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「暗黒面の寓話・#9:成人式」

(Sub:残念なアノ3人組のお話、、、)

やっと俺たち幼馴染の悪ガキ3人組にも “成人の儀“ に臨む時がやってきた。

ガキ大将気質で体も大きなタケシ、少し惚けたチャラ男のケンジ、そして体は小さいけれどケンカ上等のこの俺・ユウタ、地元では有名な悪ガキ・トリオだ。

俺たちの地元では大人になる為の儀式のような祭が昔から執り行われている。

日頃、古臭い仕来りには反発してばかりいる俺たちも、この祭に参加して “大人の印” をもらうことだけは憧れだった。
どんなにイキガッテも “印” の無い者は只のガキでしかなく、周囲の男達から一人前と見なされないからだ。

それももうすぐ終わる。
俺たちはようやく成人の儀に臨める年齢になったのだ。
オヤジも、アニキも、この成人の儀式を乗り越えて “大人” になったのだ。

昨晩、日頃不愛想なオヤジがやってきて “オヤジの出刃包丁“ を持たせてくれた。
古い作りで俺の好みじゃないが、酸にも溶けない丈夫なやつだ。
その後、アニキも自慢のナイフを持たせてくれた。
以前は触らせてもくれなかったボタンでブレードが飛び出るやつだ。

もちろん自分自身でもこの日のためにいろいろ準備はしてきているのだが、オヤジやアニキの気遣いがうれしかったので持ってゆくことにする。
要はお守りだ。

集合場所にやってくると既にタケシやケンジはやってきていた。
タケシのやつは相変わらずの野生児ぶりで身軽ないでたちだ。
ケンジのやつは妙に洒落た格好をしている。

時間になると儀式の “案内役” のゲン爺 がやってきた。
ゲン爺は祭の世話役で、若い頃は凄腕の猟師(掃除人)だったらしい。

ゲン爺は俺たちの荷物をひとつづつ確認すると満足げに頷いてから、儀式の注意事項について説明を始めた。
この儀式では過剰に道具を持ち込むのはご法度なのだ。
最小限の支度で現地に赴き、必要な道具は現地で自力で取得しなければならない。

これから俺たち3人は離れ小島の古い社に赴いて、そこの “お清め“ を行うのだ。
誰にも頼らずに3人の力だけで社に巣くった ”害獣駆除” をする。

一見するとおどろおどろしい話だが、実はタネがあったりもする。
社にいる “害獣” は事前に大人たちが仕込んだものであり、しかも生まれたばかりの幼体ばかりなのだ。
少し興ざめではあるが、害獣自体は本物であり危険がないわけでもない。
実際、時折は怪我人も出るし、過去には死人が出たという噂もある。

まあ、その噂は若者をビビらせるための作り話だと俺たちは察している。
それに、”万が一” の時は直ぐにゲン爺がか駆けつける手筈になっている。

ゲン爺からの説明が終わると俺たちは件の社に向かう船に乗り込んだ。
そこで持ち込んだ道具を互いに見せ合って道具自慢を始める。

まずタケシが新しく買った ”投網” を自慢してくる。

「これスゴイべ。特殊コーティングのチェンソー・ネットだぜ」
「しかも超お買い得価格だった!」

超硬合金に耐食コーティングを施したチェンソー・ネット射出器のようだ。
獲物の動きを封じるにはよい選択かもしれない。
只、バカ安なのが少し気にかかる。
仕様通りの耐久性ならよいのだが?!

次はケンジだ。
ケンジのやつはこともあろうに道具ではなくアクセサリーに投資をしたようだった。

「このスカルどうよ?、いけてるだろ!」

それはまるで歴戦の戦士のように数種類のスカルを連ねたチョーカーだ。
見た目はスゴイが実利は皆無、チャラ男のケンジらしい。

最後は俺の番。おれはアニキから預かった特殊ナイフを取り出した。
トリガーを操作すると一瞬で5枚のレーザー・ブレードが展開する。

「おお、それアキラさんのやつじゃん」、「すげー、かっけー!」

タケシとケンジに賞賛されて、俺はアニキに感謝した。

そうこうしているうちに、”案内役” のゲン爺から声がかかる。

「そろそろ到着すっから、”面” の支度ちゃんとやっとけよ」
「本番中に光学迷彩落ちたらシャレになんねえぞ!」

「それと、あんまりハメはずすんじゃねえぞ」、
「油断してっと火傷すっからな」

そんなゲン爺の忠告も俺たちの耳には届きはしなかった。
何故なら、俺たちは絶対に失敗なんてしないからだ!

それどころか、俺たちは害獣駆除の最短記録更新を狙っている。
速攻でプラズマ・ブラスターをゲットして、最速で害獣駆除を成し遂げる。

そして、堂々と額に “大人の印” を刻むのだ。

俺は燃え上がる闘志を胸にこの試練が始まるのを待ち望んだ。

“俺達3人の冒険物語がこれから始まるのだ!”


「暗黒面の寓話・#10:保護活動」|十里栗 (note.com)

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