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ベトナム、路上飯のススメ

ベトナム料理の真髄は、間違いなく路上の屋台にある。
観光ガイドに載ってるような小奇麗な店じゃない。
埃まみれの道端で、半裸のおっさんが切り盛りしてるような、そんな場所こそが真のベトナム料理を味わえる場所なんだ。

僕が今住んでいるのは、ベトナム南部の地方都市。日本とは違って、こっちでは外食が当たり前だ。街中どこを歩いても、小さな食堂や屋台がそこかしこにあって、それが日常だ。だから毎食、ローカルフードを食べている。
低いカラフルなプラスチック椅子に腰掛けて、銀色の折りたたみテーブルで麺を啜る。それだけで、もう十分だ。
とにかく、うまい。肉も野菜も新鮮で、店によって味が全然違う。
どの店も独自のこだわりがあって、それが面白い。
たまには日本のラーメンや寿司が恋しくなることもあるけど、本場のベトナム料理はかなり魅力的である。

ベトナムの連中は、なんだかんだ言って味にうるさい。客の評判が悪ければ、その店はすぐに潰れてしまう。
だからこそ、店主たちは毎日改良を重ね、より美味いものを作ろうと必死だ。
この間、用があってホーチミンに行ってきた。人口990万人の大都会だ。僕が住んでいる人口16万人の街とは比べものにならない。何でも揃ってて、街も明るい。
都会に来ると、つい気取ってしまうものだ。普段はヤモリが壁に這ってるような食堂や、誰かが食い散らかした骨付き肉の残骸が足元に転がってるような屋台で満足してるくせに、今回はミシュランガイドの店に足を運んでみた。
店はきれいで、落ち着いているがベトナム南部らしさを感じさせるインテリアだ。
名物のバインセオを頼んだ。ベトナム風のお好み焼きみたいなもので、僕のお気に入りの一品だ。

バインセオ 米粉の生地に色々挟んで食べる

料理が運ばれてきたとき、その盛り付けの美しさに思わず見とれた。食器までこだわっている。一口食べると、確かにうまい。間違いなく、これまで食べた中で一番美味いバインセオだ。

でも、何かが違う。
店を出たあと、違和感の正体に気づいた。
あのバインセオは、世界中のどんな観光客にも「美味しい」と思わせる味だった。雑味がない。まるで、ノイズをすべて取り除いたかのような完成された味だ。

だが、僕が普段屋台で食べるバインセオはもっと雑だった。妙な香りがして、見たこともない謎の草が混ざってたりする。でも、それが良かったんだ。ノイズがあってこそ、その料理に個性が生まれる。
食事ってのは、ただ美味いだけじゃダメだ。ノイズや歪みこそが、その料理を豊かにする。
僕は、シンプルな醤油ラーメンも好きだけど、獣臭い豚骨ラーメンの方がもっと好きだ。
完璧さなんて、所詮は教科書通りの「優等生」みたいなもので、面白くない。ミシュランの星は味やサービスに対する保証でしかない。掲げられた称号に惑わされて本質を見失ってはならない。

僕らはうまいものが食いたいのだ。

だから、もしベトナムに来ることがあったら、ぜひ地元の人が集まってるような屋台に行ってみて欲しい。強いて言うなら、半裸のおっさんが群がってるような店がいい。そこにこそベトナム料理の本質を掴むキッカケが隠れてるからだ。

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