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直感でわかるナッジ【実践編】①:プライミング効果で好スタートを

このnoteはインターネットラジオVOICY「ドクター紅と竹林博士の土曜の行動経済学」(放送終了に伴い、現在はアクセス不可)の内容をベースに書き下ろしたものです。
登場人物 ドクター紅(くれない):ナッジの魅力に気付いた公衆衛生医師。竹林博士:ナッジの面白さを伝えるのが大好きな研究者。

【ナッジの魅力って?】

紅:皆さん、はじめまして。この番組は、ナッジ理論を紹介しながら、楽しくトークしていきます。私は青森県の公衆衛生医師、ドクター紅です。お相手は津軽弁の健康行動経済学研究者、竹林博士です。noteでは津軽弁でお届けできないのが残念ですね。


竹林:皆さん、はじめまして。最初にお願いがあります。私の話は笑顔で頷いて聞いてください。なぜなら、同じ話でも、難しい顔で聞くよりも笑顔で頷いて聞いたときの方がポジティブに受け止めるという研究があるからです。

紅:読者の皆様、笑顔で頷くようにお願いします。ところで竹林博士は行動経済学の道に進むきっかけは何ですか?

竹林:私が行動経済学の研究を始めたのは11年前、MBA時代にナッジ理論に出会いその魅力の虜になったことです。それ以来全ての研究を行動経済学に捧げています。

紅:最近、行動経済学がブームですが、それまでは行動経済学のことを知ってもらうのは大変じゃなかったですか?

竹林:確かに公衆衛生分野にきてしばらくは「健康をお金儲けの道具にしてほしくない」と言われることもありました。経済学イコールお金儲けという誤解は、根深いですよね。本当は、経済学は、限られた人・モノ・金をどう動かして幸福最大化を追求する学問なのですが。

紅:それをどう乗り越えましたか?

竹林:とにかく、私の発表を聞いた人には「皆さん、この話、面白いでしょう。これが行動経済学です」と、訴え続けました。行動経済学は正しく伝わりさえすれば、わかってもらえる魅力があると信じていましたので。

紅:なるほど。聞いた人全員が面白いと感じてくれるように、ベストを尽くしたですね。ところで、改めてナッジ理論って何でしょう?最近、メディアでもよく聞きますが。

竹林:頭ではわかっているけれども、なぜかできていない行動ってありますよね。ナッジとは、それを自発的に行動するように促す、心のスイッチのようなものです。

紅:そんなことができるのですか?

竹林:例えば、今までは災害時に「今すぐ避難してください」と言っても、何となく「もう1時間様子を見てみよう」といっているうちに逃げ遅れ、被害が拡大するということがたくさんありました。でも、つい避難したくなるメッセージが発せられたらどうでしょう?

紅:例えばどんなメッセージですか?

竹林:大阪大学で複数の避難メッセージを比較した研究を行ったところ「これまで災害時に避難した人はまわりの人が避難したからという方がほとんどでした。あなたが避難することがみんなの命を救うことにつながります。」が最も効果的でした。

紅:なるほど。災害のときこそ、自分がまず先頭をきって、避難しようって気が起きますね。

竹林:このメッセージは「他人の規範となる人間でありたい」という心理に訴えて心のスイッチを押して、行動に移すという設計です。

紅:心理をくすぐられると自然に行動したくなる。これがナッジの力ですね。

【プライミング効果を試してみよう】

竹林:人間の判断や行動は直前の情報や刺激に影響心理を「プライミング効果」といいます。せっかくなので、プライミング効果を実験してみましょう。まずは倫理手続きとして、紅先生はこの実験に参加することを同意しますか?

紅:同意します。

竹林:では、始めますよ。紅先生はどんな野菜が好きですか?

紅:かぼちゃかな。

竹林:わかりました。次に連想ゲームをしましょう。「赤」と聞いて連想するものを、5つ挙げてください。

紅:トマト、ニンジン、りんご、郵便ポスト、赤ペンですか。

竹林:実は紅先生がトマトとニンジンを最初に答えたのは、直前に野菜の話をしたからかもしれないのです。

紅:そうなんですね。確かに、最初にお金持ちの話をしていたら真っ先にフェラーリと答えたかもしれないですね(笑)。

竹林:これがプライミング効果です。冒頭で「笑顔で頷いてください」と申し上げたのも、笑顔で頷くことでプライミング効果が働き、聞くモードになり、その後に聞いた話をポジティブに受け止めるからです。逆に、最初に聞くモードを作っておかないと、せっかくいい内容をお届けしても、リスナーがポジティブに受け止めてくれないこともあります。

紅:そうなのですね!プライミング効果、ぜひ使ってみたいですね。

竹林:では、いつ、誰に対してどのようにプライミング効果を使いますか?せっかくなので1分間で具体的に考えてみましょう。読者の皆様も一緒にどうぞ。

(1分後)

竹林:どうでしょう?

紅:私は1月21日の講演で最初に会場に向けて笑顔で頷くように促します。

竹林:それは楽しみですね。プライミング効果は私が最も好きなナッジです。第一印象で相手の気持ちをいい形にもっていくことで、その後の内容も好意的に受け止めてもらえる。これを意識することで、コミュニケーションやアプローチが格段に効果的になります。ぜひ、試してみてください!






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竹林/津軽弁のナッジ研究者
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