オランダで気付かされる、幸福な「ゆるふわナショナリズム」 -Amsterdam-
どういう時に「自分が日本人であるというバックグラウンド」をもった上で感動しますか?
オリンピックやワールドカップなどのスポーツ競技応援中?
ごはんがおいしいとき?
繊細な技術を目の当たりにした時?
私は、オランダ・アムステルダムで出会ったゴッホ美術館の期間展示「ゴッホと日本」でそんな感動に出会いました。
ちなみに、看板はこちら。
しょーもないなって思いませんでしたか?
「なんかちゃちい展示をヨーロッパでやってるのね、ハイハイ」くらいにしか思わなくないですか?
私は全く期待せず入館しました。
常設展示→期間展示 の順で。
常設展示では、ゴッホの作品を時系列順に見ていきます。
初期の農夫らを描くものから始まり、晩年の作品まで。
絵に関してど素人の私ですが、彼の死の3年ほど前から、画風が少し変わったことに気づきました。
それは、輪郭。
輪郭の縁取りがなかったのに、それっぽいものが急に現れたのです。黒でなく、濃い紫などで。
日本の漫画絵では当たり前のように使われている、黒い輪郭を思い描いてもらうとイメージが一番近いです。ものすっごい太くて濃い色が、対象物を囲んでいる。
いったい何が起こったのだろう。
釈然としない気持ちを抱えて、期間展示「ゴッホと日本」へと向かいました。
入った瞬間、目に飛び込んでくる、赤、金、濃緑の作品たち。
そう、先頭に飾られていたのは、ゴッホが日本画を模写したものでした。
日本が開国した後、美術品はヨーロッパへも流れていた。
そしてゴッホは、日本画に魅了され、多くの日本画を買い集めた。
彼が日本画で着目したのは、輪郭をはっきりとさせることと、平らな部分に明るい色を使うことだった。
さらに彼は、日本画にあるような明るい色が見えるように、暖かい気候の南フランスへ引越しまでしたという。
なんていうことだ。
常設展で気になった、彼の作品に訪れた輪郭の変化は日本画の影響によるものだった。
ついさっきまで自分が見てきたものと母国が繋がった瞬間、言いようのない感動を覚えました。
美術館でこんなにも心が震えたのは初めてでした。
全く異なる時代に母国から影響を与えられた人がいて、その感動が100年以上たった今へと受け継がれている。
周りを見渡すと、日本人とは異なる外見の人々が静かに作品たちを眺めている。
私は初めて訪れた地・アムステルダムで、ゴッホが所蔵した日本画を見ているという不思議。
なんて素敵なんでしょう。
いっぱいの予想外に打ちのめされた、最高の時間でした。
本展示についてはNew York Timesが展示作品も含め大きく取り上げてくれているので、ぜひご覧ください。
※英語が苦手な方でも、たくさん載っている展示作品だけでも楽しめると思います
上記記事のサムネ画像になっている桜の絵が今回の展示のメイン作品。
この絵はゴッホの姪が生まれた時に、お祝いとして描かれたものだそうで、彼が「桜は春と新生活のシンボルである」と理解した上で、桜をお祝い事での絵の対象に選んでくれたのだと思うと、とても心が暖かくなりました。
美術史を勉強したとしても、座学ではこんな感動や温かさにはなかなか出会えない。
こういう気持ちに出会うために、私は旅をするのかもしれないと、自分の新たな一面を見つけた日でした。
主に心が動いた瞬間を切り取るために使っています。
本投稿のサムネ画像に使用したのは、美術館お土産品のメガネケース。PC用メガネをいれて毎日手元においています。
ただただ私が幸福なだけの、自分勝手な気持ち。ゆるふわナショナリズム。