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【第1回】パーソナルストーリー~次世代リーダーのつくり方~ 三菱UFJアセットマネジメント株式会社常務取締役 代田秀雄さん


グローバル人材戦略研究所の「パーソナルストーリー」では、一人ひとりの挑戦や経験、学びなどキャリアの参考にしていただくことを目的としています。パーソナルストーリー〜次世代リーダーのつくり方~では各分野のリーダーに話を伺い、今までの経験・キャリアとあわせ、リーダーならではの世界の見方やその為の考え方などを紹介していきます。

「新NISA(新しい少額投資非課税制度)」開始以降、資金流入額でNo.1、純資産総額が11兆円(2024年6月時点)という急成長を見せている「eMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)シリーズ」の生みの親・ 三菱UFJアセットマネジメント株式会社 常務取締役 代田秀雄さんとグローバル人材戦略研究所 代表取締役 小平達也の対談を全5回にわたって紹介します。今回のパーソナルストーリー ~次世代リーダーのつくり方〜 ではeMAXIS Slimシリーズの生みの親としてテレビの経済番組や新聞などをはじめとし、メディアで発信を続ける代田さんの視野の広げ方やものの見方など、パーソナルな側面に迫ります!

  • 第1回 新規サービス「eMAXIS Slim」立ち上げ背景

  • 第2回 マーケティング戦略はファンとともに

  • 第3回 代田流リーダーシップ~両利きの経営を成功させるために大切なこと~

  • 第4回 リベラルアーツの実践〜視野を広げ、独自の視点を持つための工夫〜

  • 第5回 対談を終えて(グローバル人材戦略研究所の視点)

【略歴】
代田秀雄(しろたひでお)さん

三菱UFJアセットマネジメント 常務取締役 マーケティング部門長
1985年三菱信託銀行入社。1996年以降年金資金や投資信託の運用業務に従事。
全国信託銀行従業員組合連合会書記長、三菱UFJ投信商品企画部長、三菱UFJ信託投資企画部長(三菱UFJトラスト投資工学研究所取締役、エムユー投資顧問取締役いずれも兼務)、三菱UFJフィナンシャルグループ受託業務企画部部長等を経て、2015年から三菱UFJ国際投信取締役。2018 年に同社常務執行役員 商品マーケティング部門副部門長 企画ライン長、2019年から常務取締役 商品マーケティング部門長、2023年にエムユー投資顧問と合併し三菱UFJアセットマネジメントに。2024年から現職。公募株式投信(除くETF)(=個人向け投資信託)の業界順位を4位から首位に、私募投信(=法人向け投資信託)の業界順位を8位から首位に引き上げる。2017年に設定したeMAXIS Slimシリーズは2024年6月に11兆円を突破。

【聞き手】
小平達也(こだいらたつや)

株式会社グローバル人材戦略研究所 代表取締役
「世界で通用する人づくり、組織づくり」をテーマに次世代リーダー育成をはじめ、グローバル経営、海外赴任者や外国籍社員の育成/ダイバーシティ推進などを行う。「企業と人材」「賃金事情」「人事実務」「労政時報」「人事マネジメント」「グローバル経営」寄稿、著書に「外国人社員の証言 日本の会社40の弱点」(文藝春秋)。政府会議有識者、大学講師などもつとめ幅広く活動。富士スピードウェイ走行ライセンス所持。グリーフケアを勉強中。

