彼女たちの幸福論に春来たれ@薄桃色にこんがらがって感想論
お前らはこう思っているんじゃないか?「アルストロメリア?ああ、あのお花みたいにぽわぽわした3人ユニットでしょ?千雪さんいつもえっちな恰好してるよね。卑しか~(笑)」 と。
そんなお前らを惨たらしく殺すべく、刺客が放たれた。『薄桃色にこんがらがって』それが刺客の名前だ。
予感はあった。公式の予告動画では今回のイベントが一筋縄ではいかない騒動を暗に知らしていたからだ。
結論から言うと、コミュを読んだプロデューサー達は「アルストロメリア……」と呟くだけの灰となり果ててしまった。俺も一度灰となったが、復活した。その身でこの文章を書いている。
ネタバレはもちろんある。それに個人的な解釈の部分が多いので解釈違いが生まれるかもしれない。その時は寛大な心で許してくれ。
予感と雑誌と『出来レース』
ある日の283プロ事務所。甘奈はとある雑誌のオーディションでシード権を獲得し、優勝のため練習に励む。甜花と千雪さんは優しいので、甘々な判定をだしている。ここで出てくる「反対ごっこ」とは優しい性格の3人があえて厳しいことを言うために編み出した遊びだ。
だが、アルストロメリアのことを深く知らない人には、この「反対ごっこ」も「仲良しユニットのお遊び」に見えるかもしれない。(コミュを全て読めばわかるが、それこそが今回のシナリオの狙いとも見える)
ここで千雪さんは、甘奈が受ける雑誌のオーディションが、かつて自分の憧れだった雑誌『アプリコット』であると判明する。
そして芽生え始める、嫉妬のような感情。おそらく、千雪さんが抱いた人生で初めての感情なのではないか。それほどまでに『アプリコット』という雑誌は千雪さんにとって特別なものなのだろう。
現に、過去のイベントカード【トキ・メキ・タコさん】のコミュには『アプリコット』の特集記事と同じ言葉を千雪が使っていたことが判明する。
シャニマス制作陣はいったいどこまで設定を作りこんでいるんだ?以前のリアルイベントの時に「霧子のさん付けには明確な基準の設定がある」って高山Pが発言してたし……。シャニマス 、恐ろしい子!
更に場面が進み、プロデューサ-(と我々読者)はある事実を知ってしまう。この雑誌のオーディションが出来レースで、甘奈が優勝することが決定していることを。
やさしさと葛藤と『大人じゃない』
少しずつ様子がおかしくなる千雪から、色々察してしまう大崎姉妹。それもそのはず。アプリコットのバックナンバーを読んで感じたのが「千雪さんみたい」だったのだから。
少しずつギクシャクし始める3人。お互いを想う故か、優しさが空回りして、こんがらがる。
千雪さんは考えた結果、オーディションを一般枠で受けることを決意。それを甘奈とプロデューサーに伝えた。その後、自分の中の葛藤を、はづきさんに吐露する。
自己満足のためにオーディションを受けること、大好きだった雑誌に選ばれたい気持ち、甘奈ならグランプリでも納得できるのは本当という気持ち。ごちゃごちゃの感情にやられ、「私の方がお姉さんなのに」「全然、大人じゃないよね……」と更に自分を責める千雪さん。
ここでのはづきさんの一言が印象的だ。
「大人じゃないんだってば、私たち~」
この言葉には色んな意味が込められてると思うが、同じアイドルである以上は千雪さんと甘奈はライバルだ。歳を理由に遠慮をする必要はない、歳を理由に自分の夢を諦めなくていい。そう千雪さんを励ましているように思えた。
(去年の夏以降、お互い呼び捨てなってからの友情関係が、想像を掻き立てられる一幕になってて眼福でした……)
納得のいかないプロデューサーは先方の雑誌編集部に異議を申し立てる。「甘奈を他の候補者と同格で競わせてもらえませんか」と。
自分が思うに、公正さは「神聖さ」だ。なぜスポーツや勝負事にはルールがあるのか。それは「神聖さ」を失わないためだ。刀対つまようじの戦いで刀が勝ったところで、何も面白みはない。勝者に価値は付与されず神聖もない。できるだけ公平公正になるよう枠組みをつくり戦うからこそ、勝者であることに意味がある。
だからPは言う。公正な審査で勝負がしたいと、出来レースでは意味が無いと。
もちろん雑誌編集者側も何も考えてないわけじゃない。絶対失敗できない雑誌の復刊ゆえに戦略として、オーディションの体裁をとるのだと。おそらく「見栄え」の問題だろう。ただ選ぶよりも、数多くの候補者から勝ち上がったという箔をプラスしたかったのだろう。消費者として、後者の方が見栄えがよくなるのは、分からんでもない。
編集者曰く、復刊するにあたって厳正な審査の総意で甘奈が選ばれた。これまでのアイドルの活動があったからこそ選んだのだと。別に天井社長が袖の下を通したからじゃないぞと。
また、雑誌編集者はこうも言った「審査にはさまざまなジャンルの第一人者が出席している。グランプリを取るだけがチャンスじゃない」と。
ストーリーは前後するが、千雪がこのオーディションを受けたことで、次の仕事のオファーが来た。なんなら雑誌のイメージガールよりも大きい仕事だと察せられる。編集者の言った通り、グランプリだけがチャンスじゃなった(これはもちろん結果論だが)。
理由を聞いても釈然としないP。ここにも大人になりきれない大人が。けどこの状況をなるべく善くしようと考えている辺り、誠実なイケメンなのがわかる。
今回のストーリーでは、明確な悪役はいない(と思っている)。強いて言うなら、口の軽い広告マンだろう。出来レースであることをわざわざ言わなくてもいいだろ、普通。もし何かの拍子にバレたらSNSで大炎上もんやぞ。そん時責任取れんのかぁあん?
