読書感想文:チャリング・クロス街84番地

編者のヘレーンさんはNY在住の脚本家ということで、当初はうっかりクールな都会女性をイメージしたけれど、読み進めていくうちに全然違う気がしてきた。多分この人、気さくで世話好きな下町のおばちゃん的な人なんじゃないか。
だってヘレーンさん、「そっちは食品不足と聞いたから」というだけの理由で会ったこともない海の向こうの古本屋さんに肉やら卵やらの食べ物の小包を(頼まれてもないのに)じゃんじゃん送るのである。食料だけじゃなく、たとえばストッキングがないと聞けば「あらやだ!」とばかりにバタバタ手配しちゃったりする様子はまるで実家のお母さん。しかもこの支援物資、本屋さんとの3度目くらいのやり取りくらいからいきなり始まるので、ちょっとびっくりする。確かに古書店は古本マニアのヘレーンさんの眼鏡に叶う本を納品して彼女を喜ばせてはいるのだけれど。

 時は第二次世界大戦直後、古書店のあるイギリスでは本当に食料品が不足していたようで、アメリカからの支援物資は古書店メンバーを大いに救う。へレーンさんの手紙にはユーモアと愛が溢れていて、担当者だけでなく古書店の全従業員とその家族、近所のおばあさんまでもがヘレーンさんのファンになる。彼らは言葉を尽くして感謝の気持ちを伝えながら、どうか恩返しをさせて欲しいと彼女のイギリス訪問を切望する。
本書は古書店メンバーとヘレーンさんの20年分の往復書簡集だ。実際の手紙をそのまま、それだけ。増補版にはへレーンさんによるエッセイが載っていて、本書がどれだけ話題になったか、その余波でどれだけ面白い事件が起こったかが彼女の名調子で綴られている。
で、結局、この人たちは実際会えたのか、どうなのか。
その辺にも、へレーンさんの不思議さや一筋縄ではいかない感じが現れていて興味深かったです。とてもとても素敵な本で、タイパやらコスパやら効率やらに疲れちゃった心に沁みます。おすすめです。

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