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人と地域を元気にする地産地消の給食改革!【第3弾=東京都「ふじようちえん」①】

食を通した直感的な体験を重ねる幼児の学び①

【この連載について】
この連載は、総務省地域力創造アドバイザー/食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが、地産地消の給食に取り組む日本全国の画期的な事例を取材したルポルタージュです。
第3弾は、食を通したユニークな幼児教育で国内外から注目されている東京都立川市のふじようちえんを取材し、全4回でまとめていきます。
      第2回      第3回      第4回

●出会いはアリス・ウォータースさんの食事会から

 東京都立川市上砂町にある「ふじようちえん」のことを知ったのは、アメリカ・カリフォルニアから来日されたアリス・ウォータースさんを囲んでの食事会に招かれたときのこと。そこで「ふじようちえん」加藤積一園長とご一緒したのがご縁である。

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【写真】加藤積一さんと「ふじようちえん」

 2018年4月18日。会場は東京・西池袋「重要文化財自由学園明日館」。料理を作ったのは自由学園の学生たちだった。
 建物は1921年に「自由学園」の校舎として建てられたものだ。今はリノベーションされて、昔の佇まいを活かし、さまざまなイベントに利用されている。「自由学園」の現在の学び舎は、池袋から西武池袋線で15分「ひばりが丘」から徒歩8分のところ、優雅で豊な緑に囲まれたなかにある。

 食事会のご案内は自由学園からいただいた。というのも学校給食の連載を2004年から2006年にかけて雑誌「ソトコト」(木楽舎)でしており、そこで自由学園を取り上げたことがあったのと、そのあと『給食で育つ賢い子ども』(ソトコト新書) で本となり自由学園も収録されている。そのご縁からだった。
 この活動は大きな注目となった。というのは、食育基本法が2005年に国で制定され、学校給食での取組が大きくクローズアップされることとなったからだ。「学校給食法」も「食育基本法」と連動するようになっている。給食は戦後の食糧難の時代の食べ満たすことからは大きな変貌をとげて文化・地域・食生活・環境などを学ぶ「教育」という位置づけになっている。

アリス・ウォータースさん

【写真】自由学園明日館での食事会に来日されたアリス・ウォータースさん

●エディブル・スクールヤード(食べられる校庭)が共通コンセプト

 アリス・ウォータースさんは、アメリカ・カリフォルニア州バークレーにあるレストラン「シェ・パニーズ」の経営者。料理家、作家、社会運動家でもある。オーガニックの農業の連携、学校内の農園と子どもたちが体験して健康な食をいただくエディブル・スクールヤード(食べられる校庭)・プログラムを推進している。日本でもNHKでの特番が組まれたり、多くの書籍も出ているので知っている人も多いだろう。スローフード・インターナショナルの副理事でもある。2004年イタリアのトリノで開催されたスローフードのイベント「サローネ・デ・グスト(味のサロン)」のときに、イタリア料理店でお見かけしたことがある。

 日本でのアリス・ウォータースさんの食事会を企画したのは、彼女に共鳴して活動をするエディブル・スクールヤード・ジャパンのメンバーの方だった。

 アリス・ウォータースさん、「自由学園」、「ふじようちえん」に共通しているのは、子どもたちが農地に触れ、野菜を作るところから、料理までを体験し、見た目、触感、音、香り、味わい、五感をフルに働かせて感性と知性を豊かにし、健康で美味しい食をいただき、同時に環境や文化など学ぶ場が作られていることだ。もともと子どもたちがもっている能力を豊かな体験を通して引き出し伸ばすことが行われている。

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【写真】園舎(左)と園の畑(右)

 「自由学園」も「ふじようちえん」にも畑がある。そこから子どもたちが収穫した作物がランチにも登場する。また作物を数えて算数に、観察して理科に、スケッチして美術に、言葉にして国語に、収穫祭でお祭りに、家族や仲間と食べてコミュニケーションになど、食と農がさまざまな学びにも繋がるようになっている。実は、子どもたちが五感で学ぶというのはスローフードの「味覚の授業」でも行われている。

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【写真】「ふじようちえん」原木栽培のシイタケを学ぶ子どもたち

 アリス・ウォータースさんとの食事会のあと、「ふじようちえん」加藤積一学園長からハガキが届いた。そこには、園児が畑で作物を収穫したり、園の庭で遊んだりという、いくつもの写真がはめ込まれたものだった。あとで知ったのだが、加藤園長は、アリス・ウォータースさんをアメリカに尋ね取組をすでに現地で観てもいらした。アリス・ウォータースさんと「ふじようちえん」には、子どもの教育としての共通項がある。子どもの本来持っている力を豊かな体験のなかで能力を伸ばすイタリア発のモンテッソーリ教育を学んでいるということだ。

