「思考プロセス」と子供の教育について④子供と大人はどう違うか
こんにちは、ゴール・システム・コンサルティング&リ・デザイン研究所です。ゴール・システム・コンサルティング代表取締役村上悟による、TOCの基本スキル「思考プロセス」と子供の教育に関するコラムの4回目をお届けします。TOC(制約理論)や、教育のためのTOCに興味がある方、ぜひご覧ください!
前回は、そもそもTOCfEは対象としているのが子供の教育であり、大人と子供の問題解決にはそれぞれのやり方があるので、その体系(順番)もそれぞれ違うはずであるというお話をしました。今回は、fEスキルはどういった考え方で体系が作られていったのか、オリジナルの思考プロセスとどう違い、それは何故なのかを子供の発達と成長という視点を交えて考えてみたいと思います。
まずfEとジョナスキルの外形的な違いについて整理してみましょう。使うツールですが、オリジナルとも言うべきジョナスキルでは、以下の5つのツリーを順番に使いながら、現実の複雑な問題に対して「何を・何に・どのように」変えるかという一連の手順を踏んで問題解決を行っていきます。
ジョナスキルの5ツリー
・クラウド
・CRT(現状ツリー)
・FRT(未来ツリー)
・PRT(前提条件ツリー)
・TrT(移行ツリー)
これに対して、fEスキルはジョナスキルをベースに以下の3つの異なる状況で、それぞれを単独使用する事を想定して体系がまとめられています。
TOCfEの3つのツール
1)ブランチを使って「結果を想定する」
2)クラウドを使って「対立の構造を明確にして、ウィンウィンの解決策を見つける」
3)ATT(アンビシャスターゲットツリー)を使って「目標を達成するステップ化されたアクションを抽出する」
ですから双方に共通のツールである「クラウド」も、ジョナスキルはUDE(好ましくない事象:問題)を明確に定義し、そのUDE(問題)を引き起こしたジレンマを見つけるために作成しますが、fEでは実際の問題解決を優先するために「二つの意見の対立」を直接クラウドとして作ってゆくというように違いがあります。論理検証のためのルールであるCLR(Categories of Legitimate Reservation)も、ジョナスキルでは7つであるのに対して、fEでは4つ(あいまいさ、妥当性、因果関係、原因不足)ですし、因果関係や必要条件の活用の仕方に関しても若干の違いがあります。
こうしてみるとfEツールはジョナスキルをシンプルにして、単独で使用できるようにアレンジしたもの、という印象を受けますが、実はそれだけではないのです。ジョナスキルが「何を・何に・どのように」という問題解決の手順を踏むために「現在・過去・未来」という時制を使い分けるのと異なり、fEの3つのツールに共通するのは「起点が今」であるという事なのです。
このようなfEの特徴は何故なのでしょうか?子供の発達と成長という視点から考えると「なるほど」と納得させられます。子供は成長の過程で、周囲の環境と自らの経験を通じ身体、情緒、知育や社会性などを身につけてゆきます。幼い子供は視点が短く目の前の事象に強く囚われるといいます。時間や空間、人間を認識する力にも未だ乏しいのです。
例えば1~2歳児の時間の認識は、過去は「さっき」であり、未来は「つぎ」というように、「現在(今)」に近いところから始まり、次に「昨日」とか「明日」というように順々に時間軸を伸ばして発達してゆきます。その過程は空間認識を拡げる過程でもあり、対人関係も自分と相手という一対一の概念から複数、そして集団へと発達してゆきます。
また、認識対象との関係性も様々な事柄を、最初は絶対的(固定的)な視点で捉えますが、発達に伴いだんだんと相対的に認識をしてゆくようになるといいます。例えば「今日」は今日ですが、明日になれば「昨日」、「明日」は明日になれば「今日」であるというように、時間の流れの中で今自分がどこにいるかをキチンと相対的に把握して時間認識することは容易ではありません。この相対的時間認識は小学校の低学年になってようやく獲得されるといいます。
このように子供は成長、発達に伴い、自分の目前(今)から時空間の認識(視野)を広げ、認識力を高め、自己探求や他者との関わりを深めていきますが、こうした事柄を処理する能力を発達科学では「実行機能」と言うのだそうです。「事柄を処理する」とは、ある目標に向かって行動や思考を制御する能力の事を指し、この能力を高めるためには心の柔軟性や頭を切り替える能力を高める事が重要であり、そのためには発達段階にふさわしい生活や活動を十分に経験することが極めて重要だといいます。
大人と子供の実行機能の差については、以下の、幼児の認知発達を研究している教員の方のブログ記事が参考になります。
この記事によると、行動や思考を制御するためには、ある程度事前に準備が必要ということです。我々(大人)は、目標を設定すると、それに到達するために事前に準備をし、円滑に行動や思考の制御ができます。このような事前に準備をするタイプの実行機能の認知過程を"proactive control"と言い、大人にはそれが可能です。しかし子ども(3~5才程度)が不得手なのが、この「事前の準備」だそうです。
具体的にどう違うのかというと、大人が時間空間の認識能力を駆使して、事前に想定される事象を事前に準備するのに対し、子どもは事前準備が出来ないので、事態が進展した後に場当たり的、回顧的に対処することになるそうです。
つまり、子供が「考える事」とは、知識と行動を結びつける方法を獲得してゆく(知る)ことだといえるのではないでしょうか。そして知識と行動を結びつけるカギは「予測能力」であり、それが実行機能を高めるという事なのだと思います。そして予測とは、「因果を繋ぐこと」とも考える事が出来ます。
ですからfEツール学習の第一歩は、必然的にブランチを使って「もしも(If)なら~である(Then)」という予測(因果)を学習する事なのだと思うのです。子供の発達過程を考えれば、ブランチの起点をはっきりさせず、どこから因果を繋いでいっても良いという「学ばせ方」も当然の事と言えるでしょう。
次回は引き続き、子供の実行機能の発達段階とfE3つのツールの成り立ちと順番を考えてゆきましょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。次回は、年が明けてからの掲載予定です。2021年、多くの方に本noteをご覧いただき、大変ありがとうございました。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。
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