ナッジ研究者がお答えします①:いつの間にか太ってしまう。どうすればいい?
紅:「匿名希望さん」からお便りいただきました。「食べた記憶がないのにいつの間にか太ってしまいました。どうすればよいでしょうか?」
竹林:質問ありがとうございます。公衆衛生的な解決方法をお伝えします。「もしも体に問題がないのであれば、体重増加の原因は消費カロリーよりも摂取カロリーの方が多いからです。だから食べる量を減らして運動量を増やしてください。」…でも、この答えだと、満足できないですよね。
紅:行動経済学的なアドバイスを求めているようですので…。
竹林:それでは私の服の話からしましょう。
紅:竹林博士はいつでもスーツを着ていますよね。
竹林:はい、近所を散歩するにも病院に行くにも基本はスーツです。「今日は何を着ようか」と悩むのが嫌で、全部スーツにすることにしました。「パタリロ!」という漫画の中で「国王はいつも同じ服を着ているように見えて、実は同じ服を何百着も持っている」という話に影響されました(笑)。
紅:そのエピソードは行動経済学と関係があるのでしょうか?
竹林:頭が疲れると直感的な行動をする傾向があります。直感的な行動は後悔につながることも多いです。その意味でも、毎朝服を選ぶ気疲れから解放されるために、同じ服を何着も買ってそれを着ると決めるのは、合理的な考えです。
紅:そう言えば、スティーブ・ジョブズも朝、服を選ぶのに疲れたくないので、いつも同じ服を着ているという話を聞いたことがあります。
竹林:そうですね。もちろん毎朝の服選びが楽しくてしょうがない人は別でしょうが、私のような人は服選びで本当に脳が消耗してしまうのです。脳が疲れるとどうして太りやすいのか、実験してみましょう。ではいきますよ。
【実験】3桁の数字234の各桁から1ずつ引くと、123になります。では、7桁の数字7982193の各桁から1ずつを引いた数を3分後に答えてください。紙を使ってはいけません。
紅:これは大変ですね。…687…1082ですかね。これをあと3分間覚えていないといけないんですよね。
竹林:はい。計算力と記憶力のテストですので。今、紅先生の前にチョコケーキとスティックサラダを置きます。どっちを食べたくなりますか?
紅:チョコケーキですね(笑)。
竹林:脳は理性が忙しくなると甘いものを欲しがることが知られています*。特に疲れがたまると自制心が緩み、衝動的な行動も多くなります。
紅:学会の帰り道に、やたらアイスが食べたくなるのもこの法則なのですね。
竹林:質問くださった匿名希望さんにはこの原理を応用した動線の設計をしてみてはいかがでしょうか?例えば「脳の疲れを減らすように、朝はスマホを見ない」「疲れたときには、コンビニの前を通らず、家にもスナックの買い置きをしない」とするだけで、体重増加を抑えることができるかもしれません。
紅:匿名希望さん。参考になったでしょうか?
*引用:ファスト&スロー(カーネマン)