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虚空の中で見たもの

疑念が確信に変わった瞬間
中学2年生、いじめがきっかけで不登校だった俺は自室でpcゲームやネットサーフィンに明け暮れていた。
父親は忌まわしき予感に駆られつつ、静かに居ることなど許されぬような状態だった。
三日ほど伯父が電話に出なかったからだ。
曾祖母(ここではおばあちゃんと呼ぶ)と伯父は一緒に住んでいたが、おばあちゃんは重度の癌のため入院生活をしていた。
そのため父と伯父は密に連絡をとっていた。
だけど三日間も電話に出ない。
弟である父は何か嫌な予感がしたのだろう。
父親は嫌な予感を感じながらも伯父の家に向かう。
車で2時間ほど走らせ、インターホンを押す。
人がいる気配もない、ドアからはほんのりと腐敗臭がする。
慌てた親父は警察を呼び、ドアを開けてもらった。
伯父はベッドに倒れて亡くなっていた。
司法解剖の結果、肝硬変による死亡だった。

伯父はおばあちゃんの寿命がもうすぐと言うこともあり、自営業の仕事を断り、面会などをしていた。
おばあちゃんは日に日に体調が悪くなり、伯父も気が滅入っていたのだろう。朝から酎ハイを飲みまくる日々。
昭和のオヤジということもあり、ちょっとの体調不良で病院に行くことなどなかった。
おそらく現実逃避するように酎ハイを飲んでいたのだと思う。

そんな中、伯父を追いかけるようにおばあちゃんも亡くなってしまった。
俺は事実を受け入れられなかった。
多分現実じゃないと思ったし、驚きを超えて冷静さまであった。
次第に死というものを受け入れられるようになったと同時に、虚空に襲われた。

一ヶ月ほど経ち、伯父の家を引き払う前にみんなで行くことになった。
おばあちゃんと住んでいた伯父の家は、俺の想像の100倍は酷かった。
ベッドには赤黒いシミ、嗅いだことのない匂い。
救急の人が言うには、ベッドに横たわるように倒れ、亡くなってしまったらしい。
死亡から発見までは1週間くらい経っていた為、腐敗して体液なども溢れ出ていたようだ。
あの匂いは一生忘れない、例えることもできない匂いだ。

「欲しいものなどがあれば今のうちにとっておけ」
親父がそう言った。
俺は伯父が愛用していた古銭入れと時計、テレビを持って帰ることにした。
人間というのはおかしなもので、テレビのリモコンに染みついた腐敗臭でさえ、伯父が側にいるような感覚になった。

ふとキッチンを見ると、カピカピに固まったカップのコーンスープが置いてあった。
肝硬変だった伯父は、少しでも食べ物を口に入れようとしていたのだろう。ファミマのコーンスープ、今でも鮮明に思い出せる。
いつも優しかった伯父は、誰にも相談できなかったのだろう。
体の力が抜けて、涙が流れる。
酎ハイだらけのキッチン、原因はこれなのだ。
おじいちゃん(親父と伯父の父)もアル中で死んでいる。
親父の家系は糖尿家系ですごく病気だらけなのだ。
伯父は自分の父が大嫌いだったらしいが、ほぼ同じ死に方だった。
父親方のおじいちゃんは、親父が中学生の時に亡くなっている。

母親方のおじいちゃんは俺が5歳の時に亡くなり、伯父は俺にとってはおじいちゃんのような存在だった。
照れ屋で温厚で、優しい人だった。
ほのかに聞こえる程度の音量で、宇多田ヒカルの歌が流れているクラウン。
伯父とおばあちゃんの家に行くと、伯父は俺を連れ出し二人で車に乗る、いろんなところに連れて行ってくれた。
ゲームセンターに行けば好きなだけゲームをさせてくれるし、欲しいものはなんでも買ってくれた。
親父の嫌なことも、全てを話せるような存在
伯父と会う前日は羊を数えても興奮で眠れなかったくらいだ。

そんな伯父がもういない。
俺が一番好きだった人だった。
将来伯父のもとで働くと約束していた。

伯父とおばあちゃんが亡くなってから、もうすぐで10年が経つ。
おばあちゃん、お兄ちゃん(伯父)、元気ですか。
お兄ちゃんみたいになりたくて建築業界に飛び込んだんだよ。
俺も会社を作ったんだよ、お兄ちゃんの屋号を社名に入れたんだ。
同じ方向を向いて歩く仲間もできたんだ。
2年頑張ったけど自分のミスで負債ができて畳んじゃった、俺ってバカだよね、仲間も友達も失っちゃったよ。
嫌なこと全て投げ捨てて逃げちゃったよ、ごめんなさい。
家族とも一方的に全て消して、疎遠になっちゃったんだ。
一緒に写真撮りたかったな、もっと遊びたかったな。
一緒に仕事したかったし、一緒に暮らしたかったな。
東京出てきてから優しい友達にも恵まれたんだ、会わせたかったな。
東京に出てきてから、毎月お墓参り行ってるよ。
いつも俺のこと支えてくれてありがとう。
辛い時も寄り添ってくれてありがとう。
昔醤油を入れすぎた黒いチャーハン食べさせてごめんね。
あれから昔より料理も上手になったよ。
人を好きになって恋もしたし、大切な友達もできたよ。
今、人生をかけてやりたいことが見つかったんだ。
これからまた会社を作って頑張るんだ。
二人にも洋服着て欲しかったな。
これから下の名前を変えるんだ、二人なら背中押してくれるよね。
いつかお兄ちゃんおばあちゃんがびっくりするような大成をするんだ。
困っている人を助けられるような優しい男になるよ。

これからも俺たち家族を守って、時には慰めて欲しいな。
事業失敗してから孤独で暗闇の中にいるような感覚だけど、いつか全て精算して胸張って生きれるように頑張るから、応援していて欲しいな。

がむしゃらに頑張るので
いつかそっちに行った時は甘えさせてください。
いつもありがとう。


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