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僕等だって今日を生きている。


電話が鳴る。

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元請け会社の

「ヒロヤ」という男からだった。

ちっ…またこのクソ忙しい時に…


電話に出る。


「もしもし〜
お疲れ様です。
ビリーさん?」


鼻をツマんでみる。


「違います。(高音ボイス)」


ピッ。


再び電話が鳴る。

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ちっ…

電話に出る。

「もしもし?マジで電話切るのやめてもらっていいですか?」

「ふはは。
何だよ、忙しいんだけど、今。」

「すんません、すんません。
あぁ〜そう言えば
電話で思い出しました。
これは本件とは関係ないし
だいぶ前の話なんですけど。」

「おぅ、なんだ?」

「ビリーさん
俺に留守電入れる時
自分でピーって言って
電話切るのやめてもらっていいですか?」

「ふははは。
なんだよ
苦情でも言いたいのか?」

「はい。」

「おっ?何だよ、トーン低くしてさ。
何か問題でも?」

「はい。」

「え?何?どうした?」


「味噌汁噴きました。」


「は?どこで?」

「コンビニのイートインで
盛大に。」

「え?誰かにぶっかけちゃったの?」

「いえ、他に誰もいなかったので
それは大丈夫でした。」

「お店汚しちゃったとか?」

「いや、それも。
直ぐ隣がトイレだったので
トイレットペーパー貰って
直ぐに拭き取って
店員さんに頭下げて
スプレー借りて
消毒もしました。」

「おぉ. . .そうか. . .
じゃあ…どうしたってのよ?」


「それ…アオサの美味しいやつだったんですよ。」


「ん…?」

「アオサの美味しいやつです。」

「う…うん、それで?」

「俺、アレが好きで良く買うんすよ。」

「ほぉ、んで?」

「で、ですね
俺なりの…秩序…とまでは行かないすけど
マイルールみたいなもんがあってですね…」

「ほぉ、どんな?」

「まず、熱々の汁を半分まで飲み進めます。」

「ほぉ」

「中間まで飲み進めた辺りで
箸捌きを駆使して、アオサを全て口に含みます。
至福の瞬間です。
でも
この時めちゃくちゃ熱いんすよ、アオサ。
でもね
醍醐味なんでね
いっちゃうわけですよ。」

