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『光る君へ』に見る現代女性の共感と新しい男女像:脚本家・大石静篇

今年から来年にかけて、母校の同窓会の動きが激しく、北九州に通い詰めな昨今。
つい先日も、打合せを終えて駅まで歩く道すがら、中学時代の親友と大河の話をしてしまい。
「ねぇねぇごっちゃん、あと一杯だけ、コーヒー飲まん?話し足りんわ」
「あぐりー!」
ってことで、30分一本勝負で今年の大河の話をしこたまして帰ってきた。

さて。
そんな私と親友がドはまりしている2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』。紫式部を中心に描かれた物語で、特に女性視聴者から強い支持を得ている、というか、男性陣に不評な印象。あくまで当社比だが。
何人かと話してみたところ、男性視聴者にはやや理解しづらい部分があるようだ。そしてその背景には、本作を担当している脚本家・大石静の作風が影響していると勝手に考えた。今週は、今年の大河が女性視聴者に響いているポイントや、大石静脚本のすばらしさを中心に勝手に掘り下げていきたいと思う。


1. 大石静脚本のすばらしさ

まず注目すべきは、大石静のこれまでの脚本作品である。彼女は複雑な人間関係や社会的テーマを深く掘り下げることに長け、特に女性キャラクターの強さや優秀さを描く手法が際立っている。『光る君へ』でも、その力が存分に発揮されている。

大石静の代表作

  • 『ふたりっ子』(1996年)
    双子の姉妹がそれぞれ異なる道を歩み、人生を競い合う様子を描く。女性の成長と家族の絆がテーマとなった、1990年代を代表する大ヒット作品である。

  • 『セカンドバージン』(2010年)
    不倫や年の差恋愛をテーマに、社会的なタブーを取り上げながらも、感情の揺れ動きを繊細に描いた作品。複雑な人間関係が視聴者の共感を呼び、特に女性層から支持された。

  • 『家売るオンナ』(2016年)
    強い意思を持つ女性が不動産業界で活躍する姿を描いたコメディ要素のある社会派ドラマ。女性のキャリア観や自己実現を強調しており、視聴者にとっては励まされる内容である。

  • 『大恋愛〜僕を忘れる君と』(2018年)
    若年性アルツハイマーに苦しむ女性と、その女性を支える恋人の愛を描いた感動作。難しいテーマにも関わらず、感情の深さと丁寧な描写が大きな話題を呼んだ。

光る君への骨子

さて、本題の『光る君へ』は、平安時代を舞台とし、紫式部と藤原道長の関係を中心に描かれている。紫式部が道長との知的な交流を通して成長していく姿が、物語の中核を成す。さらに、歴史的事実に基づきながらも、紫式部と藤原道長がソウルメイトだったという大胆なifストーリー(仮説)に挑戦している点もこのドラマの特徴だ。視聴者に新たな歴史解釈を与える一方で、紫式部の内面が丁寧に描かれている。

2. 紫式部と藤原道長のifストーリー

本作では道長と式部が幼い時分に出逢い、お互いをソウルメイトとして意識しながらも、「妾になるのは嫌だ」と道長のプロポーズを断り、しかしあるとき一線を超えてしまうというまさかの展開。

しかもそのときに身ごもった子を、道長は我が子と知らずに愛でるシーンなどもあり、なかなかに壮絶。

そこからさらにストーリーを膨らませ、二人の妻を愛でながらも、式部に対しては知恵者として政にも深く関わらせるなど、「男女の仲を超えた絶対的な信頼感」を抱く道長像が描かれている。また式部を目視した際の動揺するまなざしなど、理性で制御できない想いを式部に持っていた道長像は、柄本佑の演技力も相まって、かなり高感度爆上げ状態なのである。

正直、教科書で習った「藤原道長」の印象は、一族の繁栄を画策し、摂関政治の全盛期を築いた強欲なおじさんという感じではなかろうか。
その諸悪の根源は、おそらくこの有名な短歌にある。

この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば

「この世で自分の思うようにならないものはない。満月に欠けるもののないように、すべてが満足にそろっている」…そんな傍若無人な解釈として習った記憶が確かにある。
しかし、最近では、道長はそんなオラオラ状態にはいなかったとされている。
というあたりが、きっとこの後の大河でも描かれるのではないかと思っているので、そこは終わってからまた考察したいので割愛。

という具合に、歴史的事実に基づきつつ、「●●だったなら?」といういくつものifストーリーが絡み合う今年の大河。

歴史にifを持ち込むリスクはあるけれど、大石静はこのシナリオを見事に成功させている、と思う。特に、単なる恋愛に留まらず、知性と才能を尊重し合う深みのある描写が、視聴者にリアルを感じさせている。

3. 現代女性にリンクする「賢い女性」像

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