桐野夏生『日没』
小説家=マッツ夢井のもとに一通の手紙が届いた。
差出人は「総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会」(通称ブンリン)という政府機関。
マッツは彼女の書いた小説の内容に問題があるとして、読者から提訴されていた。
ブンリンは事情聴取を行いたい旨の手紙を一度マッツに送っていたのだが、彼女はそれをスルー。
業を煮やした先方が送ってきた二度目の手紙は、出頭を要請する召喚状だったのだ。
渋々出頭先に向かったマッツは、必死の弁明も虚しく、断崖に聳える海辺の療養所に収容される。
「規則正しい生活を送り、健全な精神を培い、社会に適した小説を書きなさい」と命じられた彼女を待ち受けていたのは、療養所とは名ばかりの、刑務所以上に劣悪かつ非道な待遇だった。
終わりの見えない軟禁生活で、徐々に精神と肉体を蝕まれていくマッツ。
果たして彼女は理不尽な「矯正」を受け入れ、無事に退所する事ができるのか...。
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まあ言うまでもなくディストピア系の小説なんすけど、同時に強烈な社会風刺でもある。
筒井道隆氏の言葉を借りるなら「国家が正義を振りかざして蹂躙する表現の自由」。
いやマジでそれに尽きるっていうか。つーかそんなんばっかよね。最近。
そんで、国のやる事だから正しいんだ〜って、盲目的に従う人も多くて辟易する毎日。少しは勉強しろ、マジで。
ポリコレなんてその最たるモンじゃん。
で、本作には「これってもう現実で起きてんじゃん...」って感じさせる描写が満載で、常に戦慄と絶望の間を行ったり来たりしましたよ。
そしてそれ以上に、身勝手で愚鈍な支配者たちには非常に腹が立ったっすね。
怒りの感情って諸々の原動力になるじゃないすか。だから大事なんだけど、支配者はそれが厄介ってわかってるから、あの手この手でそれをうまく沈静化しようとしますよね。
わけもわからずに与えられた薬は、安易に飲み込まず吐き出すべきよな。ついでに唾も吐きかけてやったらいい。知恵で武装する事も忘れずに。アナーキーin JP。
ところで主人公の「マッツ夢井」って名前だけは、どうにかならんかったんか笑。
シリアスな場面で「マッツ!」って言われると、なんか笑えるっていうか、緊張感に欠けるのよね。だって「マッツ」だよ、「マッツ」。
え、ワタシだけかな。まあいいけど笑。
それはそうと桐野夏生さんて、大昔になんか読んでそれっきりだったんだけど、本作が好みすぎたんで、今後も俄然追いかけたくなったっすね。
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