「ほぉ、一気に行くわけだ?
いいねぇ
美味そうだ。
で、それから?」


「その時、ビリーさんの留守電聞きました。」


「. . . . . 。」

「. . . . . 。」

「やっちまったわけか…」

「はい、盛大に…
マリモみたいな固まりが…」

「いやいや、詳細はいいから。
まぁ…なんて言うか…
災難だったな…
悪かった、ごめんな…」

「いいんです、もう…済んだ話ですから…」

「そうか…
. . . . . 。
じゃあ. . .
また何かあったら連絡くピー。」

「おい!
ちょいちょい!
待て待てぇい!
切るな切るなっ!」

「ふははは。」

「ったく…。
それにね、言っときますけど、スマホの留守電は
メッセージ終わってもピーって鳴らないですからね。固定電話じゃないんだから。」

「えっ?そうなの?」

「そうですよ。
俺はよくビリーさんに留守電入れてますけど
ピーって鳴ってます?」

「いや、聞いてないから分からないな。」

「は…?それもどうかと思いますけどね…」

「直ぐ掛け直してるからいいだろ?」

「まぁ…そうすね…
しかもその時の留守電
あぁえーとその味噌汁の時の…」

「おぉ」

「なんか如何にも
途中で途切れちゃった感を演出してましたよね?さっきもなんかチラッとやってましたけど。」

「そうだっけ?」

「はい。
もしもし〜ビリーですけど〜手が空いたら電話くピーみたいな。
なんすか?くピーって?」

「くピー。笑」

「はい、くピーですよ。なんなんすかそれ?笑」

「くピーはくピーだよ。
表記するとしたら
くは平仮名で
ピーはカタカナだな。」

「. . . . . 。
とにかく…
ビリーさん
今度
あおさの美味しいやつ
奢ってもらいますからね。」

「おぉ幾らでも奢ってやるよ。
悪かったな。
て言うか
そういう商品名なの?」

「いえ、違うと思います。
名前分かりません。
パッケージで覚えてるんです。」

「なるほどな。」

「はい。」


「. . . . . 。」


「. . . . . 。」


「あおさ?」

「はい?」

「間違えた。
あのさ?」

「はい?」

「なんだか
すっげぇしょーもない話してることに気付いたんだけど
用件て一体なんなんだ?」

「え?あ〜そうだそうだ。
あのですね…」

「おぅ。」

「ビリーさん、体調どうすか?」

「探検でもするのか?」

「いや、隊長じゃなくて. . . . 
具合悪いとか
熱があるとか
そういうのないすか?」

「いや、ないね、特に。
熱は毎朝測ってるけど
異常はないかな。」

「そうですか. . . 良かった。
俺. . . 熱出して休みもらってるんですよ。」

「え. . . ?マジで?」

「はい。」

「やべぇじゃん、新コロか?」

「新ジャガみたいに言わないでくださいよ。」

「新ジャガ美味いよな。」

「美味いっすよねぇ。」

「ホックホクのやつな。
あぁ食べたいなぁ。
また少し落ち着いたら食いに行こうぜ。」

「いいっすねぇ、ご馳走様です。」

「は?俺に奢らせる気かよ。
まぁ、アオサの美味しいやつの件もあるしな。
よし!
奢ってやるよ。
じゃあまた何かあったら連絡くピー」

「おい!
違う違う!
切るな切るな!」

「ふははは。
冗談だよ、冗談。
で、いつからだよ?検査したのか?」

「え〜と、一昨日からです。
はい、今検査結果待ちなんです。
で、潜伏期間が3〜4日あるらしいんですけど
ビリーさんに最後に会ってから3日目なんで
どうかな?と。」

「ん?
待て待て…
お前さ、それって熱が出た時点で
知らせるべきなんじゃねぇの?
一昨日ってさ
俺今日仕事してんだぞ?」

「そうなんですよね…すみません. . . . . 。」

「すみませんってお前よ. . .
まぁ、取り敢えず
俺は今何ともねぇけどな。
で、検査結果はいつ出るんだ?」

「明日です。」

「分かり次第、直ぐ連絡しろよ。」

「はい、すみません。」

「後、俺以外に知らせてない奴がいたら
今すぐ連絡しとけ。
後、お前の奥さんとか子供とかは何ともないのか?」

「はい、家族は今のところ大丈夫です。」

「そうか、良かった。
でも油断はできねぇな、気を付けろよ。」

「はい。」

「お前自身はどうなんだよ?
辛いのか?」

「いや、いわゆる風邪の症状ですね。
喉が痛くて、熱があるみたいな。」

「そうか. . . まぁとにかく
ゆっくり休め
んで、きちんと治せよ。
て言うか、仮にお前がそうだった場合
俺は濃厚接触者になるんじゃねぇの?
休んだ方がいいわけ?」

「いや、現時点で症状がないなら大丈夫だと思います。
医者が云うには
濃厚接触者とみなされるのは
ノーマスクで1m以内に15分以上いた場合だそうで、ビリーさんと打ち合わせで会った時は
お互いマスクしてましたし、距離も取ってたし
おまけに終始屋外だったので、クリアかと。」

「そうか、ん〜なんか曖昧な気もするけど. . .
じゃあ、普通に仕事してていいのか?」

「今何ともないのであれば
恐らく問題ないと思います。
まぁ、個人差はあると思うので
絶対とは言えませんが. . . 。」

「そこだよな。
所謂、自己判断てやつな。
正直、良く分からなくなる時があんのよ。
俺らはさ
家でぬくぬくと
出来る仕事じゃねぇからさ。」

「はい。」

「まぁそうは言っても、家でやんなきゃなんねぇ苦労もあるんだろうけど…それは俺にはわかんねぇしさ。
世の中がやべぇやべぇ言ってたってさ
やらなきゃなんねぇし
やらなきゃ
食いっぱぐれちまうし
もしそうなったら
病気以前に
ただ野垂れ死ぬだけなわけよ。
野垂れ死んだところで
自己判断の末路だ、みたいに
言われちまうんだろ?
幾ら気を使ってたとしても
ちょっとでもしくじった日にゃ
自分勝手な行動しやがってって
糾弾されちまう。
やるべきことを
やってるだけなのにな。
ムカつくよな。
別に誰かや何かに責任を問いたいわけじゃねぇし
みんながみんな
大変な思いをしてるってのも分かってるつもりだしさ
だからこそ
てめぇで考えてやってるけどさ
正直、分からなくなる時があんのよ。
ああするべきだ
こうするべきだってさ
対策だ防止策だなんて言ってもさ
結局はものすごく限定された職種や人間にしか
該当しねぇもんばっかで
混乱しちまうんだよな。
しかも、その内容や解釈ってのはさ
日毎、コロコロと変わるしな…
ホント、コロコロな。」