【第1回】 新規サービス「eMAXIS Slim」立ち上げ背景

🚪 「eMAXIS Slim」のはじまりは「違和感」だった

小平:グローバル人材戦略研究所では次世代リーダー育成を「選択肢を選ぶ人でなく、選択肢をつくる人になろう!」というコンセプトで、国内外問わず、グローバルな視点で自ら考え・実行できる人づくりを行っています。代田さんが立ち上げられた「eMAXIS Slimシリーズ」は2024年6月に11兆円を突破されたとのことでまさに破竹の勢いです。「全世界株式(オール・カントリー)」や「米国株式(S&P500)」など投資信託の中で最大規模の「eMAXIS Slimシリーズ」は三菱UFJアセットマネジメントが提供するインデックスファンドシリーズのことで、オルカンでは投資信託1本で全世界(日本を含む先進国・新興国)の47ヶ国に分散投資ができることや、運用時に発生するコストが低いため長期資産形成を可能にすることがメリットとして挙げられていますね。一般に、金(ゴールド)価格は心理学の先生、原油は地政学の先生などと言われますが、オルカンやS&P500のような世界に連動したインデックスファンドを個人として購入しておくと必然的に世界経済や地政学リスクなどに目を向けるようになるため、国内外問わず、世界との関わりを意識し、自らの視点でものを見ることが鍛えられるきっかけになると思っています。

今回、「eMAXIS Slim」シリーズを創り出したきっかけについて、それまでお持ちであった問題意識や違和感などを踏まえて教えていただけますか。

代田さん:私は30年ほど資産運用の業務に携わっていますが、年金などの機関投資家の資産運用を担当してから、個人向けの投資信託の業界に来ました。この個人向けの投資信託の世界では不思議な現象が起きていました。それは、専門の運用担当者を抱える機関投資家でさえ、インデックスファンド中心のポートフォリオを作っていたのに、機関投資家と比べて投資の専門家ではない個人投資家がインデックスファンドではなくアクティブファンドばかりに投資をしていたということです。

まずアクティブファンドとインデックスファンドの違いについて簡単にご説明しましょう。アクティブファンドとは、いわば竿で魚を一本釣りするようなものです。投資家は海域(どの市場か)、魚(どの銘柄か)などを選んで値上がりすると思われる個別銘柄に投資をします。それに対してインデックスファンドとは、海域の魚を地引網で獲るようなものです。網の目の大きさによって逃がす魚(銘柄)はあるものの、基本的には全て(市場全体)を対象とします。このように個別銘柄に投資をするアクティブファンドと市場全体に投資をするインデックスファンドという違いがありますが、「eMAXIS Slim」が登場する前の投資信託では、アクティブファンドが9割程度を占めていたのです。

小平:代田さんはそこに違和感を持ったということですか?

代田さん:そうです。投資信託市場は2008年のリーマン・ショック以降、長らく市場が拡大していませんでした。そのなかで運用会社・販売会社ともに利益を確保するためにFee(費用)が高いアクティブファンドを中心に展開をせざるをえなかったのだと思います。しかしそもそも市場に勝つことができるアクティブファンドは数が少なく、しかも過去のパフォーマンスがよくても将来もそのようになるかはわかりませんから個人投資家がそのような投資信託をみつけだすことは簡単ではありません。私は本当にその状況が個人投資家のためになっているのかという問題意識をもっていました。他方、オルカンに代表されるインデックスファンドの場合は市場全体への投資でFeeが安いため、結果的に個人投資家の得るインベストメントリターンは平均値的にアクティブファンドより高くなるのです。
小平:ありがとうございます。哲学者のカントは人間の精神を構成するものとして「知情意(知性・感情・意思)」があり、これらのバランスが大切だと提唱しました。グローバル人材戦略研究所としては「考える」「行動する」「感じる」の3要素があり、これらのサイクルを回していくことにより本質に迫るとしています。今、代田さんがおっしゃった「本当に個人投資家のためになっているのか、社会から必要とされているのか」という違和感・問題意識はまさに、「感じる」であり、すべてはそこからはじまったのですね。

💴 社会の基盤・インフラとしてのインデックスファンド

小平:海外のインデックスファンドの状況はどのようなものでしょうか

代田さん:例えばアメリカでは1975年にジョン・ボーグルがバンガード社を設立しインデックスファンドが幅広く普及しはじめました。これはインデックスファンド革命とも言われますが、現在は個人投資家の投資先として約半分がインデックスファンドになっています。日本では、国として「資産運用立国」を目指すとしていますが、インデックスファンドというのはその実現のために「社会インフラ」として必要不可欠なものなのです。

小平:インフラですか!「インフラ」と言えば鉄道、上下水道、空港、ダムなど社会や人々の生活の基盤となる施設・設備をイメージします。グローバル人材戦略研究所でもこれらインフラ産業のグローバル展開を支援していますが、インデックスファンドも社会インフラという位置づけだったのですね。

