ウィンターリーグの投球から見るホセ・エスパーダ
みなさま、はじめまして。中藤練と申します。
普段はX(旧Twitter)にてサッカーや東京ヤクルトスワローズのことを中心に呟いている、しかし特にこれといってサッカーや野球についての専門的な知識を持ち合わせている訳ではない、ただのしがない一般人です。
さて、2023年12月18日、直前に石田健大からの断りの連絡を受けた東京ヤクルトスワローズが、その傷心を慰めるかのように新外国人の獲得を発表しました。
名前はホセ・エスパーダ。1997年2月22日生まれの26歳。2023年は2Aと3Aを中心に活動しており、2Aでは26試合に登板し64回で防御率2.81、3Aでは9試合に登板し19.1回で防御率2.79を記録。その活躍が評価されてメジャーへの初昇格・初登板も果たしています。
そんなエスパーダについて、奥村政之国際グループ担当部長からは獲得時に以下のようなコメントがありました。
「将来的に抑えになれるポテンシャル」ということで、即戦力性については濁している印象を受けますが、他の球団の目につかないように参加していたプエルトリコのウィンターリーグを途中で抜けさせる、パドレスから移籍金を払って買い取るなど、その素材にかなり惚れ込んでいることがわかります。
しかし、Youtubeに上がっているエスパーダの投球動画のほとんどは今年のメジャー初登板時のもので、あれだけではエスパーダという選手の特徴や奥村さんが惚れ込んだ理由が理解できないのではないかと思います。
そこで本記事では昨年の11月末から12月頭にかけてプエルトリコのウィンターリーグにてエスパーダがどのような投球を披露していたのかを紹介していきます。
なお、これから出てくる諸々の円グラフは、私がプエルトリコのウィンターリーグのチャンネルに上がっていたライブ放送を見て「これはストレートかな?」「これはスプリットだろ」「え、いまのなに?」みたいな感じで悩みながらポチポチ作ったもので、公式記録ではないこと、数字がところどころ間違っているかもしれないことをご承知おきいただけますと幸いです。
また、「エスパーダがウィンターリーグでどんな投球をしたのか実際の様子を見てみたい!」という方や、「おいおい、この数字ほんまかいな?」と思う方は最後の方に各試合のリンクを置いておきますので、各自でご確認頂けますと幸いです。
⚪︎スタッツ
まずはウィンターリーグでエスパーダが残したスタッツを見ていきましょう。
今冬のウィンターリーグにて、エスパーダは6試合で8イニングを投げて被安打0、与四球2、9つの三振を奪うという圧巻の成績を残しています。8イニングを投げてヒットを1本も打たれていないというのも凄いですし、その上で四球を2つしか出していないのは特筆に値します。BB9(9イニング投げた時にどれくらいの四球を出しそうか)の数値は2.3で、これは2023年のヤクルトの中継ぎだと田口が近い数値(2.42)を残しています。
エスパーダの獲得が報じられた当初、2023年の2Aや3AでのBB9の数値が両方とも4.5を超えていたこと、また投球の様子として拡散されたMLBでの初登板時に1イニングだけで2四球を出し、更にワイルドピッチがあったことなどからコントロール面での課題を指摘する声がありましたが、ウィンターリーグでのスタッツをみると改善の傾向が見えます。なお、エスパーダの2022年のウィンターリーグでのBB9は5.3、2021年は4.0で、このウィンターリーグのストライクゾーンが特別甘いということはありません。
BB9の数字だけでなく、エスパーダのウィンターリーグにおける1イニングあたりの平均投球数は12.75球であり、これも制球面の成長を感じさせる数字です。
MLBのシーズンが終わってからウィンターリーグが始まるまでに、コントロールを改善する何らかのコツを得た可能性があります。
また奪三振能力を示すSO9(9イニング投げた時にどれくらいの三振を取れそうか)は10.1で、これまた2023年の田口が近い数値(10.24)を残しています。
エスパーダのSO9は2023年の2Aや3Aでも11を超えており、彼の特長のひとつでもあったのですが、ウィンターリーグにて四球を出さなくなったからといって特徴でもある奪三振能力がなくなった訳でもないことは注目に値します。
次にウィンターリーグでのアウトの取り方の内訳を見ていきましょう。
一番多かったアウトの取り方は三振です。2A、3Aでも見せていた高い奪三振能力をウィンターリーグでも示していたのは前述の通りとなります。
