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「暗黒面の寓話・#20:プローブ」

(Sub:有名な古典を強引に解釈してみよう、、、!?)

その文明はほどなく死滅する運命にあった。
その太陽系の主星が遠くない未来に赤色巨星化する運命にあったのだ。
その太陽の周りを回る幾つかの惑星上に栄えていた高度な文明も、その滅亡を阻止する手立てを有してはいなかった。

人々が生き残るためには他の太陽系の星へ移住するしかなかった。
幸い、その文明では辛うじて恒星間の移住を可能にするレベルの技術力を有していた。
総力をあげれば、恒星間移民を実現するための脱出船を建造することは可能に思われた。

だが、肝心の移住先がまだ見つかっていなかった。

以前から太陽系外へ探査機などを飛ばしてはいたが、何光年も離れた別の太陽系の調査などは行われたことがなかったのだ。

脱出船は当てもなく希望の地を求めて宇宙を彷徨わけにはいかない。
最大人数の乗客を乗せるためには、余分な距離を航海するための物資を積むことなどできないのだ。
だから、脱出船の目的地となる星を早急に定めなければならなかった。

既に候補となりそうな星は、遠隔探査のスペクトル分析によって選抜されている。
天文学者たちの努力によって、50光年以内という比較的近い距離(!)にあり、地殻(大地)と液体の水が存在している惑星が既に1000個程度見出されている。

だが、それらを絞り込む為の詳細な情報は、遠隔探査では確認できない。
だからといって、探検隊を送り込むわけにもいかなかった。

1000余の星を全て探検していたら数百年かかってしまうし、一か八かでそのうちいくつかを探検するという方法もとることもできない。
偶々いい星にあたればいいが、外れを引けば人類滅亡ということになるのだから。

そこで、候補となった1000余の星全てに探査プローブを送り込むことになった。
全ての可能性を漏れなく確かめるのだ。それでだめなら諦めもつくというものだ。

しかし、その探査プローブの開発は困難を極めるものとなった。
プローブは、送り込まれた星が確実に移住に適するものであることを確認できなければならないからだ。

その為には多種多様な項目をチェックしなければならない。
温度、湿度、大気の組成、気候の変化、有害放射線、天然の有毒物質、有害病原体の有無、危険生物の存在、など多岐にわたるのだ。

そしてプローブはそれらについて、一定の期間モニターし続けなければならない。
“問題ない状態が 安定して継続している” ことが重要だからだ。
なにより、脱出船が到着してから問題が発覚するという事態は避けなければならない。
脱出船には、到着した星に問題があったからといって他の星にゆく余裕などないのだ。

そして、もう一つの問題が送り出さなければないプローブの数だった。
1000余の星全てを調べるには、その数の探査プローブを準備しなければならない。

だが、複数の高度なセンサーを装備し、それらを長期間稼働させることができる複雑な探査プローブはもはや小型の宇宙戦艦に匹敵するレベルになってしまう。
そんなものを1000以上も製造することは現実的には不可能だった。
それでなくても脱出船の建造で資源や人員は手一杯なのだ。

困り果てた末、その文明の科学者たちは苦肉の策として “ある方法” をとることにした。

“その方法” であれば、人類生存の障害となる “ありとあらゆる項目” について確実にチェックすることができ、また、ある程度継続的なモニターをすることもできる。

そして、“その方法” がなによりも優れていたのは、人類がその星に移住して生存していくことが可能かどうかを “可/不可の記号” として出力応答してくれることだった。
“可/不可の記号” とは “0 or 1” の1ビット(〇か×)ということであり、最小の通信情報量で包括的な結果を知ることができるのも利点だった。

消費するリソース的にも、複雑で大型の探査機を製造することに比べれば遥かにリーズナブルに準備することができ、脱出船の建造を圧迫することもなかった。

ただ一つ、“倫理的な観点” において疑義があったが、科学者たちはその手法を選択するしかなかった。

その手法とは、小型の生命維持ポッドに ”生きた子供” を乗せて、探査目標の惑星に送り込む、というものだった。

子供の躰には、“生命活動の有無を母星に知らせるマーカー” が埋め込まれ、生きていれば “0” を、死亡した場合は “1” を母星に送信する仕組みになっていた。

つまり、送り込まれた星で “その子供が一定期間死ななければ”、その星は人類が移住するに適した環境が存在しているということになるのだ。

もちろん大切な子供を、そのような “リトマス試験紙” のようなことに供することはできるはずがない。
そのため、惑星に送り込むための専用の ”クローン子供” が作り出された。

そうして ”クローン子供” を載せた、宇宙ポッドは移住候補とされた1000余の惑星へ送り出されていった。

あるポッドは、乾燥した砂漠の星に辿り着き、子供は数日でミイラとなった。

あるポッドは、凍てついた氷の惑星に着陸し、中の子供はそのまま氷漬けになった。

あるポッドは、強い放射線が降り注ぐ大地に降り立ち、子供は一瞬で絶命した。

あるポッドは、緑豊かな惑星に降り立ったが、子供は有害な病原菌に侵されて病死した。

あるポッドは、良好な気候の星に着陸したが、子供は狂暴な原生生物に食い殺された。

送り出したポッドからの信号は、次々と “0” から “1” へ変わっていった。

母星の情報センターにいた一人の女性科学者は、ポッドからの信号をモニターする大型のスクリーンを祈るような気持ちで見つめていた。

彼女が見つめる大型モニター上には、送り出した1000余のポッドからのサインが表示されていたが、そのほとんどは “1”= 死亡 を示していた。

そして、先ほど彼女の見つめる前で、また一つのポッドの表示が “0” から “1” へ変わったのだ。
その女性科学者は、頬を伝わる涙をぬぐいながら、 “ゴメンネ” と小声で呟いていた。
彼女は送り出されたクローン子供の卵子提供者だった。

残っている “0” =生存 → 移住可能 を示しているサインはあと数個しかない。

その残った “0” = 生存 のサインは、その星が人類の生存に適していることを示す証であり、滅亡が迫っている彼らにとって最後の希望だった。

 *************

あるポッドが、温暖な気候の星に辿り着き、ポッドの中の子供はその星に生息していた原生生物によって見つけ出されていた。

その星の環境はポッドの中の子供にも十分に適応可能なものであった。
そして極めて稀有な事ではあったが、子供を見つけたその原生生物は人型で温和な気性であたっため、その子供を保護して育てていた。

そして、数年の月日が流れ、、、

そのポッドが到着した辺境の太陽系の第三惑星で、
一人の若い女性が夜空を眺めながら、ため息をついていた。

彼女が見上げていたのは、
月のすぐよこにあった “こいぬ座のプロキオン” だった。

それを見た、老人が心配して声をかけてくる。

「 “月” をながめてため息をつくなんて」、 
「なにか心配事があるなら教えておくれ、“かぐや姫” 、」




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