「ナッジあるある」10~6位:そもそも違和感ないですか?
※このnoteはインターネットラジオVOICY「ドクター紅と竹林の土曜の行動経済学」(2020年4月4日放送)の内容をベースに書き下ろしたものです。
登場人物 ドクター紅(くれない):ナッジの魅力に気付いた公衆衛生医師。竹林博士:ナッジの面白さを伝えるのが大好きな研究者。
【竹林博士のDVD出版記念パーティーが延期になりましたが】
紅:皆さん、こんにちは。竹林博士のDVD、先週発売になりましたが、出版記念パーティーが無期延期になったそうですね。
竹林:そうなんですよ。こればかりは仕方ないですね。コロナ騒動が落ち着いたら、読書の皆様もお呼びして、盛大にパーティーやりたいですね。
紅:推薦の言葉を書いてくださった10人の先生方も呼びましょう!でも、この推薦の言葉、面白いですね。大阪大学の大竹文雄先生が「竹林さんのプレゼンの面白さとわかりやすさは行動経済学会NO.1!」と持ち上げた後に、弁護士の小島健一先生が「竹林先生の放つ津軽弁ナッジは誘導尋問よりも悪魔的だ!」と突き落とす。この流れがいいですね。
竹林:尊敬する先生たちからの言葉、嬉しいですね。嬉しいと言えば、先日久しぶりに古い友人から連絡が来ました。経済学の話でずっと盛り上がりました。
紅:景気対策の話でもしたんですか?
竹林:ナッジあるあるの話をしました。
紅:ナッジあるあるですか?
竹林:ええ。初めてナッジを学んだ頃の自分に戻って、大喜利しました。
【第10位は、皆が最初に覚えるあの説明】
竹林:まず10位は…
紅:ランキング形式なんですか?
竹林:雑多なものに優先順位をつけたくなるのは経済学研究者の本能かもしれないですね。では10位「ナッジを"ひじで軽くつつく"と紹介されると逆にわからなくなる。」
紅:竹林博士はナッジを"心をやさしく刺激する"って紹介しますよね?
竹林:ひじで軽く突くって言われても、すぐにイメージがわかないですよね。
紅:確かに、日常でひじで突っつく場面ってあまりないですね。
【第9位 そもそもこの名前】
竹林:第9位は「行動経済学と言いながらも、行動よりも心理に注目した学問では?と突っ込みたくなる。」
紅:どういうことでしょう?
竹林:バイアスとかトランスセオリティカルモデルとか、心の内面を分析する学問なのにもかかわらず、行動を前面に出したネーミングに違和感を覚えませんか?
紅:言われるとそうですね。
竹林:行動経済学は以前、経済心理学とも呼ばれていました。紅先生も口では行動経済学と言っても、頭の中では「経済心理学」と変換するとしっくりくるかもしれませんね。
紅:なるほど。それにしても学術的なネーミングに突っ込むのも竹林博士らしいですね。
【第8位 ナイーブな人ですねって言われて嬉しいですか?】
竹林:さて、第8位は「経済学用語の意味が一般的用法と結構違う」です。例えば「紅先生はナイーブな人ですね」って言われたら、どう感じますか?
紅:純情な感じってことですよね。嬉しいです。
竹林:経済学では、ナイーブな人は双曲割引的な人、簡単に言えば「計画倒れする割に、それを自覚できていない人」という意味です。
紅:それだと嬉しくないですね。
竹林:だから、専門外の人と話すときは、できる限りシンプルな言葉に置き換えないとすれ違いが生じます。アインシュタインは「物事はできるかぎりシンプルにすべきだ。しかし、シンプルすぎてもいけない。」という名言を残しましたが、このバランスが実に難しいのです。
【第7位 行動経済学者のセンスが絶妙な件】
竹林:第7位は「行動経済学用語のネーミングセンスが面白い」です。紅先生も経済学用語に独特のセンスを感じませんか?
紅:以前、この番組でも取り上げた、IKEA効果は面白い名前でしたね。
竹林:さらに「どうにでもなれ効果」なんてのもどうですか?
紅:ひどい名前ですね(笑)。
竹林:ほかにも「自信過剰バイアス」もなかなかパンチの効いたネーミングだと思いませんか?
紅:「君は自信過剰バイアスが強いなぁ」だなんて言われたくないですね(笑)。
紅:面白いネーミングといえば、竹林博士が講演会でよく紹介する本、「自滅する選択」が破壊力ある名前だと思います。
竹林:これは行動経済学会の会長も務めた池田新介先生の名著ですね。
紅:どんな本なのですか?
竹林:喫煙行動を例にすると、将来健康被害で苦しむのがわかっているのに、目の前の小さな快楽に負けて1本吸ってしまう、そんな人間の行動を「自滅する選択」と表現し、心理的葛藤を経済学的に分析する本です。
紅:深いですね。
竹林:さて、ここまで出てきた言葉を使って文章にすると、こんな感じになります。「自信過剰バイアスの強い、ナイーブな相手が自滅する選択をヘッジするため、選択的アーキテクチャーとして禁煙をコミットメントする介入」
紅:なんだか読む気持ちがなくなる文章ですね。
竹林:やはりシンプルに伝えるのが大切ですね。
【第6位 行動経済学と言えば、あの番組】
竹林:第6位は「行動経済学のことは、オイコノミアで初めて知った」です。
紅:Eテレでやっていた番組ですよね。
竹林:そう。2012年から2018年まで続いて、お笑い芸人の又吉さんと大竹先生を始めとする講師の先生が行動経済学を楽しく紹介する番組でした。
紅:竹林博士もSNSでオイコノミアを告知しまくってましたよね。
竹林:その甲斐あってか、私の周りではオイコノミアの視聴率は80%くらいでした。
紅:あの頃はまだ行動経済学の知名度も低かったですよね。
竹林:そんな中、この番組が果たした役割は大きく、今、こうして私たちが行動経済学のお話ができるのもオイコノミアのおかげです。
紅:そういえば、大竹先生の学会発表がオイコノミアに放映され、それを見ていた竹林博士がテレビに映ったんですよね?
竹林:後ろ姿だけですけどね。まさか学会発表にNHK撮影クルーがやって来るとは思っていなかったので、ビビりました。大竹先生が発表者で、討論者がキャンサースキャンの石川善樹先生で、それを竹林が一番前の真ん中に座って聞きました。
紅:それはいい思い出ですね。
竹林:はい。あれだけいい番組をつくりあげるのは大変だったことでしょう。心からありがとうと言いたいです。
【第5位 〇〇の話が盛り上げる】
竹林:第5位は「講演でナッジ悪用の話をすると盛り上がる」です。
紅:竹林博士こそ、ナッジの悪用の話になるとすごく盛り上がって話が長くなるので、これは次回にしましょう。
竹林:では続きは次回、お楽しみに!