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直感でわかるナッジ【基本編】③:介入のはしご。ナッジは何段目?

登場人物 ドクター紅(くれない):ナッジの魅力に気付いた公衆衛生医師。竹林博士:ナッジの面白さを伝えるのが大好きな研究者。

【ナッジのメカニズム】

紅:青森県の大学生から質問が来ています。「ナッジのこと、わかっているようでよくわかりません。一発で理解できるように説明してください。」質問ありがとうございました。

竹林:ナッジとは、直訳すると「軽くつっつく」「そっと後押しする」で、実務的には「背中を押すように感情を軽く優しく刺激して、行動変容を促すアプローチ」として用いられます。

紅:きっと具体的なイメージがわかないと思われます。

竹林:想像してください。あなたは総合病院の院長先生で、病院ロビーに手の消毒液を置いても多くの患者はスルーしていました。感染症予防のためにも多くの人に、消毒液を使ってほしい。あなたはどうしますか?

紅:感染症のリスクを具体的に紙に大きく書き出して壁に貼ります。

竹林:これをアイディア①としましょう。確かに普及啓発はとても重要ですが、紅先生は文字がいっぱいの注意書きを立ち止まって読みますか?

紅:読みません…。では、消毒した人に賞金を上げます。

竹林:これをアイディア②としますか。「消毒したら1万円」というインセンティブを設定すれば、全員喜んで消毒液を利用するでしょう。でも、事務長がこのインセンティブを提案したら、紅院長は採用しますか?

紅:もちろん、即却下です。病院が倒産します。

竹林:そうですね。1万円欲しさに健康な人も病院に押し寄せて、逆に感染症リスクが高まるという事態を引き起こすでしょう。

紅:では、消毒しない人から罰金を取ったらどうでしょうか?

竹林:これはアイディア③ですね。紅病院では実際に患者さんから罰金をとれますか?

紅:無理ですよね(笑)。

竹林:普及啓発もインセンティブも罰金もうまくいかない。そんなときにはナッジが使えるかもしれません。大阪大学医学部附属病院では真実の口のレプリカの中に消毒液自動噴霧器を設置しました。真実の口を見ると、どうなりますか?

紅:つい手を入れたくなります(笑)。

竹林:そうですよね。このように、絶妙な設計で心をくすぐってよい行動へと促す。これがナッジのメカニズムです。

紅:イメージがわきました!こういう具体例があるとわかりやすいですね。

竹林:なお、学術的にはナッジと仕掛けは違うという考えもありますが、私は仕掛けもナッジに含めるというスタンスで解釈します。

紅:なるほど。ほかにもナッジがあるのですね?

竹林:はい、面白いナッジがたくさんありますので、次回以降に紹介しましょう。

【介入のはしごから考えるナッジ】

竹林:実は紅先生の出したアイディアは「介入のはしご」で整理できます。

紅:介入のはしご、現場でもよく使っています。

竹林:介入のはしごを簡単に説明すると、健康行動介入を順に並べたフレームワークで、国の健康戦略である健康日本21(第二次)でも、介入のはしごを1段ずつ上がっていく目標が設定されています。はしごの一番下は「何もしない」で、次は「情報提供」、その上が「選択誘導(=狭義のナッジ)」、「インセンティブ」、そして最も強烈なアプローチが「規制」という順番です。※狭義のナッジと一般的なナッジについては後ほど解説します。

竹林:でも、紅先生は普及啓発(アイディア①)の後、狭義のナッジを飛ばして一気にインセンティブ(アイディア③)へといってしまいました。 例えば、健康教室で参加者の反応が鈍かったので、私が「目標達成者に1万円あげたらどうでしょう?」と提案したとします。現場スタッフはどう感じるでしょうか?

紅:いきなりの提案に「その前にやるべきものがあるんじゃない?」と戸惑うでしょうね。

竹林:その「いきなり感」は、はしごを一段飛ばしたことによるものかもしれません。

紅:なるほど…。

竹林:狭義のナッジは環境整備やデフォルトなどに当たります。一般的なナッジはさらにコミットメントやフィードバックなどが加わります。私たちの連載では「ナッジ=一般的なナッジ」と位置付けます。私はナッジ×健康教育、ナッジ×インセンティブのような組み合わせを推奨しています。

紅:ナッジをマスターすれば、介入のはしごがコンプリートされて選択肢が広がるんですね!

竹林:だから私はナッジを強くお勧めします。


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竹林/津軽弁のナッジ研究者
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