日仏の教育環境を比較してみた
フランスに引っ越して来た理由はいくつかあって、一番の理由は夫のキャリアなのだけど、その他いくつかの小さい理由の1つに「子どもが育つ環境」てのがあった。
いわゆる「ハーフ」の子は、どこに住んでいてもアイデンティティクライシスを起こすことは多いとは思う。それが日本で育つと、より悩みは多い気がするというのが私個人の考え。
環境によっては日本で生まれ育ったのにずっと外国人扱いされたり、「ハーフいいなぁ」と言われ日本と他の国籍(文化)の親の間に生まれたということだけでステレオタイプなカテゴライズをされてしまったり。日本の人たちにとっては悪気は全くないんだろうけ、いわゆるマイクロアグレッションを受けたり(もちろん、何の嫌な思いもせずすくすくと育った「ハーフ」の子たちもいると思う)。
日本の幼稚園や保育園では生活習慣とかお行儀とか集団生活で大切なこととかきちんと教えてくれるから、できれば娘が就学する直前まで日本にいたかった。しかし、夫のキャリア的には2022年がそのタイミングだったので娘は2歳半だったがフランスに移住することにしたわけでした。
フランスに来て約2年。娘がフランスの幼稚園に行き始めて半年以上経った&最近思うことがあったので、両国の教育について思うことを書いてみようと思う。
ちなみに、ここで書く内容は
人口200万人を超える名古屋で育った自分の経験
東京や名古屋に住む友達から聞く話(保育園年齢~小学校年齢の子を持つ友達)
ツイッターとかで見かける日本およびフランスの教育の情報
フランスの南西部の人口3万人弱の市で私が見聞きしたもの
に基づいているので、フランスは~日本は~と大きい主語で話しているつもりはなく、あくまで私の個人的な見解。
多様性はもちろんフランスに軍配
幼稚園とか学校が何を教えるか以前に、そもそも住んでいる環境がdiverseである。こんな田舎でも道歩く人の肌の色は様々。中近東やアフリカからの難民やその子ども、ヨーロッパの他の地域(特にイギリスが多い)からの移住者が多い印象。アジア人はあまり見かけない。そういう点では、フランスの他の大都市と比べたら全然多様ではないのかもしれない。
娘の幼稚園のクラスには約20人いるが、両親とも生粋のフランス人(そもそも生粋のフランス人ってなんだ?って感じなんだが)は半数もいないと思う。片親がレユニオン(フランス領)出身とか、アフリカ系、だったり両親ともウクライナやアフガニスタンからの移民、など。
ある日、フランス語以外の言語を話す親だけ幼稚園に呼ばれ、子どもたちの前で「こんにちは」と「さようなら」を自国の言葉でなんというかを教えた。来れなかった人たちもいたが7人くらいの親が参加した。その日、先生は、それぞれの言語の「こんにちは」と「さようなら」を録音して、その後、日々帰りの時間に「日本語ではこんにちははなんていうんだっけ?」と子どもたちに問いかけて答えさせている。
別に「こんにちは」「またね」を覚えることが重要なのではない。世界には色んな言葉をしゃべる人たちがいるんだよ、という教育になっていてとても良いと思った。娘のように、家では他の言葉をしゃべる子もクラスにはたくさんいる。送迎の時に、親にフランス語以外で話している子をたくさん見かける。
経験の機会は日本に軍配
ここ数年「子どもの貧困」が日本では話題になっている。それに伴って「機会の格差」も問題視されている。が!フランスに比べると、機会の格差って日本は断然少ないんじゃなかろうか、と思う。
日本の学校に通っていれば、一通りのスポーツは経験できるし(学校で鉄棒とかマット運動やったことない、と夫が言っていた)、ピアニカやリコーダーといった楽器も習う、合唱だってする、裁縫だって料理だって木工だって経験する。
色々課題はあれど、学校で部活だってできるし、学校外ではスポーツ少年団だってあるし、習い事だって大きな全国区の会社が力いれて展開しているから多少田舎でも色々経験できる。
フランスは、学校で楽器を習わないらしい。技術家庭科の授業はない。体育的なものはあるが、体操着に着替えないで私服でやる(らしい。娘は幼稚園なので体育の授業はまだない)し、そもそも運動場が激せまだしコンクリート。土より芝がいい!と言っている日本と議論のレベルが違う。
