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源氏物語 男君と女君の接近       ー寝殿造の光と闇ー①

著者/安原盛彦 2013年10月初版 河北新報社刊

源氏物語を読み始めてからずっと頭の中にひっかかっていたことがある。

光君と様々な女君達が出会う場所、舞台のことである。
帝の御所であったり、源氏邸であったり、帝に仕える大臣の屋敷であったり、宮中の住まいであったり、通りすがりの屋敷であったり、たまには年中行事の最中であったりするのだが、つまりは建物、屋敷の中がほとんどだ。当時の貴族階級の屋敷の造りは「寝殿造」と呼ばれている。そして当時の上級階級では女性は屋敷の奥深くに引きこもっていて、世話をする女房達に囲まれているのが常であり、婚姻も男が女の元に通う妻問婚であった。

だから光君と女君の恋の駆け引きはたいがい相手側の住まいのしかも女君の居るところとなるが、襖(ふすま)、几帳(きちょう)、御簾(みす)など近づいてくる男との仕切りが何重にも用意されている女君の部屋には容易に辿り着けず、たいがい女君は光君への恋に落ちてしまうのだが、その本心や容姿はなかなか明確に知ることもできない。だからこそ末摘花の君のようなエピソードにもなる。
まだ三割ほども読み進んではいないけれど、この光君が女君を口説き落とすための手紙や歌のやりとり、会話などによる駆け引きは源氏物語の大きな読みどころであることはすぐに感じられた。

それなのに光君が求愛し、拒まれたり、無理やり侵入して契りを交わしたりする舞台である当時の住まい「寝殿造」という建物の構造や庭の配置、几帳、簾、格子などの形態や機能がいまひとつ理解できず、もやもやした気持ちがあった。ネットで寝殿造を検索し、構造を調べたり、五島美術館などの源氏物語絵巻を参考にした。大林組の「光源氏六条院の考証復元」や京都の風俗博物館のサイトも非常に役立った。

そうこうしているうちに図書館で見つけ改めて購入したのが、この「源氏物語 男君と女君の接近ー寝殿造の光と闇ー」である。著者の安田盛彦氏は建築家で「『源氏物語』における寝殿造住宅の空間的性質に関する研究」で工学博士となった、とある。まだ源氏物語を全て読み終えていないので、この本の素人感想を述べることは控えるが、先にも書いた光君と女君の出会いと恋のスリルの舞台を読み解く絶好の書であると思う。ページをめくった途端、これだ!と思わず声に出してしまったくらい。
前半部は源氏物語における寝殿造という場と空間の意義と役割を解説し、「寝殿造の建築空間構成」として、母屋、庇、簀子、庭の構成や几帳などによる空間の仕切り、室礼ということなどを説明し、女君や女房達の生活舞台を理解させてくれる。

今後この本を、源氏物語と合わせて読み進めるのが楽しみになった。

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