起こらない「はず」は必ず起こる
こんにちは、ゴールシステムコンサルティングの村上悟です。
前回はコンサルタントとして重要な「疑うこと」と「知ること」、「信じること」について考えてきました。今回からは、この激しい環境変化に対応するための科学的な「論の立て方」と「検証の仕方」を考えてゆきます。具体的にフォードシステムを築き上げたヘンリーフォード、TPSを構築した大野耐一、TOCを開発したE・ゴールドラットという三人の巨人を例に上げて、その時代背景と環境変化を考えながら、三人の巨人がどのように生産システムを進化させていったかについてシリーズで考えてゆきます。
最近、新聞や雑誌などで、「VUCA (ブーカ) 」という言葉をよく見かけます。VUCAとは、「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ったもので、あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が非常に困難な状態にある事を指しており、今日を表すキーワードとして注目されています。このような「不確実や想定外」と言われる領域の問題は、1990年代に入って大きくクローズアップされてきました。バブルが崩壊し、これまで安定の象徴であった巨大企業や金融機関の破綻や合併が相次ぎ、我々は見たこともない光景にショックを受けました。また2001年の9.11テロ事件では世界貿易センタービルが崩壊、2007年のサブプライム問題に続いて、08年にはリーマンショックが起こり世界中が大激震に見舞われました。そして極めつけは、2011年の東日本大震災、私たちは「想定外」の地震や津波、原発安全神話の崩壊などの「災厄」をイヤと言うほど経験してきたのです。今日「未曾有」や「想定外」、「100年に一度」などという言葉を「かつてない」ほど耳にしますが、こういった、未曾有や想定外の事象は本当に「未曾有で想定外」なのでしょうか。
起こらない「はず」は必ず起こる、これは歴史の教えです。10年ほど前、ベストセラーとなった『ブラック・スワン』でナシーム・タレブ氏はこう主張します。「白鳥」はすべて白いという常識が17世紀にオーストラリアで黒い白鳥(黒鳥)が発見されて覆ったように、我々が常識や当たり前と思っている状況を逸脱し、予測の範疇を超えた不確実なことは頻繁に起こるのだと。そもそも「知性」なんてものも当てにならないし、「思い込み」に過ぎない、こういった常識や通念、思い込みといったものに囚われすぎることの方が、害が大きいのだと。
そして、その理由として「ヒトは賢いからこそ間違いを犯すのだ、思い込みに囚われていることで、問題が発生していることにすら気づかない。そして多くの場合、後付けでさも分かったように答えるだけだ」とタレブ氏は厳しく指摘します。そして、今この時に現在進行形で起きていることに対しては「ヒトはなーんもわかってない」し、「物事は予測や理屈の領域の“外側”で起こっている」ということ。そして極めつけは「私たちは学ばないということを自然とは学ばない」と切り捨てます。
このタレブ氏の主張、私たちはものづくりの世界でどのように捉えれば良いのでしょうか。明らかなのは、現場にも「想定外」や「不確実」の嵐が押し寄せており、私たちの仕事が大きな変化にさらされていることなのです。実は、製造業の「ものづくり」マネジメントは、様々な変化やリスク、不確実性との戦いの歴史でした。この連載では、このVUCA時代のものづくり経営のあり方を、フォードの同期生産方式から、トヨタのTPS(TOYOTA Production System)、TOC(Theory of Constraint:制約理論)といったオペレーション・マネジメント(管理技術)の進化の歴史を辿りながら、今日の環境変化を踏まえた進化と革新の方向性について考えてみたいと思います。
このVUCAがものづくりの世界に与えている影響は単純ではありません。VUCAがそれぞれにものづくりの現場に異なった影響を及ぼしています。それを読み解くためにはものづくりの歴史を紐解きながら慎重に検討してゆく必要があります。VUCAは今日をあらわすキーワードですが、単なる流行語ではなく実は我々が対応しなければならない要素が凝縮されています。その大きな変化は、ものづくりの世界だけではなく、大規模なプロジェクトやシステム開発などの「分業」の世界に押し寄せており、どうコントロールするかは、このVUCAにどう対応するかがカギとなっており、競争優位の帰趨を決めるとも言えるのです。
「人間は学ばない事を学ばない」タレブ氏のこの言葉、私にはことさら日本人に当てはまるように思えます、何故そうなのか順番に見てゆきましょう。
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