ムッシュ・カステラの恋
自分のほしいものやいっしょにいたい人、心地よい場所。幼いころに発見する人もいれば、一生分からない人もきっといる。財も地位も築いた、いい大人になってから気がつくことだって珍しくはない。ちょうどこの映画のムッシュ・カステラのように。
タイトルの通り、ムッシュ・カステラは恋をする。妻帯者で父親。企業の経営者で、いつでもボディーガードと運転手を伴うような身分の彼。それでもすとんと舞い降りてきた恋に素直に向き合い、ごまかしたり逃げたりしない。とってもいい人なのだけれど、不器用で、かっこ悪くて、芸術的センスもない彼の恋う相手は舞台女優。臆せず彼女の世界に飛び込んでいくが、彼女の周囲の人間に馬鹿にされてばかり。彼女の心を掴みたくて、ムッシュ・カステラはすごくがんばる。がんばった結果、彼は徐々に変わっていく。恋をする前までは、会社でも家でも「選ぶ」ことをしないで済ませてきたが、恋をきっかけに、自分のほしいものが何か、いっしょにいたい人が誰かがだんだん明確になってくる。
ムッシュ・カステラ以外の登場人物にまつわるエピソードを通じて、いろいろな人間関係の在り方を見せつつも全体的に重たいところのない、さらっとした楽しいストーリー。
ちょっと勇気が必要かもしれないけれど、もっとちゃんと人と向き合ってみれば、きっといいことがありますよ。全体を通じて、そう語りかけられているような気がした。