人と地域を元気にする地産地消の給食改革! 【第2弾=新潟県新潟市②】
給食を提供する株式会社の発展的な事業展開モデル②
【この連載について】
この連載は、総務省地域力創造アドバイザー/食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが、地産地消の給食に取り組む日本全国の画期的な事例を取材したルポルタージュです。
第2弾は、新潟県新潟市で給食サービスを中心に多彩な事業展開を行っている株式会社総合フードサービスを全4回でまとめていきます。
第1回 第3回 第4回
▼新潟市の中学校は生徒が4つのメニューから選択する独自のスクールランチ方式
新潟市の中学校給食はスクールランチ方式と呼ばれ、毎日、ルーム2種、ボックス2種から選択する全国でも珍しい方式がとられている。新潟市が中学校の給食を始めたのは2003年からで民間委託でスタートした。新潟市をブロック分けし、新潟フードサービスを含む3社で請け負っている
(上写真)ランチルームでは、受け取り口から給仕される。
(下写真)ランチルームでは、ふだんは決められた2クラスが使う。
新潟市の教育委員会のなかに保健給食課があり栄養士がメニュー案を作る。各実施月の3カ月前くらいに前に、保健給食課と受託側の栄養士が集まってメニュー検討を行う。使う材料から調理法や、もっとこうしたらいいと意見交換を行う。
献立決定後、メニューが生徒に配布される。給食にはランチルームで配膳されて食べるA,B2種類と、BOXを教室へ持っていって食べるC、D2種類がある。
ランチルームには、3、5クラスの人数の生徒が入る。全生徒が入れないため学年やクラスごとにランチルームは交替で使うことになっている。
ランチルームではない生徒は今回BOXにあたっているから、C.Dどっちを選ぼうかと考え、1週間前までに予約機で食券を購入する。その予約券を保健給食課がとりまとめ委託業者に報告される。それから仕入れが始まる。
ランチルームでの給食の例。左写真がAセットで、右写真がBセット。
「各中学校にはランチルーム(生徒が食べるスペース)と配膳室(盛り付けをするスペース)があります。設備があって再加熱ができるので、ラーメンやスパゲティを茹でたり、カレーも温め直して提供ができます」(長嶋さん)
4種類のメニューは全部給食センターで調理をして配達する。学校に到着してからのルーム分の盛り付けやBOXの配布準備は、配膳員と呼ばれる専属スタッフを配置して行っている。給食は生徒が予約券と引き換えに渡す仕組みだ。
食材費は1食税込みで290円。
給食センターの従業員は約50名。それと各学校に3~7人、8校で合計約45名を配膳員として配置している。
ある日のBOXメニューの例。左写真がCセットで、右写真がDセット。
料理の材料は「地産地消」を心掛け地元を優先して使われる。まずは新潟市内、ついで県内産、それから国内産となる。食材はバランスや栄養価を配慮し、1日約20品目が使用されている。
食材については、メーカーから仕入れを行うが、原材料、産地、製造過程、細菌検査証を取り寄せ、教育委員会に提出し許可を得たものだけが使われる。
できるだけ季節のもの、四季を感じてもらうことから「地産地消」が心掛けられている。
食材はどこから来るのか。毎日「〇月〇日の地場産」という掲示物が作成されて学校に配布されて展示される。
(上写真)中学校のスクールランチの使用食材
(上写真)中学校では掲示物を使い、メニュー名や栄養素アピールしている
(下写真)保護者向けの試食会を開き、使用食材の展示も行う
▼自由に選べるゆえの課題もある選択方式の給食
実は、この選択式の給食、問題もある。メニューが選択できるだけでなく、給食を食べるか食べないかも選択となっている。給食を食べない生徒は家からお弁当を持ってきてもいいし、お店で買ってきてもいい。自由となっている。アレルギーの対応をしておらず、情報を提供し食べれるメニューがあれば注文をする。
新潟市の中学校のスクールランチの利用率は63.8%(令和元年度末)。
長嶋さんは次のように話す。
「いろんな子がいる。食べない子がいる。買ってくるのを忘れた。申し込みを忘れた。
最初の導入のときに新潟市の説明は、中学生だから自分の健康とそれに適した食生活を自己管理できるようになる力を育てる、というのが理想だったんですが、現状は生徒たちが自分の好きなものを選ぶことが多く、肉に比べて魚のメニューは選んでもらえる機会が少ないように思います。カレーとか、唐揚げとかフライのときは、人気があるので注文がぼんと増えるんです」
新潟市の中学校で給食が始まったのは、それまで小学校しか給食がなく、生徒の親たちから中学校も給食を出してほしいという要望と運動があったことからだった。ところが、各学校に調理室を作るとなるとお金がかかる。そこで給食センター方式で配膳するということとなった。どうせやるなら最新式の学校給食をということになった。
▼選択方式のスクールランチ方式は名古屋がモデル
選択方式の給食は名古屋市で行われていた。それがモデルとなり新潟市も、あまり例のない選択方式給食が実施されることとなった。
委託を受けることとなった総合フードサービスは、依頼内容にそった調理内容と施設を備えることとなった。
「名古屋に2回ほど視察にいって給食業者からいろいろ教わりました。平成15年(2003年)から全市(合併前の新潟市の地域)でスタートしました」(長嶋さん)
新潟市は2005年に合併。人口は81万人を超え政令指定都市となる。合併したほかのところは、もともと給食があった。自校方式と給食センター方式がある。このため、合併したところは、旧来のままで、メニューは1種。合併前の新潟市の地域が4種の選択という変則の形がとられている。
小学校は旧新潟市は全部自校方式。つまり、それぞれの学校内で調理されている。給食は全員同じメニューを食べている。
ただ、この自校方式は、現在、年間2、3校ずつ調理だけを民間に委託して変えていっているのが現状だ。
新潟市の中学校のスクールランチは生徒が給食の申し込みもメニューも選択。
選択方式は、名古屋や新潟に続いて、ほかのところもやったが失敗しているところもある。デメリットも多かった。
「実は、この良し悪しは、もう15年論議され課題になっている。全員食べるべきだ、全員BOXにしたらという話しが出たりする。
しかし、そうするとアレルギー対応をどうするのか。現状、BOXとルームで2回にわけて配達をするところをBOXだけにすると車のキャパと台数の問題が出てくる。BOXにすると容器を全員分揃えないといけない。
また今の盛り付けの設備だと全員分盛るとなると時間がかかる。作業時間をどうするのか。そうすると設備も直さないといけない。その費用をどうするか。作業工程の見直しもあるし食器も揃えないとといけない。今、ランチルームで使っている器具を使わないことになれば廃棄するのか。
こちらで考えられるデメリット、メリットを出して、あとは行政の判断となる。といういろんな問題があって、今の状態を維持している」(長嶋さん)
市の方針で決まった給食で長嶋さんのところは委託業務になっているためにすぐに内容の変更ができないというジレンマがある。現状、今の形で最善をつくし安心安全で、美味しく、健康に優れたものを出すということに徹している。
*関連サイト
株式会社総合フードサービス(代表取締役・長嶋信司) ◎http://www.sogo-food.com/
「中学校スクールランチ」(新潟市)
◎https://www.city.niigata.lg.jp/smph/kosodate/gakko/sho_chu_school/kyushoku/schoollunch/index.html
「スクールランチの概要」(新潟市)
◎https://www.city.niigata.lg.jp/smph/kosodate/gakko/sho_chu_school/kyushoku/schoollunch/schoollunch/tokushoku.html
プロフィール
金丸 弘美 総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
*ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php