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セルフアドボカシーって何?
1.セルフアドボカシーとは?
アドボカシーとは、代弁者が本人のために本人に代わって意見を述べること言いますが、社会福祉の分野では、本人またはソーシャルワーカーが利用者の生活と権利を擁護するために、行政の制度や社会福祉サービスなどの柔軟な対応や変革を求める活動と定義づけられています。
その中でも、セルフアドボカシーは、日本語では「自己権利擁護」と訳され、こちらは当事者本人によるアドボカシーを意味します。私たちは皆、自分自身で考え、主張し、選びとる権利があります。特にマイノリティとして、社会でその存在が見えづらい人々にとっては、自身の現状や実現したいことを、広く知らせる機会はとても大切だといえます。
2.セルフアドボカシーと障がい者差別解消法
障がい者差別解消法では、2021年に改正があり、2024年6月から行政やサービス事業者の不当な差別的対応の禁止に加え、事業者の障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されることになりました。
合理的配慮とは、障害を持つ当事者から、社会的なバリアを取り除いてほしいと意思の表明があったときに、必要で合理的な配慮を講ずることです。
例えば、車いす利用の方から、立見席のみのライブに行きたいと要望があるとします。事業者は、その方との話し合いのもと、通常席の一部を区切って車いすの方用のスペースを設けるなどの配慮をするということです。
自身で意思表明が難しい場合には、コミュニケーションを助ける人を通じて行うことも含められています。また、性別、年齢、状態に配慮することも明記され、特に女性であることを踏まえた配慮についても留意するよう書かれています。①
未来を生きる子どもたちは、主体者として自分の権利を守る力を身につける必要があります。様々な制度に関する知識、自分の強みと弱み、必要な支援の理解、それを他者に説明する主張性などを育てていく必要があるでしょう。②
今後は、これまで「支援される側」の存在ととらえられがちだった人々を、自立的に「支援を求めていく」存在ととらえなおすことにつながっていくでしょう。私たちもこのことを、今一度心に刻む必要があると思います。
3.発達障害のある子どもたちとセルフアドボカシー
1)自閉症の女の子の体験をもとにした映画
自閉症の女の子から見た世界を描いたアニメーションが公開されています。「Walk In My Shoes」という映画です。言語は英語になりますが、映像が理解を助けてくれる部分もあるかと思います。
当時14歳だったエリン・デビッドソンは学校に行くことは恐怖だったと語ります。学校内を行きかう人々の波に圧倒され、じぶんに視線が集まることに大きな不安を感じていました。教室はまるで檻(おり)に入れられているかのようだった。そして周囲は彼女を静かな人なのだと思い、彼女はまるで自分がだれにも見えない、おばけのような存在だと思えたと表現します。授業は情報量が多すぎて、理解できなかったとも。彼女はそんな毎日のくり返しに疲れきっていました。
彼女の気持ちを表現し、理解につなげようと、イギリスのチャリティ団体ドナルドソン基金が制作し、この映画は教育関係者への影響を与えただけでなく、自閉症の子どもたちにも自分は一人でないという気づきをもたらす機会になったといいます。
エリンはドナルドソン基金のサポートを得て、自身の現状を多くの人に知らせ、多くの人々の意識に変化をもたらしました。このことは、自身のみならず、多くの自閉症の子どもたちへの貢献につながったのです。
☆ Walk In My Shoes
映画「walk in my shoes」Donaldson Trust
2)学習障害(LD)の女性が小学校での体験をつづった物語
次に絵本を紹介します。この話は本の作者パトリシア・ポラッコさんが自分の子ども時代について書いたものです。
☆ありがとうフォルカー先生
トリシャは絵をかくのが大好き。本を読んでもらうのも大好きですが、小学校に入って国語も算数も理解できず、いじめにあったこともありました。しかしフォルカー先生との出会いが彼女をかえていきます。
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パトリシア・ポラッコ作・絵
香崎弥須子訳
出版社:岩崎書店
※目安は小学校低学年~高学年になっています。
彼女の体験をつづったこの絵本も、学習障害(LD)を知らない多くの人たちが彼らの困難や思いを知る機会となっていると思います。彼女の描いた絵も素敵です。ぜひ手に取ってみてください。
① 厚生労働省 リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」 - 内閣府 (cao.go.jp)
② LD,ADHD&ASD 2022年1月号 自分の権利を守る力・セルフアドボカシー ―主体者として未来を生きる子どもを育てる― 明治図書
③ エル・ジャポン 2023年3月号 特集名:学びの季節 ハースト婦人画報社