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「パーパス策定から4年。パーパスブランディングがもたらした社員の行動変革、ぐるなびの今。」イベントレポート:後編

2024年7月19日、企業ブランディングなどを手掛ける「 IGI(株式会社たきコーポレーション)」が主催するトークイベントに、株式会社ぐるなびのブランドマネージャー 廣瀬 一子が登壇しました。
本イベントの前段ではぐるなびから、パーパス策定後に推進してきた浸透施策の事例を中心にご紹介しました。(前編のレポートはこちら
後編では、2020年にぐるなびのリブランディングプロジェクトのプロデューサーを担当した、たきコーポレーション・IGI 井上元気代表のファシリテーションのもと、ブランドプランナーとして同プロジェクトをリードした、たきコーポレーション・ZERO 事業開発室の竹嶋晋部長、クリエイティブ・ディレクターを務めた、たきコーポレーション・IGI Chief Branding Officer , Creative Directorの木村 高典さんとともに行われたトークセッションの一部をご紹介します。「パーパス策定の効果を紐解く」と題し、「策定編」「浸透編」「未来編」の3つのテーマに分けて活発な意見交換がされました。

「刷新」ではなく「再構築」 
役員も社員も巻き込むプロセスを重視したぐるなびのパーパス策定

まずは「策定編」について。このセクションでは、ぐるなびがパーパスを再定義するに至った背景や、その過程で直面した困難などについて話されました。

井上氏「策定フェーズを振り返って、今だから話せる大変だった裏話や、逆に楽しかったシーンがあれば教えてください」

竹嶋氏「もともと育まれた文化を変化させる、先人のパワーを次に繋いでいくことの大変さはありましたね。『日本の食文化を守り育てる』という、そのままパーパスにしたいほどの素晴らしい企業理念がぐるなびにはありましたから。杉原社長が『社員全員に意見を聞こう、そのプロセスが大事だ』と言っていたのが印象的でした」

廣瀬「そうですね。特に『日本の食文化を守り育てる』というもともとの企業使命は、私自身も含め、多くの社員が誇りに思っていました。その点も踏まえ、今回のリブランドは『刷新』ではなく、あくまで『再構築』として進められました。引き継いでいくべきぐるなびのDNAと、新しく身につけていくべきことの両軸を大切にするのは、簡単ではなかったです。
まず、スタートラインに立つためにエネルギー使いましたね。当時の9名の経営層全員参加での策定だったので、数時間のワークショップを数ヶ月間に渡って経営陣と実施するための調整は、かなりハードル高かったです。
弊社の場合、経営層全員がパーパス策定に参加する意義とメリットを重視したので、その大変さは想定内でしたが、最後まで気が抜けませんでした。すべて終わった後に、ようやく肩の荷がおりました」

木村氏「私はブランディングのディレクターとしてパーパス策定支援に携わり、『どんな考え方をするとパーパスができるのか?』という、多くの問いかけをするような関わり方をしていました。役員の方々がたくさんのアイデアを持っていらして、話を聞いているだけですごく楽しかったです。
役員の方だけではなく、若手社員の方々にも尋ねていけるようなプロセスを意識して辿りました。そこには、ぐるなびの未来だけでなく、世の中の食文化がどうなっていけばいいのかという展望も含めさせてもらいました。『ぐるなびの元気を取り戻す』というところから始まったプロジェクトでしたが、そうは思えないほど、ものすごく勢いがあった印象です」

井上氏「続いて、会場の方からの質問です。大きな変革というのは、社員にとってはすぐには受け入れ難い側面もあると思います。例えば、社内プロジェクトだと忙しい社員には好意的に協力してもらえない時があるといった声も聞こえますが、ぐるなびさんの場合はどうでしたか?」