もちろん、学校でいい成績取りたい、いい高校や大学に受かりたい、となれば塾に行った方がいいという判断をする親も多い=お金がかかる=親の収入によって格差が生まれる、というのは分かる。でも「触れる」という意味では日本はとても「機会」が充実していると思う。ベーシックなレベルであれば学校でほとんどのことは経験する。小学校や中学校で行く野外学習ではテント泊したり、飯盒炊爨したり。
学校外でも。名古屋のことしか分からないが「子どものためのコンサート」とかそういうのがとても充実している。小さいうちから本物に触れられるようにプロの音楽家とかが子どものためのイベントを企画したり出演したりしてくれる。自治体や企業の補助金を使ってるものもあるから、参加する側はリーズナブルな料金で本物に触れられる(大人になって本物の芸術に触れよう、お金を払おう、という人が少なくなってしまうのはまた別の問題)。
フランスは、子どもは美術館タダなので芸術に触れるハードルはある意味低いかもしれない。けど「子どものための」イベントは日本ほど多くはない。もしかしたらこれは田舎に住んでるから、だけなのかもしれないが。
パリに住んでいる日本人ママにフランスに住み続ける理由を聞いたら「子どもにとっての”機会”がこっちの方が多いから」と言っていた。きっと街の規模の大きさも関係するんだろうな。あとは、その人の子どもがみんな芸術関係(バレリーナとか絵描きを志している子どもたち)だからなのかもしれない。
習い事といえば、今、娘はフランスでは幼稚園の年少にあたるんだけど、朝8時半に登園して16時半に終わる。幼稚園で昼寝してくるとは言え、帰ってくる頃には疲れ果てている。そして下の子がいて、シャワー17時半、夕食18時半なんてスケジュールで動いているから、平日に習い事をするという選択肢はない。
日本だったら保育園に行かせている=親は仕事、そもそも平日に習い事なんてさせてるヒマない、という状況にある人はいるだろうが、幼稚園だったら14時とかに終わるので、その気があれば色々やれるよなぁなんて思ったりする。
なのでこっちの子たちは、幼稚園&学校が半日の水曜の午後、もしくは土曜日に習い事をしている子が多い。
欧米諸国は「個」を尊重すると言うけれど
夫や、日本に来たことのあるフランス人に聞くと、やはりフランスは「個」を尊重するという。それは大人として普通に生きていても、フランス人と接する中で感じるし、システムとかを見ても個が尊重されているな、と思う。
自分の意見を持ち、それを表明することが大事。周囲や所属する集団のために自分を犠牲にするなんてナンセンス(それが良い時もあるが、自分が顧客の立場になるビジネスとなると日本人としては勘弁してくれ、というときもある)。
しかーし、学校ではそうでもないかも、と最近思う。フィンランドの教育が~とか、オランダの教育が~とか、ドイツのシュタイナーが~とか、何かとヨーロッパの教育が注目されるので、フランスも同じようにみられがちだけど、フランスはどちらかというと伝統的な教育システムがまだまだ主流だと感じる。伝統的っていい言葉に聞こえるが、平たく言えば古い。
ちょっと話はそれるが、フランスのいいところは古いもの、伝統をを大切にしているところ。だから多くの外国人観光客を魅了していると思う。しかーし「進化」とか「発展」とかからはかなり遠い世界にいると感じる。
話を戻すと……先生はえらい、先生絶対、みたいな感じの生徒と先生の関係はまだまだ健在らしい。授業も、先生が教室の前に立って、一方的にレクチャーする形のものが多いらしい。日本もまだまだなのかもしれないが、文科省がICT活用~とか、インタラクティブ教育を~とか掲げているあたり、日本の方が進んでいる気がする(現場が付いていけてるかはまた別の話)。
一方通行の教育といえば、フランスの英語教育の結果を見てても日本と似たようなもんだな、と感じる。日本語と英語の言語的距離よりも、フランス語と英語のそれの方が断然近く、単語も似たようなものが結構あるにも関わらず、フランス人は日本人同様、英語苦手意識が強い。学校の英語の授業の仕方が座学で読み書き中心らしく、日本と同じ課題じゃないか、と思った。
ここで、フランスの教育って個を尊重するんじゃないの?と日仏の教育について考えるきっかけになった話を。
