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ナッジ研究者がお答えします#36:新聞記事はエビデンスになるのか?

【問】行政職員です。上司が「エビデンス」として、新聞記事の内容を根拠にしています。新聞記事はエビデンスになるのでしょうか?

「エビデンス」は広い意味を持つ言葉で、学術的には「科学的根拠」として使われることが多いです。この場合、専門家の言葉や調査結果もエビデンスに含まれることもあります。このため、新聞記事もエビデンスに含まれる余地があると言えますが、そうではないものもあります。ましてや行政機関が新聞記事に基づく意思決定をするのは、問題を内包していると考えます。
だから、「新聞記事は科学的根拠として弱いもの」と割り切ってしまうくらいがちょうどよいかもしれません。その理由を3つ示します。

1つ目は、メディアが実施するアンケートには、誘導的なもの存在していることです。昔、あるメディアから記名式アンケートが届きました。

【アンケート】政府は弱いものいじめの政策を次々に打ち出しています。あなたは政府の方針に賛成しますか?
1.全面賛成 2.あまり賛成しない 3.半分くらい賛成しない 4.かなり賛成しない 5.大いに賛成しない

これは、前文で政府に対する悪い印象を与え、さらに選択肢も「賛成しない」に偏向しています。さらに言うと、記名式にする必要性も感じられません。作成者が「大半が政府に反対」というストーリーを裏付けるための誘導的なアンケートと言えそうです。第三者による倫理審査を経ていないと、このようなアンケートも実施されてしまうのです。そうでないものもあるでしょうが、倫理性の担保を私たちが知る術がほとんどないのが現状です。

2つ目は、記事の中には自分の主張(仮説)を掲載しているものが多いことです。仮説を検証するには、匿名のレフリーによる「査読」を経ます。自分の主張を客観性・再現性あるものにするだけで、1年以上費やすこともあります。
個人の良心に基づき、ストーリーとして主張するのがジャーナリズムの醍醐味だと感じます。一方で、それはどうしても偏りが生じ、科学的な根拠として相容れない部分も出てくることもあります。

3つ目は、利益相反宣言がされていないことです。最もわかりやすいのはタバコです。喫煙に関しては両論併記で、むしろ見出しには「分煙の徹底を」といったタバコ産業の主張が掲げられることも見られます。学術論文では、「この発表に関して〇社から×円の資金援助を受けました」と記載しますが、タバコ産業からのスポンサー料を明記したメディアは見たことがありません。その意味で、新聞記事は金銭的インセンティブによって強く歪められ、客観性や再現性に欠けたものとして受け止めた方がよいかもしれません。

最後に。新聞記事があるからこそ、私たちはたくさんの情報をわかりやすく入手できます。そして、新聞記事で多くの方が心を動かされます。新聞は社会に必要な存在です。その位置づけを明確にすることで、新聞記事をもっと楽しめると信じます。

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