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「パーパス策定から4年。パーパスブランディングがもたらした社員の行動変革、ぐるなびの今。」イベントレポート:前編
2024年7月19日、企業ブランディングなどを手掛ける「 IGI(株式会社たきコーポレーション)」が主催するトークイベントに、株式会社ぐるなびのブランドマネージャー 廣瀬 一子が登壇しました。
「パーパス策定から4年。パーパスブランディングがもたらした社員の行動変革、ぐるなびの今。」と題された本イベントには、企業ブランディングや経営に携わる関係者らが参加。企業の存在意義である「パーパス」をテーマに、イベントの前段ではぐるなびから、パーパス策定後に推進してきた浸透施策の事例を中心にご紹介しました。
前編では、その模様の一部をレポートいたします。
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近年におけるパーパス策定の広がり
はじめに、たきコーポレーション・IGI の井上元気代表より、たきコーポレーション様が手掛けるパーパスブランディングについて解説。
パーパスブランディングとは、社会全体から自社を見たときに「自社の存在意義とは何か」を明確にし、ブランディングにつなげる戦略のこと。2014年よりパーパスブランディングの取り組みを開始されたとのことですが、当時はまだよく知られていない概念でした。
現在は、ブランディング=パーパスという概念に変わりつつある状況であり、そのターニングポイントとなったのは、2020年頃より始まったコロナ禍にあると分析されていました。
井上氏「コロナ禍によって人と企業に距離ができてしまったことで、企業は今までの指針だけではなく、より新しい求心力を持つことが求められました。2020年頃から様々な企業でのパーパスの策定が進み、この数年で、日本でもパーパスドリブンな経営を行う企業が増えてきていることの背景には、コロナ禍のタイミングが一つの要因としてあるのではないかと考えています」
また井上代表は、パーパスが浸透することによって、浸透していない企業よりも業績が好調になるという調査データにも触れ、解説されました。
井上氏「パーパス浸透と過去3年間の業績傾向を見ると、パーパスが浸透している企業は、浸透していない企業と比べ、売上高は約1.9倍、売上総利益率は約1.8倍、営業利益率は約2.1倍ほど高い傾向が見られました。こういったデータからも、パーパスというのは単なる言葉ではなく、企業の業績に直接影響を及ぼすものである、といった捉え方もできるのです」
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社外の前にまず社内から。
社員浸透を重視し、インターナル施策やツール構築に注力した3年間
ぐるなびは、代表取締役社長である杉原章郎が就任したことをきっかけに、リブランディングプロジェクトが発足し、2021年5月にパーパスを含む新理念体系をリリースしました。
策定されたパーパスは「食でつなぐ。人を満たす。」
私たちぐるなびは食の可能性を信じ、世界中のヒト・モノ・コトをつなげ、人々が満たされる場を創出する……という内容です。
上記背景をもとに、コーポレートブランディング推進担当の廣瀬よりプレゼン。2019年にパーパスが策定されてからの3年間、ブランド浸透の基本方針としては「社外の前に社内から。とにかく社員浸透を重視した」と語り、会社への信頼度やエンゲージメントの向上のため、所謂インターナルブランディングを優先したことについて説明しました。
廣瀬「社員が自社のファンになっている状態をビッグゴール……KGIとした場合、"共感度・理解度・行動意欲" をそのKSFとして捉え、この3点を高めることに寄与する取り組みを、基本的には推進しています」
その上で、1年を一区切りとした段階ごとのプロセスと、実際に推進した浸透施策について詳しく解説。まず最初に注力したのは、インターナルへの取り組みと、新たなコミュニケーションツールの構築でした。
社員の理解共感を深めるための施策としては、所謂基本的なブランドブックとして、社内と社外それぞれに向けた2種類の『PURPOSE BOOK』作成したほか、ぐるなびの新理念体系の策定プロセスを詳らかにした、社内向けの『BRAND GUIDEBOOK』や、レポート動画などを、パーパスの発表と同時にリリース。
ブランディングツールにおいても「持続可能な未来に向けて共創する」という理念を体現すべく、印刷版の『PURPOSE BOOK』では、紙素材に廃棄米を利用したkome-kamiというフードロスペーパーと、ベジタブルインキを起用して作成されました。
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また、経営幹部も含めたぐるなびの全社員のビジョンとアクションを可視化し、さらにそれらを全社でオープンにする『⾏動宣⾔可視化ワーク』なども、パーパス策定1年目から実施。この取り組みは、現在も人事と連携して継続運用されています。
廣瀬「⾏動宣⾔の可視化は、社員向けのPURPOSE BOOKにある仕掛けを元にしたワークで、ぐるなび社員としてパーパス実現のために何をするのかを、シンプルに言語化するものです。
当時は、コロナ禍も経て全社的にリモートワークへの移行が進み、社員同士での日常的なコミュニケーション機会も激減していました。個々の社員がぐるなびでやりたい事や想いを、誰でも見られる状態にすることで、組織のベクトルを合わせるだけでなく、物理的距離の空いてしまった仲間同士のマインドやモチベーション共有の一助にもできれば……と考えました」
さらに、2021年10月には新理念体系の一角である「社員の行動変革」をコンピテンシー評価として連動させた、新たな評価制度をリリース。ぐるなびの社員としての⾏動変⾰を実践することが、そのまま個々の評価にもつながる仕組み作りとして実行されました。パーパスの策定中から人事部と連携して制度設計されていたことで、スピーディーに展開することができたこの新評価制度は、今現在も、ぐるなびの浸透施策の基盤となっています。
