9)夢見るひと と 夢を見るひと─ダブルミーニング【金カムロシア語】
今回は283話からソフィアの演説。
ゴールデンカムイのロシア語台詞を楽しむシリーズだよ。
単行本読了済みであることを前提に執筆しています。
作者と監修がつけた日本語とロシア語の台詞の差異から物語を掘り下げていきます。
ロシア語には縁が無いよって方にも楽しんでいただけるよう書いています。
【読了まで 4分】
ロシア語解説:夢
長い陸の国境線をどう守るか、鶴見から指摘されていたのに何の策も示さないなぁ…と連載時(日本語台詞のみ) にも思ったけれど、さて単行本ではどのようなロシア語台詞がつくのだろうか。
まさか全314話中283話まで来て、そして鶴見の指摘があった後で、しかも連載は単行本より進んじゃってる中で、今さら夢語りを聞かされるとは…そして聴衆もそう思ったからこその日本語台詞。
🟦ロシア語台詞
⇒ ゴールデンカムイの世界で実際に発せられた言葉(客観的事実)
🟥日本語台詞
⇒ 上記を会話相手がどう受け止めたか(主観的事実)
ちょうど居合わせた尾形、そしてロシア語の素養のある尾形が、聞いてる? 寝てる? の夢現なのも象徴的だ。
連載時の日本語のみの台詞に「夢」は一言も入ってなくて。
でも、尾形によって「夢」がひっそり示されてて。
いざ単行本でロシア語台詞がついてみると……という、そういうシーンになっている。
但し、日本語/英語で言うところの「夢/dream」という概念は、ロシア語では区別されている。
✅願望としての「夢/dream」⇒ мечта [ミチター] / мечтать [ミチターチ](夢見る/思い描く)
⇒ ソフィアが語ってるのはこちら
✅睡眠時に見る「夢/dream」⇒ сон [ソーン]
⇒ 尾形が見てるのはこちら
展開:夢を叶えるには
願望に過ぎない「夢(мечта [ミチター])」を叶えるためには、現実の「目的/目標(цель [ツェーリ])」に落とし込まねばならない。
そして「цель [ツェーリ]」には「目的/目標」の他に、「的/標的」の意味もある。そこから次のような派生語がある。
「狙いを定める/照準(целиться [ツェーリッツァ])」
「狙いを捉える/捕捉(прицелиться [プリツェーリッツァ])」
「(銃の)照準器/照尺(прицел [プリツェール])」
だから正に狙撃手の出番なのだが、「цель [ツェーリ]」を射抜くはずの狙撃手は、いま「夢」の中にいて仕事できない。「夢」は「夢」のまま射止められずに終わるのだ。
こちらも狙撃手が懸念を示した通り「夢」でしかなかった。
さすがに週刊連載で70話から外語の伏線を仕込んでおけるものなのか…素人には分からないのだけど、それにしても美しくまとまっていると思う。
まるで作者が尾形を依代としてあの世界に潜り込んでいるかのようだ。
ロシア語台詞は単行本を基本とします
明らかな誤植は直しています
ロシア語講座ではありません
文法/用法の解説は台詞の説明に必要な範囲に留め、簡素にしています
ポイントとなる言葉にはカナ読みを振りましたが、実際の発音を表しきれるものではありません。また冗長になるため全てには振りません
現実世界の資料でロシア側のものはロシア語で書かれたものにあたっています。そのため日本側の見解と齟齬がある可能性があります