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組織改革のためのTOC(制約理論)、決め手は「UDE」(TOC制約を科学する⑥第3部-2:TOC思考プロセスを活用した組織改革)

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングです。代表取締役村上悟のTOC(制約理論)についての連載「制約を科学する」6回目をお届けします。TOCの基本から始まり、制約とは何かを深く考察するシリーズになっています。今回は「TOC思考プロセス」を組織改革に活用する上で、決め手ともいえる「UDE(ウーディー、望ましくない事象)」を理解していきます。

▼これまでの連載は、村上のマガジンからご覧いただけます。

これまで、フロー・システムの中で制約がどう振る舞うかという「挙動」と、どのように改善して「徹底活用」できるかという、制約の徹底活用の具体的な方法について詳しく説明してきました。ここからは、人間組織の中で「制約」をどのように徹底活用するかについて具体的に考えてゆきます。

ここからは「TOC思考プロセス」の考え方に入っていきますが、今回は、TOC思考プロセスで最初に出てくる「UDE(ウーディー)」について考えます。

※TOC思考プロセスについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。


UDEを正しく抽出する

ここからはUDE(Un-Desirable Effect、ウーディー)の見つけ方と正しい表現方法について確認しておきましょう。

UDEは、直訳すると「望ましくない事実」という意味合いですが、私はかつてゴールドラット博士本人から、UDEは一般的な「問題(Problem)」の定義と同じだが、その中で具体的に目に見える具体的な事象(Effect)の事で、UDEの因果を辿ってゆく分析はトヨタの「なぜなぜ分析」と同じ考え(Logic)だと直接教えてもらいました。

TOC思考プロセスが教える手順では、まずUDEを抽出し、そこからクラウドを作成します。UDEを抽出する事も含めて、TOC思考プロセスでは、CLR(Categories of Legitimate Reservation)と呼ばれるガイドラインが作られています。

※CLRについて詳しくはこちらをご覧ください。

UDEの表現に関連するものは具体的に下記の2項目が該当します。

(1)    意味の明瞭性(言っていることが具体的に理解できるか)
(2)    実体(事実)が存在するか(そのUDEは事実であるか)

簡単に言えば「問題を明確に表現して、現状が分かるように把握する」という事ですが、実際には、これらのガイドラインを複合的に使って、実際に起きている様々な症状をUDEとして抽出してゆきます。そして、実際にやってみるとUDEの抽出は簡単な作業ではないのです。

トヨタ流の問題解決には、明確な原則である「三現主義」があります。これは、現地で現物を手に取って、現実に即して考えるということ、もっと具体的に言えば「想い」ではなく「数字」で捉える事です。例えば、クレーム数や不良率、作業時間のバラツキ、売上の増減、利益率の変動など、「数字」 に異常があれば問題が発生している証拠になります。「想い」や「感覚」だけで捉えた事象は、そこに解決すべき問題があるとはかぎりません。

一方で、TOCICOが発行するTOCハンドブックに記載されているUDE(問題)の定義は、

(1)  システムのパフォーマンスに悪影響を及ぼしている
(2)  長期間(少なくとも数ヶ月)存在している
(3)  解決へのアプローチが困難で、極めて悩ましい

というもので、トヨタの「三現主義」と「定量化」とは異なり、TOC思考プロセスのUDE表現の「緩さ」が目立つような気がします。実際に使うにあたって、トヨタの「なぜなぜ分析」は定量的なデータを扱い、TOC思考プロセスは言語情報を扱う手法、と分かれている訳ではありませんから、この違いは気になります。

現にゴールドラット博士は、自身が開発した「TOC思考プロセス」と「トヨタのなぜなぜ分析」について、問題(UDE)を発生させている、真の原因(真因)を、因果関係的に辿って突き止めるという発想は基本的に同じものだと教えています。

「TOC思考プロセス」は、UDEを抽出した後に、その背後にあるコンフリクトをクラウド(対立解消図)の形で分析をすることに特徴があります。このため、三現主義で悪さ加減を数値化するアプローチだけでなく、定性的な表現でUDEを表現しなければならない場合もあり、UDEの方が、トヨタの三現主義よりも、表現として多少甘めになる事があるようです。

しかし、本来のUDEは、企業や組織の業績に悪影響を与えている、実体が明瞭で定量的に定義できる「症状」と考えてほしいのです。具体的に数値化することで、どれだけ改善できたかを数値で実感することができるようになりますし、慢性的で、重層的に存在する多くの問題(UDEs)の真の原因に辿り着くことも、さらに容易になると思うのです。 

UDEを事実実体として的確に抽出できるかどうかが、その先のTOC思考プロセスのクオリティ、つまり、そこで取り組む問題解決の品質そのものに関わってきます。「UDEを(想いや感覚ではなく)事実実体として捉えること」は、何回言っても足りないぐらい大切です。

目の前のジレンマを解消するTOCと、組織改革に使うTOCを使い分ける

日本では「教育のためのTOC」の活動が、ビジネスパーソンの問題解決手法として普及したこともあって、TOC思考プロセスを使われる方々は、年々増えています。

「教育のためのTOC」で教わるクラウドは、基本的に行動Dと行動D’の対立から書いていきますので、UDEについては取り扱いません。このため、いま日本でTOCを活用している方の多くが、クラウドについては目の前のジレンマや対立を解消するために使っているのだろうと思います。

クラウド(対立解消図)の例

これら、目の前の対立を解消するためにクラウドなどのTOC思考プロセスのツールを適用することと、組織改革のためにTOC思考プロセスを活用することは、明確に使い分ける必要があります。

たとえば、「部下に仕事を任せるか、自分でやるか」といった日々のジレンマをクラウドを使って整理するといった場合には、単独のクラウドも役に立ちます。しかし、組織の改革活動に思考プロセスを活用する場合、単独のクラウドを書いてジレンマを解消するというような手順では多くの場合上手くいかない事が多いのも事実です。

組織を改革する時には、変化が及ぼす影響も大きく、関係者も多くなります。より良い改革に結び付けるには、より構造的、体系的な理解に基づいたアプローチが必要になるのです。「制約(ボトルネック)」の振る舞いを理解した上で、どうやって徹底的に活用するかという文脈の中に位置付けてクラウドやジレンマを扱うことが本当に大切だと思います。

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