん。仕方ないと始めた運転だったが1週間経ったころには「ねえ、遊ぼうよ」と子どもたちが加藤さんの足に絡みついてくるようになった。そこから子どもたち、園の素晴らしさに目覚め、会社を整理して、本格的に幼稚園を手伝うこととなる。
*関連資料
「ふじようちえん」 https://fujikids.jp/
「ふじようちえんのひみつ』加藤積一 著(小学館)
「日本モンテッソーリ教育綜合研究所」https://sainou.or.jp/montessori/about-montessori/about.php
「本との偶然の出会いをWEB上でも P+D MAGAZINE」出口治明の「死ぬまで勉強」(Web記事)https://pdmagazine.jp/trend/shinumadebenkyou-014/
『出口版 学問のすすめ ―「考える変人」が日本を救う!』出口治明 著(小学館)
金丸 弘美 総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
*ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php