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「暗黒面の寓話・#29:秘薬」

(Sub:古典を強引にこじつけてみよう、、、)

我が家系には千年来、門外不出の秘薬が伝わっている。
代々、当主だけがその製法を受け継ぎ、けして外部に持ち出すことはない。

それは “ある種の強壮剤” で、とてつもない効果をもたらすのだがその代償となる副作用も尋常ではなく、服用したものは超常の力を得る代わりに化け物となりはてる。

その薬の名を “化被丹”、という。

“化被丹” は、もともとは合戦の際に兵士の精神と肉体を興奮状態にさせて恐怖心を取り除き、一時的に肉体を強化(痛みを感じなくさせる)する目的でつくられた薬だった。
そして、何世代にもわたり研究と改良を重ねていった結果、凄まじい効能を発揮する禍々しい秘薬となってしまった。

“化被丹” を服用すると短時間のうちに特異なホルモン分泌が始まり、異常な興奮状態となって闘争本能が極大化する。
その結果、恐怖心や警戒心がなくなってしまい、それらが抑制していた肉体の潜在能力が極限まで駆使ができるようになる。
現代戦でも夜間戦闘などの際に兵士の恐怖心を取り除く為に使用する “ウォー・ドラッグ” と似たような作用だ。

それと同時に細胞の異常増殖が始まり、短期間で肉体の巨大化が始まる。
要は、将来(寿命)を見据えた持続的な成長をかなぐり捨てて、短期的な肉体強化に身体の全リソースを振り分ける異常な細胞増殖が起こるのだ。

通常の細胞分裂では、1つの細胞は2つに分裂する倍数増殖をする。
だが、“化被丹”を服用するとその細胞が持っている残存テロメアの分(あと何回細胞分裂ができるか)を一気に分裂増殖するのだ。
10回分のテロメア(回数券)が残っている細胞は、本来は長い時間の中で10回の倍数増殖をするのだが、“化被丹” の作用により一度に10倍の分裂増殖をするようになる。

その結果、“化被丹” を服用したものは急激に肉体が巨大化し、闘争心に支配された ”怪物” と化す。
まさに、“バーカーサー・モード“ の ”怪物“ となるのだ。

そして、一旦、“バーカーサー・モード“ となった ”怪物“ は制御が効かない。
“怪物” は破壊と殺戮の化身となって暴れまわるのだ。

時代を問わず、戦争における戦闘の主目的は、占領と征服であって殲滅ではない。
だから、敵味方の区別もなく周りの全ての者に襲い掛かってくる “怪物” など戦力としては好ましい存在ではない。

だが、敵側が圧倒的に優勢な場合や、或いは、自軍が壊滅しそうになっていて後がない場合など、敵を粉砕できればそれでいいいう場面では “最後の切り札” ともなりうる。
要は、リスクをかなぐり捨てた “自爆技“ に等しいのだ。

だからこその門外不出、当主以外は製法を知らない秘薬なのだ。

“お家” の存続にかかわる非常事態、
“お国“ の存亡にかかわる非常事態、
”ヒト“ の滅亡にかかわる非常事態、

どんなことをしても、どんな犠牲を払ってでも倒さなければならない相手が現れた時だけ、この秘薬を用いるようにと千年の間、伝聞されている。

かつて、いにしえの昔、我が先祖の暮す国が “鬼” の軍勢に攻められたことがあったという。
その際に、当時の当主がこの秘薬を用いて “鬼” を殲滅したと伝わっている。

伝承では、当主はこの秘薬を団子に混ぜて ”3匹の従者” に与え、“鬼” と戦わせたという。

“猿” は、巨大な大猿となって、その拳で鬼を粉砕した。

“雉“ は、巨大な怪鳥になり、空から突風で鬼を薙ぎ払った。

そして、より多くの団子を食べた “犬“ は、まさに異形の化け物となった。

“犬” は躰が巨大化するだけではなく全身が溶岩のように変化し、口から青い炎を吐く化け物となって鬼の住処を焼き払った。
背中には背びれが生え、その背びれを青く光らせながら炎を吐く姿は龍のようであったという。

鬼の拠点であった沖合の島はこの3匹によって粉砕され、そこに暮らしていた鬼達は皆殺しとなり鬼の国は一夜にして滅亡した。

そして、鬼を狩りつくした後、もともと不仲であった3匹は互いを攻撃し始め、三つ巴の死闘を繰り広げたという。
その結果、島は荒れ果て、最後は海に沈んだと伝わっている。
島が沈むと3匹はそれぞれ大海原の彼方へと去ったらしい。

そのあまりにも凄惨な様子を目の当たりにした祖先は、この秘薬を封印し門外不出としたのだという。

わたしは現在、その秘薬を受け継ぐ “百千(ももち)家・宗家” の24代目当主をしている。
わたしも先代の当主(父)から秘薬とその製法を受け継ぎ管理をしている。
そして、我が百千家の当主となった者には、秘薬の製法と共にもう一つ受け継がれるものがある。

それは、秘薬を用いた末に制御の利かなくなった怪物を屠るための毒だ。
秘薬で肉体が異常活性した怪物は並大抵の毒では殺すことができない。
だから、その毒はとてつもなく強力で危険なモノだった。

かつて、一度だけ、先代当主の時代にその毒を使ったことがあった。
何百年かぶりに “犬” がこの国に舞い戻ってきたのだ。

“おおと島“ を襲撃した ”犬“ は、その後、東京に襲来して街を破壊し甚大な被害を及ぼした。
その際に、“帝都大学の芹サワ教授” に密かにその毒を提供し、怪物を撃退したのだ。
教授は自ら毒を持って怪物と対峙し、そして帰らぬ人となった。

その際、教授はその毒が自身が纏った潜水服をも浸透し、自らをも死に至らしめるとは思っていなかっただろう。
そして、先代にはそれがわかっていたはずだ。

この世界そのものを滅ぼしかねない究極の毒物を好奇心旺盛な研究者などの手にゆだねることなどできはしないのだ。
あくまでも、目の前にある脅威に対処するための合理的な体裁として “帝都大の教授“ という立場を利用させてもらったということだ。
そして、怪物と毒の秘密とともに海の底に沈んでいただいたのだ。

世の中には、白日の下に出てはいけないものがある。
それらは、おとぎ話の中だけで語られていればいいのだ。

我が家の秘薬、“化被丹” は、おとぎ話の中で “キビダンゴ” として伝承されている。

《もしもし、モモチの当主(太郎)様》
《お腰に付けた“化被団子”、ひとつわたしにくださいな》

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