誕生には祝福と祈りを【七草にちかプロデュースメモ】
七草にちか。
16歳、身長は158㎝、体型は普通、趣味は音楽鑑賞でCDショップのアルバイト店員だった。ダンスと歌は平凡ながら、アイドルが好きというのがわかる。CDショップに訪れた283プロPを半ば脅迫して試験の約束を取り付ける。結果、研修生という立場で夢だったアイドルの仲間入りを果たす。反対する姉が提示した「W.I.N.G.で優勝できなければ辞めさせる」という条件付きで。
2ndライブで発表され、はづきさんの妹という設定、社長の独白映像から始まったせいで色々な予想が飛び交った。実際に、なかなか意地の悪い運命を用意したシナリオだった。
それでも、七草にちかの物語は夢〈アイドル〉を目指す少女たちの、祝福と祈りが込められているように感じられた。
・W.I.N.G シーズン1~4
シーズン1コミュ〈grab your chance〉では、にちかが事務所でダンスをプロデューサーに見せるところから始まる。言葉では自信満々でも、プロデューサーの感想から自分に才能が無いことを悟るような、夢を諦めているような、苦しそうな表情が端々に写る。
プロデューサーもそれを察して、「明るくて、楽しそうなのに、パフォーマンスした途端、くすんで何かのコピーになる」と感じる。
にちかは、誰かの真似をして踊ることしかできない今の自分に、才能の無さや負い目を感じているのだろうか。
シーズン2コミュ〈なみ〉では、20数年前にアイドルをしていた「八雲なみ」というアイドルが、にちかにとっての憧れであることが判明する。「なみちゃん」のことを話すにちかはとても明るくて良い笑顔をしている。だがプロデューサーは「八雲なみ」の映像を見てにちかとの共通点を感じる。
「にちかみたいに どことなく悲しいんだ、この子」
シーズン3コミュ〈on high〉、シーズン4コミュ〈may the music never end〉 では厳しくなる練習やオーディションに焦りを見せるにちかが描かれる。ダンスは上達していくものの、その顔からは笑みが消えつつあった。「これで最後かもしれない」そんな恐怖に怯えながら立つステージは、少女にとってどれほどの負担なのだろう。
選択肢〈最後かもしれないな〉を選ぶと、にちかに「終わるかもしれないなら、せめて精一杯アイドルをやってほしい」とプロデューサーはできる限りの最善と思われる叱咤と激励の感情が入り混じった言葉を送る。
W.I.N.G優勝/そうだよ
W.I.N.Gを優勝したにちかは、極度の緊張の解放からか、過呼吸で倒れる。朦朧とした状態で、とても苦しそうだったが、ようやく「笑えてる」顔をすることができた。
優勝後、公園のベンチで八雲なみの曲を聴きながら佇むプロデューサーとアイドル。それなりに大きな舞台で優勝したというには、お祝いの雰囲気が少ない。
にちかはアイドルとしての活動を通して(社長室で見た八雲なみの白盤から察して)、憧れだった「なみちゃん」も自分と同じ悩みを持つ普通の女の子だったのでは? 本当はもっと違うことを歌いたかったのでは?と考える。
七草にちかは自分が優勝してアイドルを続けられるようになったことよりも、憧れていたアイドル「なみちゃん」のために涙を流す。七草にちかは、誰かの夢に想いを馳せられる優しい子なのだ。
「八雲なみ」が、実は283プロ社長の天井努がプロデュースしていて、無理やりなプロデュース方針が原因で失踪したのも、天井努の親友の娘がその子に憧れて同じ事務所でアイドルをしている…なんて因果は、これからの彼女の物語には関係の無いことだ。だからプロデューサーもこの時「実は…」と真実を語ったりしない。
だから、プロデューサーは言う。
たとえぎこちない一歩でも、借り物の靴で踏み出した一歩でも、それは確かに「アイドル七草にちか」が誕生して、踏み出した一歩なのだ。
プロデューサーは、そして物語を見る我々は、その一歩を祝福し、彼女が幸せになれるように祈るべきだ。
八雲なみに憧れたことも、平凡なのにアイドルの夢を見ることも、誰でも持つ普通の願いだ。そして、願いを叶える第一歩を踏み出したにちかは、その事実だけで特別だ。(彼女の物語の背景にあるものを指して「地獄だ」「呪いだ」と烙印を押そうとする観客〈オタク〉たちこそ呪われて地獄に堕ちるべきだ)
彼女の物語は、もっと祝福されるべきだ。彼女の先行きが不安なら、祈れ。
七草にちかが、心からの笑顔で幸せになれるように。
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この文章は緋田美琴、SHHis(シーズ)ユニットシナリオイベントの実装により加筆・修正が入る可能性があります。