「暗黒面の寓話・#16:悪い奴」
(Sub:真逆のストーリーにしてみた、、、!?)
俺の名前は風見シン、エリア99の戦闘機パイロットだ。
俺は日本人だが、訳あって中東で内戦をしているとある国の外人部隊に所属している。
その国・”アスラム” は、元々は王政の独裁国家だったのだが、近年の “アラブの春“ の影響を受けて民主化闘争が始まり、現在は圧政を敷く政府側と民主自由化を目指す反政府側に分かれて内戦をしている。
アスラム政府は、急な内戦の勃発に実務対応ができる人材が不足したため、有り余るオイル・マネーに物を言わせて国外から人材をかき集めて外人部隊を結成したのだ。
その中でも空軍関係の人材、特に戦闘機パイロットはその育成に手間と時間がかかるため、即戦力となる人材には法外な報酬が支払われていた。
俺もその中の一人というわけだ。
俺は元々、日本の民間航空会社であるムサシ航空の新人パイロットだった。
新人パイロットとしての最後の実務試験であった “成田-パリ間” の研修乗務を無事に終了した日の夜、俺は幼馴染で同期の研修生であった蟹崎と二人でパリの街で祝杯をあげていた。
そして、、、
俺は蟹崎の酒に細工をした。 ヤツの酒に薬を盛ったのだ。
泥酔した蟹崎とホテルに戻った俺は、ヤツを揺り起こしてとある書類に署名をさせた。
寝ぼけていたヤツに “外泊許可証” へのサインだと偽ってサインをさせた。
その書類は日本の “婚姻届” だった。
新婦の欄には既に “良子(ヨシコ)” の署名と押印がされている。
俺は蟹崎の親指に朱肉を付けて押印欄に押し当ててから、書類を取りまとめて封をした。
それを後ほどドゴール空港で良子の代理人に手渡すことになっていた。
良子はムサシ航空社長の一人娘で、以前からしつこく蟹崎に言い寄っていた女だった。
小太りで不細工なうえ、横暴で我儘で、いい処が一つもないような女だったが、社長令嬢であるため無下にもできず、俺たちは仕方なく友人として付き合っていた。
そんな良子は蟹崎に惚れたらしく、蟹崎に付きまとうようになっていた。
俺としては蟹崎の方に行ってくれて正直ほっとしていたのだが、
そんな良子がある時、俺に相談を持ち掛けてきた。
“どんなことをしてでも、蟹崎と一緒になりたいから力を貸せ”、 と
正直、最初はとんでもない話だと思った。
この女のことは嫌いだったし、なによりも蟹崎は同じ孤児院で一緒に育った兄弟のような友人だったのだから。
その友人を裏切ることはできないと思ったのだ。
だが、良子の話を聞いているうちに俺の心は少しずつ動かされていった。
もし、この頼みを断ったら、、、
ムサシ航空では二度と飛行機に乗れなくされること、
引き受ければ、1千万円の報酬が貰えること、
そして、、、
その後の逃避行の先として、紹介された “ある場所” のこと、
最期の “ある場所” の件が、眠っていた俺の野心を目覚めさせた。
実は俺は、筋金入りのヒコーキ・オタク だった。
それも、レシプロ小型機や、鈍重な旅客機ではなく、
音速で大空を突き進むジェット戦闘機マニアだったのだ。
(当然、エスコン・ガチ勢だった!)
パイロットを志して、なんとか民間機の操縦士へとたどり着いたけれど、
心の奥底には戦闘機乗りへの憧れが燻っていたのだ。
けして叶うことがないと思っていた、
“ジェット戦闘機に乗って実戦に参加する”、
という夢が叶うというのだ!
おまけに、契約すれば100万ドルという大金まで貰えるという。
その時、俺の心の奥底で “とある獣” が目覚めようとしていた。
そして、、、
**************
俺は今、中東の大空をジェットに乗って駆け抜けている!
俺は自分の人生を謳歌している!
金さえ払えば、より取り見取り、
世界中の好きな戦闘機に乗ることができる!
ヒコーキ・マニアの俺にとってココはまさに楽園だ。
(因みに、今は “サーブ・グリペン” に乗機している)
地上でも、俺は自分好みの美女に囲まれて暮らしている
(アスラムは一夫多妻制なのだ)。
正直に言うと、蟹崎には(良子を押し付けたことを)申し訳なく思うが、
“漢“ だったら、自分の野心に忠実に生きてみたいと思うのはしかたがないことだ。
“明日は、空のかなたで塵に砕けるかもしれない“、
だからこそ、今という一瞬の生が光り輝くのだと俺は思う。
気に入った愛機を駆って大空を駆け巡り、美しい女を抱いて、旨い酒を飲む、俺は欲しいものを全て手に入れた。それのどこが悪いというのか?
俺は “善いアヒル” ではなく、“悪い鷹” として生きることを選んだのだ。
俺の愛機の尾翼には、“とある獣、不純の印・二角獣(バイコーン)” が描かれている。
俺の名前は、風見シン、 エリア・99 のエース・パイロットだ。
「暗黒面の寓話・#17:戦死の苦悩」|十里栗 (note.com)