廣瀬「ぐるなびのパーパス策定に関して言うと、もともとが社員も巻き込むプロセスで作り上げていました。そこはIGIさんの設計の賜物なのですが、事前にいかに現場の意見を引き出して取り込んでいけるか、というのが肝だったと思います。
弊社の中でも、『それって本当に必要なの?』というスタンスの方はいました。でも、そういう人とほど丁寧にコミュニケーションを取ると、その方ならではの意見があり、抱えている課題も見えたりして、最終的に推進力になったりもしました。すべてが決まってから共有するのではなく、『こういう風に考えている最中なのだが、どうだろうか?』というアプローチですね。問題は、そこにどのくらい時間をかけられるか……というところかなと思います」

竹嶋氏「社員の方にどれだけ『自分も参加した』と思ってもらえるかが大事ですよね。いくら後から取り繕っても、他人事になってしまう。可能な限り徹底的に参加してもらい、それを形にしていくプロセスをオープンに発信していくことも大事なポイントです」

木村氏「ワークショップのやり方も様々ありますが、コミットしている方のみに伝えるのではなく、逆にコミットしていない方に理解してもらうための場にもなるんです。こちらが答えを伝えるのではなく、皆さんに考えていただく。“Why”を投げかけ続け、問い続け、その方なりの答えを導き出していく。参加者が主体的に考える場をつくる。そうすることで、皆さんが当事者になります」

井上氏「そうやって、変容がみられた参加者ほど、積極的に意見を出してくれるようになることはたしかにありますよね」

社員へのパーパス浸透と現場の課題
熱意ある社員とのつながりを推進の原動力に

2つ目のテーマは「浸透編」です。パーパスを策定することが重要である一方、それを社員にどのように浸透させ、実際の行動に結びつけるかが、次の大きな課題となります。このパートでは、実際にパーパスを現場に浸透させるための活動と、それに伴う困難について討論されました。

井上氏「参加者の皆さんのアンケ―トでも特に多かったのが、『浸透施策で最も難しいと感じたポイント』についてです。浸透施策を進めてきたこの3年間のお話をお伺いできたらと思います」

廣瀬「ぐるなびのパーパス策定は、創業以来もっとも大きな試練に直面していた中で、『全社員が共通認識のもと長期視点で価値創出に取り組むため』に実行されましたが、今はまだ、完全にその状況を脱したとはいえません。
特にこの3年、社員たちは業績回復のための高ハードルな目標をクリアすべく、どの部署も常にフル稼働の状態。そんな風に、目の前の実務がとても忙しい中では余裕もなくなり、主体的なリアクションを貰うことがなかなか難しくなります。会社の状況と、実際にやるべき施策とのバランスをとらなければいけないのが、とても難しい。その点では、今もまだ過渡期にいると感じています。
現場の社員を無視した浸透施策は意味がないので、現場の負荷にならないように、やりすぎず・やらなすぎずの中間を取っているのが、今の浸透活動のリアルな現状です」

木村氏「会社が黒字化するというミッションと、パーパス浸透が別のものに見えてしまっていることに課題がありそうだなと思いました。黒字化が達成された時に、『パーパスがあったからこそ乗り切れた』という形になってほしいですね」

井上氏「浸透施策に対して、社員の方からの反発もあったのでしょうか?」

廣瀬「忙しいことを理由に協力しないという社員も中にはいますが、そのこと自体を急激に減らすことは難しいと感じています。今は状況を見ながら、じわじわと行動変容を促してるフェーズですね」

竹嶋氏「廣瀬さんはそんな中でも、たった一人でブランディング施策を推進し、やりきっていらっしゃるのがすごいところです。どうしてやりきれるのですか?」

廣瀬「はい、実は、ブランディングを主務としている社員はまだ自分しかいないので、基本は全部一人でやるしかありません。その一方で、広報や人事をはじめ、施策推進に協力してくれる部署も多いんです。なので、連携してくれる各部署のみんなが、今の私のチームメイトだと思ってます。
なんでやりきれるかというと……前向きに協力してくれる社員や、会社をどうにかしたいという熱意がある社員の存在に、励まされているんだと思います。この人たちが居続けたいと思えるような会社にしたいと思うと、自然とやらなきゃとなる。そこは私の原動力の一つかもしれません」

