ナッジあるある:1位は「自分もやっぱりバイアスの塊」
登場人物 ドクター紅(くれない):ナッジの魅力に気付いた公衆衛生医師。竹林博士:ナッジの面白さを伝えるのが大好きな研究者。
紅:ナッジあるある。いよいよ第1位ですね!
竹林:1位は「行動経済学を学んでいても、自分の実際の行動はバイアスだらけ」です。
紅:知識と行動のギャップ、わかります。医師でも、のどを担当する耳鼻咽喉科や依存症を治療する精神科の喫煙率が高かったり。
竹林:ただ、自分がバイアスの塊であることは自覚しているので、時折、「今バイアスにとらわれた発言している」と気付きやすいです。
紅:「自分がバイアスにとらわれているかも」と常に気を付けていることはできないものですか?
竹林:普通の人には無理でしょう。脳には直情担当(速い思考システム)と熟慮担当(ゆっくりの思考システム)の2つの回路があることを以前お話ししましたよね。
紅:はい、直情担当がバイアスの影響を受けて癖のある判断をしてしまうんですよね。
竹林:そうですね。直情担当システムの行動を熟慮担当がコントロールしようとするのは、結構疲れる作業なのです。例えば車の運転のように本来は熟慮が必要な行動ですらも、いつの間にか直感で運転してしまうこともありますよね?日常生活はなおさら熟慮のフル稼働が難しく、無理にしようものなら、メンタルがやられちゃうでしょう。
紅:部活みたいですね。普段は現役(直情担当)が自分のペースで活動して、たまにOB(熟慮担当)がやって来ると急に引き締まる。でもいつもだと、現役生もストレスだし、OBは仕事が終わって疲れているのに現役生に振り回されて…。
竹林:面白い例えですね(笑)。ブルースリーは”Don’t think, feel.”の難しさを説きましたが、”Don’t feel, think.”も非常に困難なのです。ただし、バイアスを学ぶと、過ちに気付く頻度も高くなります。そして過ちに気付いたときには、素直に謝ることができます。「バイアスの管理不行き届き」による謝罪ですので、自分の尊厳があまり傷付かないものです。この考えに至ったのも、行動経済学のお陰だと感謝しています。
紅:そう言えば、竹林博士は学会発表の質疑でも、「その質問は専門外なので、調べた上でお答えします。」とあっさり言いますよね。私はそれがなかなか言えず、気合いで答えようとしてしまいます(笑)。
竹林:学会は知恵比べの場ではないので(笑)。人間、自分が知らないことを認めたくないゆえに、捏造もしてしまう性向があります*。私は行動経済学を学び、「わかりません」を認める勇気が持てた気がします。
紅:さすが、1位に相応しい言葉で締めましたね!さて、今後は別の分野でも「あるある」やりたいですね。公衆衛生とか統計学とか。
竹林:統計学あるあるの1位は、「"ピーチ"と言われると、桃なのかp値のことなのか、一瞬迷う」がいいと思います。
紅:せっかくいい言葉で終われると思ったのに、竹林博士のこういうところがバイアス的ですね(笑)。
*引用:0ベース思考(レヴィット&ダブナー)