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緊急手術録 inベトナム

ベトナムに住み始めて2ヶ月目、僕は腹を壊していた。先日食べた貝にやられたらしい。で、病院へ行く。
思ったより丁寧な診察だった。血液検査にエコー、脱水の可能性があるってことで点滴まで打ってくれる。
診断結果は食中毒。まあ、そうだろう。

トイレに1時間に1回駆け込む生活が1週間。投薬の甲斐あって、ようやく腹が治る。ホッとしたのも束の間
今度は尻が痛い。
ああ、食中毒で酷使したせいか、と最初は思ってたんだが、日に日に痛みが増していく。ついには痛みで動けなくなった。
嫁に「病院へ連れてってくれ」と泣きを入れる。
嫁の愛車、YAMAHA PG-1の後部座席に跨る。YAMAHA製のショートストロークエンジン、悪路を走り抜けるための16インチホイール、ブロックタイヤ
尻に響く衝撃。15分間の地獄だ。

YAMAHA PG-1 超かっこいいバイク

病院到着。診察台に上がり、パンツ脱いで横たわる。医者が診察を始め、ベトナム語で色々言ってるが、僕にはチンプンカンプン。嫁が通訳してくれている。嫁の顔を見ればわかる、どうやら重症らしい。

「痔です」と嫁が言う。まあ、尻が痛いんだから痔だろう、とは覚悟してた。

だが次の言葉に僕は固まる。
「今から手術をします」。
そんな覚悟はできてなかった。なんでもステージ4だっていう。最悪の痔らしい。
「待て待て、僕が外国人だからって、手術代をふんだくろうとしてないか?」と疑念が浮かぶ。嫁が続けて医者の話を訳す。

「この痔、10年モノです。たぶん食中毒で悪化して出てきたんでしょう」

10年モノ…思い当たる節はある。脱サラしてベトナムに来たけど、それまでのサラリーマン時代は座りっぱなし。デスクワーク、運転、会議、商談、全部座りっぱなしで、しかもストレスフルだ。痔になるには充分だろう。

これはサラリーマン時代の怨嗟の結晶だ。
早く切り離さなければ、そんな気持ちが芽生える。
「お医者様、切り離してくれ」とお願いする。

診察台の上で直ぐに手術準備が始まる。
看護師がやってきて、尻を綺麗に清掃する。「手術の邪魔になるので尻の毛を剃る」とのこと。もう好きにしてくれ。剃られてる最中に、別の看護師が駆け込んできて「お会計を」と催促。クレジットカードで決済。尻の毛を剃られながら。だいたい18万円だ。ケツの毛まで毟られるってのはこういうことだな。

手術開始。極太の注射が尻に突き刺さる。
痛い!と叫ぶ。
「イタイ?イタイって何?どういう意味?」と医者が聞いてくる。
「Đau!痛いはĐau!」と叫ぶと、
「あ~なるほど~」と納得してる顔だ。
麻酔が効いてきて、だんだん冷静になると、言葉の通じない手術が不安になってくる。
ここはベトナムだ。発展途上国だ。医療のレベルは大丈夫か?合併症は?…頭の中で色んな考えがぐるぐる回り、泣きそうな顔をしていると、嫁が「手術終わったよ」と教えてくれる。

ふと医者の方を見ると、切り取った肉片を見せてくる。僕は不安を隠そうとして「それ、Made in Japanですよ」と冗談を言ってみた。
ウケた。僕の勝ちだ。

手術はあっという間に終わり、抗生物質の点滴を受け、大量の薬をもらって帰宅。1週間ほど毎日通院して点滴しなければならないらしい。衛生状態が良くない前提だからこそ、徹底的な治療をしてくれるようだ。しっかりしてる。

総額でかかった費用は、
だいたい22万円。僕は無保険だった。

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