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四 道友は、新聞に出たS教授の顔写真をとくと見た。白髪、額の広い聡明そうな顔つきであ…
第四章 歳月は流水の如く 一 一週のうち、金曜日と土曜日が喜多川道友の指定した稽古日で…
四 柏木幾三によると、水道屋の親父は出水の因を突きとめかねて、 ──無徳君を呼んで…
第三章 出会い 一 喜多川道友は古稀を迎えた。道友の父母は、七男…
四 沈黙の時がしばらく流れた。俊雄は会うことのなかった喜多川道朋を想い、無明は一度だ…
四 ありがたいことに、無明は酒が入っても乱れなかった。口の利き方は相変わらずであった…
第一章 函館の古刹 一 唄口の形状からして、琴古流の尺八であることは間違いない。俊雄はその尺八を翳し、外も内部もじっくり検めた。自分の尺八よりもやや重く、黒光りを放つ。見るからに風格があった。 「これだけ艶が出ているとなると、明治期からのものかな。逸品だ」 大いに気に入った。俊雄の声の調子にそれが現われた。 「もっと前からのものと聞いております」 仙閣堂楽器店の主人は、かすかに笑みを見せて答えた。愛想笑いをする人ではない。約束を果たして、ほっとして