●園舎は屋根でも遊べるおおきな楕円形

 ようやく念願かなって「ふじようちえん」に出かけたのは2020年11月16日。ふじようちえん副園長(園長の奥様)加藤久美子さんからいただいたメールには「これから実りの秋で、美味しい食材が畑にたくさん実っています」とあった。

 場所は、東京JR立川駅北口よりバスで20分ほどの「大山団地折返場」下車徒歩5分のところにある。立川駅で編集担当の山林早良さんを待ち合わせて園に向かった。立川駅は、中央線特別快速電車で東京駅から40分、新宿駅からは25分のところにある。

 園にたどり着くと、まずその園舎のユニークさに驚く。大きな楕円形の形になっていて、園舎がぐるりとつながっている。しかも屋根は板張りになっていて、子どもたちが自由に遊べるようになっている。周囲には、さまざまな木々が植わっている。床から天井に届くまでガラス張りで、教室がよく見えて開放的だ。

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 入口には、大きな写真入りの掲示板がある。そこには、秋の収穫物や、子どもたちの体験の様子などが紹介されている。この掲示は季節にあわせて作成されているとのこと。送迎の親御さんたちが、園の取組を見た目でわかるようになっている。園の中庭は、ちょっとした運動場のようになっている。

園舎前掲示2

 園に着くと挨拶もそこそこに「さあ、畑に行きましょう。今日は、サツマイモの収穫です」と加藤園長。園からは、児童が行儀よく並び先生に引率されて歩き始めている。園の前の大きな道路を渡り、ほんの数分も行くと広々とした木々に囲まれた畑が広がる。

畑へ向かう子どもたち

●年間で野菜栽培がされ子どもたちが体験して五感で学ぶ

 畑は50a。「スマイルファーム」と名付けられている。畑の作物づくりをする専任者が2名いて、年間の作付け計画を行って栽培がされている。ほかに近くに50aの畑を借りている。

 そこでは、すでに先に行った児童たちが畑でのサツマイモ収穫の真っ最中だった。さつまいもの収穫は10、11月。児童たちは先生と農業担当者の指導でサツマイモ堀りを体験。そのあと秤ではかってもらい、お土産に持って帰る。

 ふと畑の隅をみると、ミカンがたわわに実っている。そのミカンを先生がもぎ取って見せる。ミカンは、あとで給食に一房ずつ登場する。

みかん

 子どもの収穫の様子は、専任のカメラマンが写真撮影も行っている。希望の親御さんたちには、子どもたちの写真が配信してもらえるようにもなっている。日々の成長記録が残る仕組みだ。

 畑ではイチゴ(5月)、玉ねぎ(6月)、ジャガイモ(6,7,8月)、トウモロコシ(7月)、ズッキーニ(6、7、8月)、きゅうり(6、7、8月)、ゴーヤ(7,8.9月)、ポップコーン(7月)、ナス(7,8,9月)、トマト(7,8月)、ミニトマト(7,8月)、スイカ(8月)、ブルーベリー(8月)、ピーマン(8月)、ゴマ(9月)、柿(10、11月)、唐辛子(10月)、サトイモ(10、11月)、みかん(11月)、落花生(10、11月)、高菜(12月、1,2,3月)、ニンジン(12月、1、2月)、大根(11、12、1、2月)、秋ジャガイモ(1,2月)。1年中作物が収穫される。これらが、四季折々の体験に組み込まれ給食にも登場するのだから、なんと贅沢なことだろう。しかも幼稚園に畑の専任の方がいるというのも驚きだ。

いもほり2

 「野菜づくりは現場の担当の彼が、毎年、栽培をしています。ここは、もともと個人の畑だったところなんです。当時、大根を作っていました。豊作すぎると毎日、毎日、大根を食べることになった(笑)。それでメニューが先で、作付けを計画したほうがいいなと気づいて、それで、この野菜を食べてみよう、栽培ができないかとやってみようとなった。枝豆を作ったり、大豆を作り納豆や豆腐づくりもしてみました。ずっと試作をしているんです。高菜栽培もそうです。これからもチャレンジは続いていきます」

*関連資料
「ふじようちえん」 https://fujikids.jp/
ふじようちえんのひみつ』加藤積一 著(小学館)
「日本モンテッソーリ教育綜合研究所」https://sainou.or.jp/montessori/about-montessori/about.php 
「本との偶然の出会いをWEB上でも P+D MAGAZINE」出口治明の「死ぬまで勉強」(Web記事)https://pdmagazine.jp/trend/shinumadebenkyou-014/
出口版 学問のすすめ ―「考える変人」が日本を救う!』出口治明 著(小学館)
アリスのおいしい革命』アリス・ウォータース+NHKエンタープライズ取材班(文藝春秋)
アート オブ シンプルフード』 アリス・ウォータース 著(小学館)
学校における食育の推進・学校給食の充実(文部科学省) https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/index.htm

金丸 弘美   総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
 最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
*ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php

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