
第22景 住吉明子の幼なごころ@Misakiのアート万華鏡
プロローグ
草むらの中で光る小さな宝物を探していた、あの頃の感覚を覚えているだろうか。年の瀬、何を書こうかと思案していた時に出会った住吉明子さんの個展『Glow』は、私たちの内に眠る幼なごころを優しく揺り起こす、不思議な力を持っていた。
ギャラリーに一歩入ると、そこはまるで森。作品が放つ内なる輝きが、鑑賞者を子供時代の記憶へと誘っていく。その空間には、草むらで感じた驚きや発見、そして畏敬の念が満ちていた。
私も子供の頃、奈良の田舎道で同じような感覚を味わっていた。学校帰りの田んぼ道では、小川にオタマジャクシの群れを見つけたり、春には突如として現れるつくしを探したり。蓮華が一斉に咲く光景は、今でも目に焼き付いている。カマキリやバッタとの出会いに、胸を躍らせた記憶が鮮やかに蘇る。

ウサギと亀が印象的。中心に食べ物があって、みかんや檸檬はまるでお供え物みたい。

銀色で表現された背景は、静かで深淵な森の夜を想起させ、
動物たちの息遣いが聞こえてくるようだ。
暗闇は、未知の世界への誘い、あるいは生命の根源を象徴しているのかもしれない
アーティスト住吉明子の世界
住吉明子さんは、千葉県生まれ。静岡県浜松で幼少期を過ごされた。森の近くで育った幼少期の記憶が、現在の創作活動に大きな影響を与えているという。大学卒業後から作家活動を開始し、立体造形や絵画、インスタレーションなど幅広いジャンルで作品を発表している。
彼女の作品に登場する動物たちは、柔らかで親しみやすい表情を持ちながらも、どこか聖なる雰囲気を漂わせている。その背後には、詳細なリサーチや図鑑を駆使した緻密な制作プロセスが存在する。住吉さんが描く生き物たちは、科学的な観察と詩的な想像力が融合して生まれた存在なのだ。
『Glow』が照らし出すもの
個展『Glow』には、成長と輝きというテーマが込められている。住吉さんはステートメントの中で、「庭という管理下にあるものの中で、それを超えて膨張する生命力」について語る。
自然の持つ力は、人間の管理や意図を超えて、時に思いがけない方向へと伸びていく。その予測不可能な生命の営みこそが、彼女の作品の中核を成しているのだ。
「庭という管理下にあるものの中で、それを超えて膨張する生命力…。その光輝く境界線は、分断しているようにも隣接しているようにも、そして繋ぎ合わせているようにも見えた。」
自然の輝きと生命力を、光や色彩で表現するこの個展。彼女が語る幼い頃の「草むらで宝物を探した記憶」が、作品を通して生き生きとよみがえる。
光と生命が交差する空間
ギャラリーに一歩足を踏み入れると、そこには木漏れ日が差し込むような柔らかな光が満ちていた。作品たちは内側から発光するような生命力を放ち、見る者を子供の頃の記憶へと誘う。
特に印象的だったのは、緑豊かな作品群だ。それぞれが独立した一つの作品でありながら、全体として調和した風景を形成している。動物たちの目には不思議な力が宿っており、まるで観音様に見つめられているような神聖さすら感じさせる。
この感覚は、京都・仁和寺の孔雀図を思い起こさせた。そこでは、孔雀と仏が一体となって描かれ、異なる存在が融合することで生まれる独特の精神性を表現している。住吉さんの作品もまた、動物と自然、現実と想像が交わることで、新たな創造性を生み出しているのだ。

18合わせて、一つの大きな作品にもなる
制作の源泉を求めて
オープニングパーティで住吉さんに話を伺った。
「どういった気持ちで作品を描くのですか?」という問いに、彼女は笑顔で答えてくださった。
「日記やメモのような感覚で描いているんですよ。」
背景の金箔について尋ねると、彼女は「箔を張った紙をパネルに水張りしています(箔あし平押し紙)」と教えてくださった。幼い頃の自然や、日常の何気ないモチーフ――例えばパンなども、インスピレーション源になると語ってくださった。
記憶の中の宇宙
『Glow』の見どころは、自然と動物、過去と現在が融合する不思議な世界観だ。特に動物をモチーフにした作品は、どれも優しい表情をたたえながら、生命の輝きを力強く感じさせてくれる。
『Glow』という言葉には、自然の輝き、生命の成長、そして私たちの内なる幼心の輝きが込められている。住吉さんの作品は、忘れかけていた感覚を優しく呼び覚ます。都会で育とうと、田舎で育とうと、誰もが持っているはずの、自然との出会いから生まれた原初の感動。その感覚は、私たちの中で今も確かに生き続けているのだ。

まるで仏像のような神々しさだ



印象的だったのは、動物たちの周囲に描かれた森の集合体。それは、観る者の心に直接語りかけてくるようだった。

森の集合体





締めくくり
住吉明子さんの作品は、自然との繋がりが薄れつつある現代社会において、どのような意味を持つのだろうか。忘れかけていた自然への畏敬の念や、幼少期の原体験を呼び覚ます力があるのだろうか。私は、彼女の作品が鑑賞者の中に眠る好奇心や探究心を刺激し、心を癒すと同時に、自由な発想を広げてくれると感じた。
動植物をモチーフにした作品は、過去と現在、記憶と未来を繋ぎ、生命の連鎖や文化の継承といった普遍的なテーマを浮かび上がらせる。その多様な解釈を許容するスタイルは、変化の激しい現代社会の中で未来への希望を感じさせ、多様性を尊重する価値観とも響き合っているように思う。
住吉さんの作品は、現代アートがいかに社会と結びつき、未来への道筋を示せるのかを考える貴重なきっかけとなるだろう。

原宿通りのEmpathy Galleryにて
住吉明子 個展「Glow」
会期: 2024年12月21日(土)– 2025年1月13日(月)
※年末年始休暇: 2024年12月30日(月)~2025年1月3日(金)
営業時間: 11:00〜19:00(最終日は17:00まで)
休館日: 月曜、火曜(※祝日は営業)
会場: Empathy Gallery
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3丁目21-21 ARISTO原宿2階
参照資料 【アーティスト ステートメント】

参考資料:仁和寺について 文化財(絵画・襖絵)

画像出典「仁和寺の仏画・絵画」
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