木村氏「ブランディングの活動が見える化され、活動が全て辿れるようにアーカイブされていることも、なかなかできないことですよね」

廣瀬「そうですね。一人組織なので、アウトプットの見える化とアーカイヴは常に心がけています。本当は、将来的には、私のような推進担当がいなくても自走できる状態になるのがベストだと思ってるので、そこに向かっていきたいと思っています」

パーパスの体現による企業成長を目指して

最後のテーマとなる「未来編」では、パーパスがどのように今後のぐるなびの成長に貢献していくのか、そして企業全体としての未来像について討論されました。

井上氏「廣瀬さんが、将来的に取り組みたいと考えている浸透施策はありますか?」

廣瀬「ものすごくたくさんあります。直近3年の施策はすべて内製でやっているので、やれることに限界があったのですが、今後はCI(コーポレートアイデンティティ)のリニューアルなども視野に入れたいです。ロゴは会社のアイデンティティ表現そのものなので、そこを進化させることも重要なのではないかと個人的には構想しています。パーパスのコンセプトにもちゃんと沿った、新しいCIを作りたいですね」

木村氏「パーパスを基点に考えるというのが素敵です」

廣瀬「もしやるとなった場合は、外部のデザイナーさんに丸投げするのではなく、パーパスと同じように、社員も巻き込むプロセスで作りたいと思っています」

井上氏「廣瀬さんがパーパスを通して実現したい会社の姿については、現状何%くらい実現できていると思いますか?」

廣瀬「直感だと25%……50%くらいに感じる時もあるけど、それ以上になったことはないです。業績として認められるだけの成果が出せて、ステークホルダーである株主の方々や社会にも認めていただけるようになって、初めて80〜90%といえると思っているので。もちろん、浸透がうまくいきはじめていると実感することはありますが、先ほどの杉原からのコメントにもあった通り、まだまだ道半ばという認識ですね」

井上氏「最後に、廣瀬さんからIGIへの質問はありますか?」

廣瀬「パーパスは、企業や個人の未来にどのような影響をもたらすか?ということについて聞いてみたいです」

木村氏「流行りにのってパーパスを策定したが、意義を理解しないまま策定してしまいうまく使えてない会社もあるのではないかと思います。そういった企業が今一度、魂から出てくるようなパーパスが必要なんだと気づいてほしいですね。それが考えられると、世の中に対して意見を持つことができるようになります。そうなると、自社の商品も、理念もあるべき姿を考えれられるようになるし、会社も良くなっていくと思います。
会社を選ぶ際に『パーパスが素晴らしいと思える会社に入りたい』という時代も来るでしょう。それが個人の自己実現にもつながり、素敵な影響をもたらすと思います」

竹嶋氏「若い方が、自分が成長できる会社を探す際に、パ-パスが判断基準になるし、会社の強みになると思います。社会の中でどのようなポジショニングにいるか……というのがわかりやすくなるのがパーパスのあるべき姿で、会社の方向性を明確にするものだからです」

廣瀬「私たちも、これからもっとパーパスを強みとして、社員一人ひとりが胸を張って自ら語ることができる状況を目指していくことが大事ですね。これからもパーパスの体現に向けて、試行錯誤していきたいと思います」

イベントの参加者からは、主に現場でのリアルな体験談に関する質問が多く寄せられていたのが印象的でした。「実は一人でブランディングを担当している」と廣瀬からリアルなエピソードが披露されると、「勇気が出ました」「やる気になりました」という会場の声も。
トークセッションの後に行われた交流会でも、様々な企業のブランド担当者が集っての意見交換がされ、パーパスやその浸透施策に関する重要性を実感しました。以上、イベントレポ―トでした!


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