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理想の塩焼きそばを求めて

私は大学生の頃からずっと出不精で、そのころからずっと理想の常備食を探してきた。
私の言う理想の常備食とは、「日持ちがして、飽きづらく、腹に溜まり、安く、美味しい」といったような条件を満たすもののことである。当然これだけ条件を増やせばそれを満たすものは少なくなる。完全に満たしているものと言えばほとんど皆無で、今日に至るまでであったことがないが、まぁこれで妥協できるかな、くらいの食品はいくつか見つけたことがある。「これ」と言えるのは二つだろうか。
一方はカロリーメイトのチーズ味である。酸味、甘味、塩味のバランスがよく、カロリーメイトシリーズの中でも明確に飽きづらいという特徴があるフレーバーだ。多分買ったことのある回数で言うとチョコレート味の方が多いのだが、チョコレートは甘さ一辺倒であり、私の中ではチーズの方が美味しいと感じている。4ブロック入りが30個入ったものを箱買いして、一時期ずっとそれを座椅子の傍らに置いて腹が減っては食べていた。この箱の開け方はアタッシュケースのそれとよく似ており、かつカロリーメイトの箱の色が黄色なものだから、最初に箱買いした時はその様子を金塊に似ていると感じてやたらと気分が高揚したものだ。


で、もう一方の常備食は塩焼きそばである。特に『俺の塩』というインスタント塩焼きそばに熱中しており、ハマったときは「お前は『俺の塩』しか食べ物を知らないのか」と言われてもおかしくないくらいにこればっかり食べていた。それくらいに美味しかったのである。旨みの強い味わいで、かやくに入っているホタテ風味の練り物がまた良いアクセントになっており、大学生の頃の私を魅了してやまなかった。
それくらいにハマっていたのだが、まぁやはり同じものばかり食べていると飽きというのはどうしても来てしまうもので、買わない日が続いたある時にその存在を忘れてしまい、随分長いこと買わなくなった。
しかしそれでも『俺の塩』には尋常ではない愛着があったようで、大学を辞めてからも「そういえば『俺の塩』ってあるじゃん」と時々思い出して、Amazonで箱買いをしようとしていた。「しようとしていた」のだ。実際にはしなかった。何故かというと、『俺の塩』が「リニューアル」されたらしいという情報を小耳に挟んだからである。
こと食品関連で「リニューアル」という言葉に苦い思い出を持つ人は少なからず存在するだろう。このリニューアルという言葉は必ずしも「改善」ではなく、コストカットのために内容物が減っていたり味が微妙に変わっていたりすることがあるのだ。『俺の塩』もそういった商品群に漏れず、ホタテ風味の練り物がカニカマに置き換わり、総合的な味としてはいくらかランクダウンしたと言わざるを得ないというレビューが多く投稿されていた。中には攻撃的なレビューも多く、可愛さ余って憎さが百倍とあまりに、「改悪」だとか「戻して」だとかの表現を露骨に強調して星1評価としているものも少なからずあった。そういった事情があったために、私としてもなかなか購入に踏み切れなかったのだ。


時は過ぎて2022年の春、つい先日。食料品の買い出しにスーパーを訪れた際に、不意に即席めん売り場の塩焼きそばが目に留まった。それらは『俺の塩』ではなかったが、同じ塩焼きそばであり、私の中の「塩焼きそばが食いてぇ」という欲求を激しく刺激した。このスーパーの即席めん売り場は、安さを追求しすぎるあまりに、メジャーでないメーカーの商品を多く置きすぎるきらいがあり、私の中では「塩焼きそばが食いてぇ」という渇望と「ここで買うのはやめておけ」という理性とが激しく対立することになった。
少しの逡巡ののち、結局私は二種類ほどの塩焼きそばを手に取って会計に進んだ。塩焼きそば自体食べるのが久しぶりだったから、どうしても欲を抑えきれなかったのである。これで食べ比べてみて、ダメそうだったらAmazonでリニューアルされた『俺の塩』も試してみよう、という算段だ。

そして今日の晩ごはん、一方の塩焼きそばを作って食べてみた。私の理性は正しかったらしく、味の方はかなり微妙だった。
旨みが足りない。かやくのキャベツの青臭さが強調され過ぎている。私の理想からは程遠い品だ。塩胡椒と唐辛子入りラー油の万能コンビでなんとか味を整えて完食する。これでもう一方もダメだったらいよいよ「リニューアル」を試すことになる。味自体はそれほど変わっていないらしいのだが、やはり恐ろしさが勝る。これでダメだったら私は理想の塩焼きそば探しを一からやり直す羽目になるのだ。

パスタを茹でる、米を炊くといったごく簡単な自炊すら面倒に感じる性格の私にとって、インスタント食品の存在は生命線とも言える。
パッと食べられるものが美味しいか否かで、生活の質はガラリと変化しうるのだ。
買ったもう一方の塩焼きそばか、あるいはリニューアルした『俺の塩』か、いずれかが常食に耐えうるものであることを祈るばかりだ。


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