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ほんの立ち話くらいのこと
夏休みは消極的な生活態度に宿る
中学生くらいのことだろうか、夏休みになるとよく映画をみていた記憶がある。
映画をみたといっても、午後2時というダラダラとした夏休みの一日のちょうど折り返し地点あたり、テレビをつけるとたまたまやっている映画をただなんということもなく眺めていたという話にすぎない。
先日、ちょうど仕事がお休みだった平日のこと、不意にそんなことを思い出してひさしぶりにテレビをつけてみた。
当時はたしか《2時のロードショー》という番組名だった気がするが、いまは《午後のロードショー》と名を変えて、時間も13時40分という微妙に中途半端な時間となっている。
この日放送されたのは、クリント・イーストウッド主演・監督による『ガントレット』というアクション映画。声の吹き替えは山田康雄。
正直すすんでみたい映画でもないが、見たいから見るのではなく、なんかわからんけどやっているからとりあえず見る、という消極的な生活態度にこそ真の“夏休み”は宿るものではないか。
それにしてもこの『ガントレット』という映画、まったくもって荒唐無稽のやりたい放題といった趣きがある。
たとえて言えば、ガソリンをいかに無駄に消費できるかを競う往年のアメ車のような。『西部警察』って、きっとこういうのを日本で作ってみたかったんだろうなあ。
あり余る時間をいかに潰すか。思えば、そんな悩みを失ってずいぶんと経つ。あの「夏休み」はもう永遠に帰ってこないのだ。
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コミュニケーション能力の欠如は動物にも伝わるのか?
やたら見てくるので思い切って目をあわせたら、その瞬間目をそらされた(犬に)。
それから数日後、これ以上ないくらい警戒された(猫に)。
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割子そば。そして人はなぜ過去のことばかり話してしまうのか?
いわゆる“蕎麦っ喰い”ではないけれど、ときどき無性に出雲そばを食べたくなるときがある。出雲そばが好きなのだ。
とりわけこんなひどい暑さが続くと、丸い器が三段重ねになった「割子そば」をずずずと啜りたくなる。
ところが、どういうわけか東京には出雲そばを食べさせる店があまりない。それでも、日比谷にはごくふつうの居酒屋ながらランチに「割子そば」を出す店があると知り、午前中だけ休日出勤した折に立ち寄ってみた。
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薬味がだいぶ淋しいが、そばはちゃんと出雲そばでひとまず満足。
以前、島根を旅したときには5、6箇所で出雲そばを食べた。
個人的には出雲市の稲佐浜のちかくにある《平和そば本店》がよかった。
松江市内とはちがい、いかにもふつうの町の蕎麦屋といったたたずまいで、地元のお客さんは「かつ丼」など食べている(ある意味、なんとぜいたくな)。
この《平和そば本店》と宍道湖の畔にある県立美術館は何度でも行きたい。あと益田市の《石見美術館》にも行ってみたい。益田市には足を運んでいるが、その頃はまだこんな素敵な施設は存在しなかった。
益田には、そのとき競馬をするため立ち寄ったのだった。これは、山口瞳の本を読んだ影響。
当時、そこには日本でいちばん小さな市営の競馬場があり、農作業の合間といった人たちがおにぎり持参で遊びにくるようななんとも長閑な光景が広がっていた。結果は惨憺たるものだったけれど。
そばを食べて炎天下の数寄屋橋交差点に立つと、長いあいだ柵に囲われていた《銀座ソニーパーク》のビルがその全貌をあらわしていた。
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外観はコンクリート打ちっぱなしでなかなかうつくしい。
なにより、いまどき高層ビルじゃないところがいい。「空の広さ」が銀座の街並みをよりよく見せていることをちゃんと理解している証拠だ。
かつてここに建っていた《ソニービル》は、1階に高級フランス料理店《マキシム・ド・パリ》があるかと思えば地下には中古レコードの《ハンター》があるという不思議な空間だった。踏むと音の鳴る階段を憶えているひともいるにちがいない。子どもの頃は意味もなく上り下りして遊んだことが思い出される。
人生も後半となると、ストレージの容量が古い記憶で一杯になっていてうっかりすると昔話ばかりしてしまう。やれやれ、である。
“ひとり”のためのディスクガイドを読む
1999年に刊行され、長らく絶版になっていた『ひとり ALTOGETHER ALONE』がこのほど新装版として復刊された。ずっと捜していたものの入手できずにいたのでうれしい。
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開くと、そこには“ひとり”をキーワードにセレクトされたレコードが並んでいる。
知っているレコードもあれば、もちろん知らないレコードもある。そして、知ってはいたけれどここで見なければおよそ手に取らなかったであろうといったレコードもある。
こういうディスクガイドの価値というのは、そんな“出会い直し”の醍醐味にあるのではないか。個人的にはそう思っている。
かつての《フリーソウル》がまさにそうだけれど、ジャンルも年代もまちまちな音楽を特定のキーワードで串刺しにするという感覚がいまにして思うととても90年代っぽくもある。
Threadsとは
Threadsは登録していないが、インスタグラムを開くたび登録を促すといった意味合いなのだろう、誰かしらの投稿がいくつか表示される。
何とはなしに見てみると、そうした投稿には「このあいだこんな理不尽な目に遭ったのですがわたし間違ってますか?(間違ってないですよね?)」みたいな内容のものが目立つ。
こんなのばかり読まされたら不幸せになってしまいそうなのでそっと閉じるのだが、お試しとして表示するなら記事はもうすこし楽しい気分にさせてくれるものにしてもらいたいところだ。
大正時代の建物で北欧の音楽を聴く
早稲田奉仕園スコットホールで、ヴァイオリンとピアノによる《デュオ・ウニケコ》のコンサート。
北欧の作曲家による、とくに民謡に素材を求めた作品ばかりが並ぶプログラムは聴いていてとても心地いい。
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大正10年に建てられたという煉瓦造りのうつくしい会堂は、あたりまえだが遮音という点では優れていない。
ときおり、苦手な客人のように居座っている台風からの激しい雨音が窓越しに聞こえてくるが、そうしたノイズでさえ取り込んでしまう北欧の旋律がもつおおらかさにあらためて心魅かれる時間だった。
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幸福なカムバック
思わぬアクシデント続きでなかなか大変な8月ではあったけれど、8月12日に一年以上ぶりのカムバックを果たした“推し”がこれまでの鬱憤を晴らすかのような良い結果を出してくれたのでなんとか乗り切った。最高。
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塚本邦雄の自選歌集
古書店から、小包で塚本邦雄の『寵歌』が届いた。1987年に刊行された塚本邦雄の自選歌集だ。
手に入れたはいいが、しかしぜんぜん“読め”ない。読もうにもまったく歯が立たない。
ただ、そのナイフのように研ぎ澄まされた言葉にはうっとりさせられる。
なんとかして“読み”たいのだ。だから、こうして手に入れた。
馬を洗はば
馬のたましひ冱(さ)ゆるまで
人戀はば
人あやむるこころ
ちなみに、この歌手の名前はずいぶん昔から知っていた。
自身に影響を与えた本として小西康陽が挙げた100冊ほどのリストの中にこの『寵歌』も含まれていたのだ。ただ、当時は全く短歌に興味がなかったので、へぇ〜短歌とはまた意外なと思っただけだったが……。
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