「. . . . . 。」

「コロコロな。」

「. . . . . 。」

「コロ. . . 」

「もう、いいですよ。」

「でも、連絡はすべきだったな。」

「はい…本当にすみません…」


「本当は連絡し辛かったんだろ、お前?
何か大事になっちまうんじゃないかって
だとしたら申し訳ないって
ビビったんだろ?」

「はい、それもあります…。」

「まあ、俺はお前のそういうところ嫌いじゃないけどさ。
ただ、皮肉なことにそう言った気遣いが仇となることもあるんだよな。
もし大事にでもなったとしたら
事情をよく知りもしねぇ馬鹿どもが
ここぞとばかりに寄ってたかって
お前を潰しに来るんだよ。
そりゃもう理不尽に
お前にとって不本意な理屈を捏ち上げてな。
すげぇ陰湿だよな。」

「はい. . . . . 。」

「だからさ、きちんと言えって。
それにさ、悪さしたわけじゃねぇんだから
誰もお前を責めやしねぇよ。」

「はい. . . 。」


「まぁ. . .でも、なんだ、 要は
用心するに越したこたぁないってことだよな。」

「そうすね、はい。」

「分かった。
取り敢えず心配だからよ
結果だけはナルハヤ(なるべく早く)で教えてくれよな。」

「はい。」


後日。

電話が鳴る。

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ヒロヤからだ。

ちっ. . .このクソ忙しい時に. . . 

鼻をツマんで電話に出る。


「違います。(高音ボイス)」

「いやいや、まだ何も言ってないから。笑」

「結果出たのか?」

「はい。
ビリーさん

陽性でした。」

「え?お前って
そんなに美しい存在だったの?」

「いやいや、フェアリー(妖精)じゃないですから。
大体頭おかしいでしょ?
所帯持ちのいい歳した大人が
俺、実は妖精なんですとか言い出したら。」

「いや、俺は敢えて
その話を掘り下げてみたいけどな…。
ワクワクしねぇか?」

「そうすか、はいはい。」

「調子はどうよ?」

「はい、おかげさまで。
熱も下がりましたし、今は落ち着いてます。」

「家族は?」

「無事です。」

「そうか
コロヤ、良かったな。」

「ヒロヤです。」

「そうか
コロ. . . 」

「ヒロヤです。」

「それは…良かったとです… 。」

「それ、ヒロシです。」

「まあ、早く完治して
心機一転!てな具合にさ
新型コロヤになって戻って来い。」

「紛らわしい呼び名つけないでもらっていいですか?笑」


「ふははーん、いいと思うけどなー
って冗談だよ、冗談。
じゃあまたなピー」


「はい、ではまたピー」


「ピー」


「いやいや、電話切ってもらっていいですか?笑」



約1週間後くらい。



1日前の日付けで
留守電が一件入っていた。


しまった、気付かなかった…


ヒロヤからだった。



再生。



「もしもし、コロヤです。
今日から復帰します。
ご迷惑、ご心配をおかけして
申し訳ありませんでしピー
. . . . . って
どうせ聞いてないんだろな. . .(小声)」



笑。


発信。


「もしもし、あ、ビリーさん?
どうしたんすか?」


「ちゃんと聞いてるよ。」


「は?」


追記。

デリケートな話題の為
些か表現が不適切であると
思われる方もいらっしゃるとは思いますが
あまり脚色しても
事実が損なわれてしまう気がするので
概ね
会話の内容そのままを
文章にしました。
ふざけた奴等だなと
笑って頂けたら幸いです。

不安定な世の中とは言いますが
世の中というその例えこそが不安定、且つ曖昧な表現であり
僕等は一人一人の個人であって
余すことなく全ての人々を含んだ上で
世間、世の中という言葉は
成立するものだと思っています。

僕等もその内の一人であり

馬鹿なりに考え

アホなりに必死んなって

それでも

少しでも
楽しくなるように
笑えるようにと

そう思って今日を今を生きています。

このクソ長くしょーもない
拙い文章を
最後まで読んで下さった
心優しいあなたへ
心から御礼申し上げます。


ありがとう!


また、来てね。



終わり。

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