知り合いの子(7歳)は年齢よりちょっと大人びていて、自分の意見をすごくハッキリ言うしっかりした子。周りの7歳と違うといえば違う。そんな感じなので先生から目をつけられかなりキツイ言葉を浴びせされている。「あなたの態度がクラスの他の子に悪影響を与えている」と。7歳よ?友達との関係は良好でイジメがあるわけではない。でも、先生のせいで学校が楽しくなく、帰ってきたら毎日泣いているらしい。出る杭打たれまくっていて、この話を聞いたとき、ここは日本か?!と思ってしまった。
怒り心頭のその子の親が周囲の親に色々聞いたところ、その担任だけでなく、校長や他の先生も問題アリの人が多いみたいで、転校させることを考えている親も多い。もちろん日本と同じで学区制なので、好きなように転校できるわけではないが。だし、転校した先がいい学校とは限らないし、いい学校だったとしても校長や担任が変わればまた状況は簡単に変わる可能性もある。それは日本と一緒だな、と思った。この国でも「先生はつらい職業」的な位置づけらしく、すぐやめる先生も多いらしい。なのでシステムの問題だな、と思う。
うちの子は2年後には、問題のこの学校に入学することになる。それまでに引っ越したい(元々1-2年で引っ越す予定ではある)と、この話を聞き憤慨した夫が言っている。
あーだこーだ言ったけど、娘の幼稚園には満足
学校についてあーだこーだ言ったけど、娘の幼稚園に関してはとても満足している。まず、先生がちゃんとしている。子供への接し方も日本の幼稚園の先生と何ら変わりない。日本の先生と違うところと言えば、子供相手の大げさな喋り方みたいなのは(イメージ的に、おかあかんといっしょのおにいさんおねえさんみたいな喋り方)フランスの先生達はしない、ってとこくらいか。
1日に1回は必ず身体を動かすアクティビティが取り入れられていて、お昼寝の後はちょっとした遊具がある芝生の園庭で遊びまわり、おもちゃも色んなものがたくさんあるしちゃんと整理整頓のしかたも教えてくれる。映画館に映画見に行ったり、地域の図書館に本を借りに行ったり、博物館に行ったりと園外アクティビティも多い(バスだったり徒歩だったり)。
年に2回の保護者面談では、成績表ってわけじゃないけど、色んな評価項目があってそれぞれの評価がされた書類をもらい、先生が日頃の様子を説明してくれる。
具体的には、言語(口頭)、言語(読み書き)、身体活動、芸術、数字、世界の探求、集団行動、のカテゴリがあってそれぞれ3-4つの評価項目がある。良いとか悪いとか数字が付けられているわけではなく「●●ができる」みたいな感じで今の子どもの状況が記録されている。
読み書きや数字、生活習慣は、「授業」って感じではなく、楽しみながら学ばせてくれている。読み書き、数字に関しては、幼稚園が義務教育になった理由でもある(2019年に始まったので意外と最近の話)。言語的、経済的な理由で幼稚園に通っていない子どもと、幼稚園に通っている子どもの、就学時の言語及び学力の差が大き過ぎる、というのが「幼稚園から義務教育」になった理由の1つだという。
日本の教育の負の面は個人でなんとかできるのでは?という私の考え
どの国の文化にもいい面、悪い面があるのと同じで教育システムも同じ。どっちがいいか、と決めることはできないけど、負の部分を親の力でカバーできるのは日本じゃないかなと思う。
裁縫や木工、色んなスポ―ツ活動だって学校外で機会を作ってあげれば?とは思うが、幼稚園や学校が16時とか16時半に終わる毎日、そんなことやってるヒマない。確かに2ヶ月の夏休み、2週間のクリスマス休暇以外に2週間のバカンスが3回あるわけだから、そこで色々経験させることもできなくはない。でもやっぱり週に1-2回、継続してできる&友達とわいわい楽しみながらできる学校の授業の方がいいなぁと私は思う(家庭科や技術科の授業で成績を付けられる、というのはまた別の問題。私はいらないと思っている)。
日本社会特有の同調圧力とか個を出さないとかっていうのは、時代も多少変わってきてるし、そもそも昭和生まれの私自身が、この↑負の影響を全く受けずに育っていままで幸せに生きてきた。これは親の教育と、親が用意してくれた環境、そしてたまたま運良く友達や先生もそういう人達に囲まれてきたからだと思う。
システムを変えるのは難しけど、確固たる考え方を子どもに伝えるというのは個々の親ができることだしな、と。
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