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TOC、ゴールドラット博士の挑戦
前回のnoteでは、トヨタ生産方式を構築した大野耐一氏を紹介しましたが、今回は「日本に学べ」という「リーン生産方式」ブームの中で、イスラエル出身の物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士(Eliyahu M Goldratt, 1948年- 2011年)のアプローチを紹介しましょう。
※これまでの連載は、以下の村上マガジンからご覧いただけます。
80年代の後半、ゴールドラット博士はTOC(Theory Of Constraints:制約理論)という一見風変わりな理論を主張し一躍時の人となります。リーン生産が日本の製造業の秘密兵器であったとしたら、TOCという手法はアメリカ製造業が日本企業に追いつくための秘密兵器だったともいえるかもしれません。
TOCの始まりは、1970年代後半でした。イスラエルで物理学の研究をしていた博士のもとに、工場を経営していた友人が生産スケジュールの問題を持ち込んできたのです。博士はこの問題に、いくつかの独創的な発想を入れることで、それまでとは違う生産スケジューリングの手法を開発しました。ゴールドラット博士はそれから生産の問題に強い興味を持ち、この手法をさらに進展させて画期的な生産スケジューリングのソフトウェアのアルゴリズムを開発しました。そしてそのソフトウェアを販売するための会社を米国に設立して、自ら会長の座につきました。そのソフトウェアはOPT(Optimized Production Technology)と呼ばれ、一躍世間の注目を集めたのです。
OPTのアルゴリズムは企業秘密を理由に一切公開されなかったため、OPTは神秘のベールにつつまれていました。しかし導入ユーザーからは設備投資を全くしないのに工場の売上が増え、仕掛かりが大幅に減ったといった報告が相次ぎ、OPTは自動車産業を中心に大手企業に順調に売れました。さらに博士はOPTの背後にある考え方を小説の形にまとめて出版することを思い立ち「ザ・ゴール」という小説を出版します。ベストセラーとなった小説は思わぬ効果を生み出す事となります。
一部の読者からはOPTを導入しなくても、この小説通りに改善を実行したところ大変な効果が出たという反応がありました。そこで博士は「ザ・ゴール」に描いた、ものづくりのオペレーション・マネジメント(管理技術)の世界を開拓して、継続的改善(Process of On Going Improvement)という活動に広げる方がはるかに大きな成果が出ることに気づきこれをTOCと名付けて普及していったのです。その後「ザ・ゴール」に続き「ザ・ゴール2」「クリティカルチェーン」など、多くのビジネス小説を発表し、クリティカルチェーンと呼ばれるプロジェクトマネジメント手法(CCPM)や、アンリフューザブルオファー(URO)という提案手法など、ビジネスにおける新しい理論を次々と生み出しました。実はこのTOC理論、大野氏らが築き上げてきた「フロー」の原理を研究し尽くして生まれた、進化版の考え方だったのです。
ゴールドラット博士の着眼は大野氏がトヨタ生産方式を構築した時代とは異なる、「安定しない環境」でフローの概念をどのように適用してゆくかでした。
博士はTPSの抱える問題について、
⇒TPSの適用は比較的安定した環境に限られる
⇒多くの企業は現在の環境では不安定さに苦しんでいる
そして不安定な環境では、フローの改善により得られる成果も安定的な環境のそれよりもっと大きいとし、不安定な環境に対応できない企業は、多額の儲けそこない(ロストプロフィット)を内在しており生産フローの改善によって利益を劇的に増やすことが可能であると主張したのです。
その上で、TPSが効果を発揮するためには「製品需要」、「生産プロセス」、「工場負荷」という三つの「安定」が必要で、それが確保できない環境でも適用できる具体的な方法論が必要だと述べたのです。
博士は2008年に週刊ダイヤモンドに寄稿した「Standing on the shoulders of Giants (邦題:巨人の肩の上に立って) 」中で、TOC手法とそれに先立つフォードシステム、TPSとの関わりを論じ、オペレーション・マネジメントの進化を明らかにしたのです。
その中で、自身が開発したTOCの手法体系がフォード、トヨタの基本概念を応用したものである事を明らかにし、この基本概念は、フォードから大野耐一(トヨタ)、ゴールドラット(TOC)と100年以上の長きにわたって受け継がれ、何も変わっていないことを具体的に説明しました。それによれば、フォード、トヨタ、TOCが共通して追い求めた「目的」は、次の「四つの根本概念(Fundamental Concept)」に集約されるとしています。
フロー(リードタイムと同等)を良くすることがオペレーションの根本的な目標(Fundamental Concept)である
この根本的な目標は、(作り過ぎを防ぐため)いつ生産してはいけないかオペレーションをガイドする現実的なメカニズムが必要である
部分的な効率追求は無視されなくてはならない
フローをバランスさせるための集中プロセスがなくてはならない
このようにものづくりの流れを作るための技術は、先人の業績の上に立って徐々に進化してきたのです。次回はこれらの流れを作るための、「オペレーションマネジメント技術」について考えてみます。
ここまでご覧いただきありがとうございました!2024年のGSCのnoteは今回が最後です。本年もご覧いただきありがとうございました。どうぞ皆様良いお年をお迎えください。
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