社員主体の浸透施策とコンテンツの拡充
パーパス策定から2年目以降は、前年度の施策の継続運用に加えて、いくつかの新たな施策を推進。ぐるなび社員による共創活動へのチャレンジなどを目的として、各部署の主体的な社員で構成された『ブランドアンバサダー』の活動や、新入社員の導入研修の一環として、新卒社員が自らの代の独⾃パーパスを策定する『新卒PURPOSEワーク』の実施、リーダーシップからのパーパス浸透を目的とした『執行役員インタビュー』の企画などを展開。社内の意識向上を図るべく、様々な角度からパーパスへのタッチポイントを設定することに注力しました。
また、年賀状やグリーティング、サイトやIRツール、パンフレットなどのコーポレートツールにもパーパスを掲載。新たなコーポレートメッセージとして、社外ツールでの率先したパーパス活用も開始しています。
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3年目以降は、それまでの浸透施策を継続して推進。新たな試みとしては、ブランドアンバサダーによる施策の中から『役員タウンmtg』のトライアルなどを開始しました。アンバサダーによる施策は、課題ごとにいくつかのテーマにわけた施策案があり、これはその中の “ぐるなびオープン会議” というテーマの施策の1つになります。
廣瀬「この施策は、社員と上層部の対話機会の創出を目的とし、役員とのコミュニケーションによる社員のモチベーションや⾏動意欲の向上、現場課題の共有と解決などを狙いとした取り組みです。トライアルでは、実際に現場課題の解決が促進されたり、役員のファンが増えるなど、目に見えてよい成果も得られており、最終的には全社施策としての導入を検討することになると思います」
このほか、「ぐるなび公式note」についてもこの3年目に開始した試みとして紹介。ぐるなびの企業価値を少しでも社外に届けるべく、またそれを社内にも還元すべく、広報と連携し、ブランディングの観点からも積極的に運用サポートを行ってる現状について触れました。
取り組みと成果
パーパス策定後、ぐるなびとしては対外的にどんなことが実行されてきたのか。プレゼンの後半では、新規事業などの実際の具体的な取り組みの一部が紹介されました。
「つなぐワクチンプロジェクト」
コロナ禍真っ只中の2021年7月に、企業や自治体のワクチン接種のキャンセル枠と、近隣の飲食店の接種希望者をマッチングするシステムを立ち上げた事例。
このプロジェクトは、⼀部の有志社員が自発的に行動し、考案からリリースまでわずか5日という短期間で実行。前例のない飲食店の危機的状況下で、「日本の食文化を守り育てる」という創業以来ぐるなびが培ってきたスピリットのもと、外食産業の早期復興に向けて自分たちに何ができるかを考えた社員達により、素早く実現された。社員が行動変革を体現した成果の一つであり、パーパスの存在が社員の主体的な行動の後押しになった、代表的な社内事例。
「店舗開発事業」
商業施設の物件取得からオープン後の店舗の運営フォローまで、ぐるなびが⼀気通貫でサポートするべく、2021年よりスタートした事業。
地元の飲食店にとっては集客率の高い商業施設への出店ハードルを下げ、また、商業施設にとっては特色ある飲食エリアの創出をもたらすことが目的。その展開の中で、惜しまれつつ廃業してしまった地域の名店などのメニューを再現して復刻販売するなど、食文化を守るための取り組みなども実践された。
現在、全国の7物件にて展開中で、2024年11月に東京・勝どきへの出店も予定。まだ発展途上ではあるが、消費者と飲食店と商業施設の三者をつなぐ新たな価値創造に向けて、これからが期待される。
「グリーンイノベーション事業」
日本の食の川上の "生産者" から、川下の "飲食店" まで。農業へのDX化に向けた一貫したサポートとして、2022年よりスタートした事業。
持続可能な食と農の未来に向けた課題解決として、カーボンニュートラルの実現を目指す国と5つのコンソーシアムでの取り組みに、ぐるなびとして参画している事例。10年に及ぶ長期計画事業のなかで、ぐるなびはICT領域での貢献を目指し、現在、本事業システムの開発を推進している。
パーパス実現に向けた次なるステップ
終盤では、代表取締役社長の杉原からもメッセージが寄せられました。パーパス策定の経緯として2017年度以降の業績低迷や、新型コロナウイルスの拡大といったぐるなび創業以来の危機的状況について触れ、「ぐるなびが再び飛躍をするために、全社員が共通認識のもと、長期の視点で価値の創出に取り組むことが重要だった」と説明。今後の展望などについて述べました。
杉原「2024年7月でパーパス策定から5年目に入ったが、パーパス実現までの道のりは、まだまだ道半ばという認識です。弊社のパーパスは決して理想を押し付けるものではなく、その実現に向けたプロセスがなによりも重要だと考えています。最終的には社員一人一人がパーパスをしっかり自分ごと化し、自ら語らせる、語っていけるような文化の醸成を目指していきたいと思っています」
プレゼンパートの最後は、ぐるなびのパーパスブランディングについて、廣瀬からコメントで締めくくられました。
廣瀬「ぐるなびは、まだまだ飲食店予約サイトのイメージが根強いと思いますが、ほかにも様々な事業を展開しながら、日本の食文化を守り育てるために試行錯誤を繰り返しています。パーパスの浸透施策に関しても、手探りで進めている状況ではありますが、とにかく "継続してやり続けること" が重要であるという認識です。
新たなパーパスのもと、今後も様々なアプローチで、その実現に向けた流れを作っていければと思っています」
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前編のレポートは以上です。次回は後編として、たきコーポレーション・IGI 井上元気代表のファシリテーションのもと、たきコーポレーション・ZERO 事業開発室の竹嶋晋部長、たきコーポレーション・IGI Chief Branding Officer , Creative Directorを務める木村 高典さんとともに行われたトークセッションの様子をご紹介します。後半の記事もお楽しみに!