代田さん:その通りです。学術的にも投資のリスク管理の研究が進んでいます。アクティブファンドとインデックスファンドが抱えるそれぞれのリスクについては、ノーベル経済学賞を受賞したスタンフォード大学教授のウィリアム・シャープが次のように指摘しています。「アクティブファンドは個別銘柄を絞り込むリスクに加えて、市場自体のリスクが伴い、まさにハラハラするゲームのようなもので投資信託においては主にファンドマネジャーが銘柄選定などの投資業務を行い、結局個人投資家は彼らの知的好奇心に付き合わされることになりかねない。それに比べてインデックスファンドは市場自体のリスクが中心となるため、こちらを低コストで提供することは資本主義経済の成長を前提としている限り、アップダウンはありながらも個人投資家の長期的な資産形成につながる」と。つまり、インデックスファンドへの投資は市場リスクのみを取るものですが、アクティブファンドへの投資は市場リスクに加えて個別銘柄選定のリスクも取ることになるので、アクティブファンドに投資するということは、より複雑なリスクを取らされていることを認識した方がいいでしょう。

【資産運用立国】
2023年12月13日、岸田政権は経済活性化に向けた政策として「資産運用立国実現プラン」を発表。新しい資本主義の下、日本の家計金融資産の半分以上を占める現預金が投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることで、更なる投資や消費に繋がる、成長と分配の好循環を実現していくことが重要だと示した。これまで、①資産所得倍増プランや②コーポレートガバナンス改革等を通じ、家計の安定的な資産形成の支援、企業の持続的
成長、金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営の確保など、インベストメントチェーンを構成する各主体に対する働きかけを行ってきた。引き続き、こうした取組に続き、インベストメントチェーンの残されたピースとして、③家計金融資産等の運用を担う資産運用業とアセットオーナーシップの改革を図っていく。残されたピースをはめ、日本の経済の成長と国民の資産所得の増加に繋げていくとした。

資産運用立国の実現(2024)金融庁資料

小平:市場自体が対象となるインデックスファンドを低コストで提供することが個人投資家の長期的な資産形成につながる、ということですが、資産形成の基盤・スタンダードとしてインデックスファンドが必要、という理解でよろしいでしょうか。

代田さん:はい。資本市場が健全に発展するためには、インデックスファンドもアクティブファンドもどちらも必要です。重要なことは投資家がインデックファンドの存在を認識したうえで、アクティブファンドを選ぶということです。日本では、投資信託を銀行や証券会社などの販売会社に薦められる、あるいは選んでもらうという状況が続いていました。しかしeMAXIS Slimの登場で、投資家のみなさんに指名買いをしていただくようになり、投資信託選びの主導権が販売会社から投資家に移ってきたと思います。これは投信選びの民主化といえるものです。米国においても、インデックスファンドの普及により、個人のファンドの目利き力が高まりました。その結果、アクティブファンドのマネジャーも個人投資家に対する説明力が鍛えられ、アクティブファンドのレベルが上がったのだと思います。日本でもインデックスファンドの普及が、アクティブファンドの質的向上につながるものと考えています。

【第1回のポイント】
投資信託の中で最大規模の「eMAXIS Slim」シリーズを創り出したきっかけは「既存のビジネスモデルは本当に個人投資家のためになっているのだろうか」という違和感。
個人投資家の長期的な資産形成につながるインデックスファンドを社会のインフラと捉えて取り組んでおり、投資家がファンド選びの主導権を獲得することが投資の民主化につながる。
インデックスファンドの普及はアクティブファンドの質的向上にも貢献している。

執筆:インターン 飯田知世(慶応義塾大学 政策・メディア 修士1年)

【パーソナルストーリー】
この「パーソナルストーリー」という企画では、グローバル人材戦略研究所に関わる人々の経験や学びなどを紹介していきます。一人ひとりのエピソードを通じて、グローバル人材戦略研究所の活動に興味を持っていただければと思います。

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