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【掌編小説】稲妻と馬蹄

負けるものか、負けるものか

噛み締めるように心のなかで呟いて、駅の階段を下りる。
次々と地下へ吸い込まれていく人の流れは、まるで排水溝に流れ込む雨水のようだ。

心を無にして地下鉄に乗り込み、ぎゅうぎゅうと身体を押し込んでいく。
反芻したくないはずなのに、職場での会話を思い出す。

「いたっ」

隣のつり革を持っていた女性と手首が触れ合ってしまった。
小さく悲鳴をあげた彼女に、すみません、と呟く。

静電気だと思ってもらえますように。
まだ夏日なのに、無理があるかな。

感情が高ぶっているときに人に触れると、こう言うことがあるから困る。
怒れるわたしのエネルギーが、発散先を探して蠢いているのを感じる。
子どもの頃に科学館で見たプラズマボールを思い出す。
ガラス玉のなかで行き場を探して揺らめく電気の流れ。
外から触れると、そちらに向かって一斉に太い光となって流れていく。

…出力の仕方を変えないと

地下鉄から降りると同時に、息を吐き出す。
地上へ向かう階段を見上げる。
先を歩くひとの足元が目に入る。

ヒールがカッコいいパンプスを買おう。
馬蹄のようなやつなんていいな。

一歩一歩踏みしめるごとに、足元から怒りが放電されていく。
階段を上る。

負けるものか?
ちがうな、勝つ、だ。

勝つ、勝つ、勝つ。

足音に合わせて心のなかで唱えて、地上にでた。
走り去る稲妻が目に入り、雷鳴が轟いた。

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