「暗黒面の寓話・#10:保護活動」
(Sub:みんなが大好きなあの遊びは、実は危ないことだった!?!、、、)
俺はこれでも国際連合の諮問機関で働く国連職員だ。
俺の仕事は、一部の発展途上国などで未だに行われている動物を使った残虐な遊興行為を取り締まり、そこから動物たちを救い出すことだ。
闘牛や、闘鶏など、動物同士を戦わせてその様子を娯楽とする文化は古くから存在しており、現在は先進国とされている国でもかつては盛んにおこなわれていた歴史がある。
だが、現在は生物の命を尊重する意識が高まり、殆どの先進国ではそうした風習は廃れている。
生き物を傷つけ合わせる行為が非人道的と考えられるようになってきたからだ。
それでもまだ十分な教育が行き届いていない一部の途上国などでは、動物を戦わせる野蛮な行為を “是” としている地域が存在している。
また、そうした地域では、動物闘争遊戯がビジネス市場を形成してしまっていることも根深い問題となっている。
そうした場所では貧困層の若者が一攫千金を夢見て、動物バトルのトレーナーを目指すケースが後を絶たない。
動物バトルのトレーナーとして成功できれば大金を稼ぐことができるようになるからだ。
運動センスがある子供はスポーツ選手を目指し、ケンカが強い子供はギャングになり、どちらも苦手な子供は、動物バトルのトレーナーになるしか貧民街を抜け出す方法がないからだ。
だが、“マスター” と呼ばれる成功者になれるのはごく一部の者だけであり、殆どの者は夢半ばで挫折してより酷い貧困に苦しむことになる。
まず、トレーナーは使役する動物を収容する専用のカプセル(彼らはボールと呼ぶ)を “協会” と呼ばれる非合法組織から入手しなければならないのだが、その対価は非常に高額で、ほとんどの者は借金をしてそのカプセル(ボール)を入手するのだ。
中には親類縁者からなけなしの財産をかき集めて最初のカプセル(ボール)を入手する者もいる。
また、そのカプセル(ボール)も非常に問題のある代物で、小さな容積の中に動物を無理やり収納するため、動物を一時的に “仮死状態” にした後にカプセル(ボール)内に “MP9:三次元物理圧縮“ して収納するという強引な手法をとっているのだ。
MP9は無生物の荷物に対しては非常に有効な圧縮技術であるが、生命体に対しては重大な問題が確認されており、現在は国際条約で生命体への使用が禁止されている。
圧縮時に生体にかかる負荷が極めて大きく、使用するたびに収容された生物の寿命を大幅に縮めてしまうことが分かっているからだ。
更に由々しき問題として、カプセル(ボール)は、それを使用するトレーナー自身にも重大な弊害をもたらす。
MP9が利用する三次元物理圧縮技術では、物質を構成する素粒子の運動を抑えて原子の間の距離を強引に縮めることで対象を本来の状態よりも “小さく折りたたむ“ のだが、この原子間の距離を強引に弄る過程で少なからぬ ”放射線“ が周囲に放出されるのだ。
その為、MP9を利用する正規のシステムでは厳重な放射線シールドが装備されているのだが、件のカプセル(ボール)にはそうした放射線対策は一切備わっていない。
当然、カプセル(ボール)を使用するトレーナーと収容される動物はこの放射線をまともに浴びることになる。
放射線技術者ならば “光(チェレンコフ光)が見えたらヤバイ” というのは常識だが、知識のない子供たちはカプセル(ボール)を使用する際の発光など気にもかけないのだ。
だから、仮にトレーナーとして成功することができたとしても幼少期から放射線を浴び続けた彼らは大人になるまで生きることができない。
現実に大人のトレーナーが ”殆どいない” のはこの問題のせいなのだ。
(※ 俺たち保護官は、この ”カプセル” のことを ”投げるデーモン・コア” と呼んでいる)
カプセルに収容される動物に至ってはわずか数年で死亡してしまう。
狭いカプセルに強引に押し込められ、外に出れば望まぬ闘争を強要される。
動物とて、“拘束と闘争“ を繰り返すだけの短い生涯などあまりにも不憫だ。
俺の仕事は保護官として、そうした境遇にある動物たちを保護し、同時に命の大切さをトレーナーの少年少女に伝えていくことなのだ。
俺の所属部署名は Rescue Observer Cop for Killing Entertainments Task という。
“殺傷遊戯からの保護管理官機構”、 略してR O C K E T。
トレーナーの子供たちからは、“ロケット団“ と呼ばれている。
彼らから見れば、大事な自分達の駒である動物を攫ってゆこうとする悪者だが、動物の命とそしてなによりも彼ら自身の命を守るためには怯むわけにはいかない。
なんだかんだ言われても、やり遂げなければならない重大な任務なのだ。
「暗黒面の寓話・#11:Gの肖像」|十里栗 (note.com)
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