ほんとうのはんたいは、『ほんとう』?
こんがらがりは混沌を極め、甘奈はオーディションの辞退を申し出る。そこでPは、このオーディションでは甘奈が優勝内定していることを打ち明ける。そして千雪には甘奈が優勝することが分かった上で出場するのか、一度考えるため少し時間を置こうと提案するP。
悩む3人。このままでは、3人が前見たいに笑えなくなってしまうかも……。途方に暮れて歩いていると、橋の上でばったりと会ってしまう。そこで3人はもう一度「反対ごっこ」を始める。
甘奈ちゃん、オーディション落ちたらいいのにーーーー!
ふたりとも……オーディション……落ちたら、いいのに……!
ち、千雪さん……オーディション落ちればいいのにー……!
自分のために勝ちたいし、相手のために負けたい。そんな正反対でぐちゃぐちゃになった心の叫びを「ごっこ」として吐き出す。彼女たちの叫ぶ言葉は本当の反対だけど、本当の気持ちも入っている。
千雪さんは甘奈と甜花の反対の声を聞いて、改めて宣戦布告する。「私と戦ってください」。甘奈も宣戦する。「私と戦ってください」
こうしてアルストロメリアは正真正銘のライバルの関係となった。
傷跡と幸福論とエンドロール
冷たい風が吹いた後に、春がやってくる。オーディションを終えた3人にはまた、強い絆が生まれた。今まで通りの3人でいられている。
ここからは千雪さんを中心に話したい。
報酬カード【ドゥワッチャラブ!】では今回の後日談が語られている。
コミュには「卒業」と題し、千雪さんが持っている『アプリコット』を実家に送るため段ボールにしまっていることが判明する。「もう卒業しなきゃね……」吹っ切れているようで、心に小さな棘が刺さっているような寂しい声色で話す千雪さんに心がきゅっとしてしまう。
物語の結末として、オーディションを受けたことが千雪さんの次の仕事に繋がった。なんなら雑誌のメインキャラよりも大きな仕事かもしれない。
だけど「一番の憧れだった雑誌のオーディションには選ばれなかった」という悔しさは、やはり心の小さな傷となって残り続けるかもしれない。
それでも彼女は、つらいことも悲しいこともひっくり返しているうちに、良いことがやってくると信じてる――――――
そんな彼女のモノローグを聞いて、涙を流さないプロデューサーはいないだろう。
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シャニマスのストーリー付きイベントは、素晴らしいシナリオで毎月泣いている。今回も泣いた。俺は放クラがメインのPでアルストの3人のシナリオをそこまで追えていないのだが、それでも泣いた。アルストロメリア担当Pがどんな状態となったかは容易に想像がつく。
今回も素晴らしい話をありがとう。シャニマス。高山P。
シナリオのメインが甘奈と千雪さんだったけど、甜花ちゃんも良い動きをしてた。二人の聞き役に徹してる姿は『お姉さん』のようだった。最初の頃はトンビにエプロン盗まれてアワアワしてたのに……2年の成長を感じる。
春一番の風のような騒動が巻き起こり、それを超えたアルストロメリアという花が、素晴らしい春を迎える……そんな素晴らしいストーリーだった。彼女たちが幸せな春を過ごせるよう、見守っていきたい。