また、次に多かったアウトはゴロアウトで、僅差で外野フライ、大きく離れて内野フライと続きます。ただし、外野フライと内野フライを合わせるとゴロアウトより多くなるので、ゴロピッチャーという感じではありません。
⚪︎球種別の分析
ウィンターリーグでの球種別の投球割合は以下の通りになります。
私の独自集計なので「大体これくらいか」程度で見て欲しいのですが、投球の大半はストレートになります。ストレートで押し、カーブでタイミングをずらし、スプリットで三振を奪うというのが基本の組み立てになります。
ただ、ウィンターリーグ通してスプリットの出来がよく、リーグ後半ではカウントを稼ぐ場面でもスプリットの割合が増えてきた印象です。
※曲がるボールについてはサンスポでカーブ表記だったので、そちらの表記に合わせています。
それぞれの球種について見ていきましょう。
・ストレート
ストレートを投げた場合、空振りを取れたのは6.8%、見逃しストライクだったのは27.1%、ファールだったのは13.6%で、合わせると大体半分程度の場合(47.5%)でカウントを稼げています。ただ、空振りを取れた投球の割合が低く、ストレートの質は空振りを取れるものではないように見えました。
また、ボールになった投球も37.3%あり、このあたりの制球面が課題というか、伸び代がまだ残っている部分になります。とはいえ全くコントロールがきいていないボールというのは少なく、カウントが悪くなっても甘いコースにストレートがいくということは少なかった印象です。
なお、今回のウィンターリーグでは球速表示がなかったので、どれくらいのスピードが出ていたのかはわかりませんでした。
・カーブ(スライダー)
カーブはストレートとの球速差がかなりある球として、カウントを整える時に使われています。また空振り率も高く、右打者には決め球にもなります。
なお、ウィンターリーグでのエスパーダのカーブはメジャーでの初登板の時よりも変化量が少なく、縦ではなく横に曲がるようになっているように見えます。
変化量が少なくなったことでカウント球としての使いやすくなっている印象です。
【参考】ウィンターリーグでのカーブ(スライダー)
【参考】メジャー初登板時のカーブ(スライダー)
・スプリット
スプリットはウィンターリーグで特にキレッキレのボールで、投球した場合の空振り率が40%を超えています。
見逃しストライク率と合わせるとストライクになった割合は60%を超えており、ウィンターリーグの前半では主に左打者向けの決め球として使われていましたが、後半では左右関係なくカウント球や決め球として使われていました。
奥村さんもこのウィンターリーグでの投球を見て、「落ち球がいい」と言及したのではないでしょうか。
【参考】ウィンターリーグでのスプリット
⚪︎ウィンターリーグでのホセ・エスパーダはどういう投手だったのか
スタッツのところでも紹介しましたが、昨年のウィンターリーグにてエスパーダはヒットを1本も打たせない投球を見せました。ヒット性のあたりも少なく、格の違いを感じる投球だったと言ってしまっていいかと思います。
投球スタイルとしてはストレートが軸の投手で、コントロールもそこまで悪くない(投げてみないとどこにボールがいくのか分からないという選手ではない)、内外の投げ分けはできる投手という印象です。打者が差し込まれている姿も多く、打者にとってみれば少しタイミングが取りづらいフォームなのかもしれません。
また、このウィンターリーグにおいてはとにかくスプリットが絶好調で、このスプリットを日本でも再現できるのであれば、1年目からの活躍が期待できそうです。
こうしてみると、奥村さんの「落ち球(スプリット)やコントロールが良い」というコメントは、ウィンターリーグのホセ・エスパーダを評するものとして的確なものであると言えます。
日本のマウンドやボール、ストライクゾーンへの適応や更なる球威・制球面の向上など、課題は多くあると思いますが、このウィンターリーグで見せた投球はかなりのポテンシャルを感じるものでした。
本人も日本での挑戦を楽しみにしているようですので、これからのエスパーダ選手の活躍を温かく見守っていきたいと思います。
¡Vamos, Espada!
※以下にエスパーダのウィンターリーグでの各試合の投球がわかるリンクを置いておきます。エスパーダの紹介記事を書く際にぜひご活用ください。
1試合目(11/23)
2試合目(11/25)
3試合目(11/27)
4試合目(11/29) ※先頭に四球
5試合目(12/2) ※回跨ぎあり
1イニング目
2イニングス目
6試合目(12/8) ※回跨ぎあり
1イニング目
2イニングス目