掌を差し伸べた中に
ビルの階段に座っている彼女を偶然見けた直人。
その表情は待合わせのように見えるが、どこかで喜びを感じさせない。直人はその女性をどこかで見たことがあるような気がした。
その瞬間、スーツを着た男性が彼女の方に歩いてきた。おそらく待ち合わせだったのだろう。しかし、彼女の表情からは喜びは読み取れなかった。
二人はそのまま建物の中へ入っていった。
直人は不安を感じ、『あの子は…三智ちゃん?それとも奈津ちゃん?』と考えながら、二人の後を追いたい気持ちが湧いてきた。
しかし、実世との待ち合わせがあったため、追いかけることはできなかった。直人の心の中では、複雑な感情が渦を巻いていた。
直人はどちらの女の子に対しても特別な思いを抱いており、その思いが交錯していた。彼女たちのことを考えると、心がざわめき、どうしたらよいのか分からない状態だった。直人は決断を迫られているようで、ますます心配が募っていく。
15分ほど経った頃、ビルから男性が先に出てきた。
その後すぐに、彼女が出てきた。
彼女の姿は、まるで心に何も感じていないかのようだった。
周囲の喧騒が耳に入っているはずなのに、彼女はただ静かにその場に留まっている。まるで時間が止まったかのような瞬間であり、彼女の心の奥には何か重いものが秘められているのもしれないと直人は感じていた。
そして、ただ無心で座り込む彼女の姿は、見ていた直人に深い印象を与えた。
彼女の無表情は、彼女自身の内面の葛藤を物語っているのだろうかと。
直人は彼女のもとへと歩み寄った。
「あの、ここで何をしているの?」と直人は階段に座っている彼女を見下ろしながら尋ねた。
「えっ…!?」彼女はまぶしい光に目を細めながら、上を見上げて直人の視線に応えた。
その瞬間、二人の間には言葉では表せない何かが流れた。
まるで、夜空に輝く星々が静かに語りかけるように、彼女の瞳は無数の物語を語っていた。