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『横道世之介』=映画『イエスマン』×『神去なあなあ日記』(三浦しをん)×”めっちゃ優しいバージョンの吉田修一さん”★★★★★*ネタバレなし*

あらすじ

誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。
1980年代後半、時はバブル真っただ中。大学進学のため長崎からひとり上京した横道世之介、18歳。自動車教習所に通い、アルバイトに精を出す、いわゆる普通の大学生だが、愛すべき押しの弱さと、隠された芯の強さで、さまざまな出会いと笑いを引き寄せる。
友だちの結婚に出産、学園祭でのサンバ行進、お嬢様との恋愛、そして、カメラとの出会い・・・。そんな世之介と、周囲にいる人たちの20年後がクロスオーバーして、静かな感動が広がる長編小説。
(第23回柴田錬三郎賞受賞作)
(2013年、沖田修一監督 映画化)

感想

この作品を一言でいうと、これ、三浦しをんさんが監修したの?吉田修一さんって多重人格?『怒り』『悪人』からの振れ幅でかすぎるって!!です。

 吉田修一さんといえば、『怒り』『悪人』など、人のどろどろした内面や醜い側面を、余すことなく書きぬき、かつ一筋の光もみせる、スピード感のある作品を書かれる方。といった印象でした。

 しかし、『横道世之介』では、人の善い面をぎゅっとまとめて具現化した主人公が、日常の珍事件に巻き込まれていくさまが描かれていて、雰囲気が『神去なあなあ日記』に似ていると感じました。

 『神去なあなあ日記』も、主人公、平野勇気が、日常のあれやこれやを彼なりに乗り越えていく話で、読者が親近感をもって同じ目線で物語を読み進められる作品だと思います。
 『神去なあなあ日記』の主人公、勇気の方が、世之介より人間としての器が小さく、人並みに悪い気持ちも持っているように感じました。
(これは悪口で言っているのではなく、その分読者との距離が近く、より気持ちを理解することができた、という意味です。私はどちらの作品も同じくらい好きだ!!!)

 皆様は、『イエスマン』という映画はご存じですか?主人公の根暗な男が、なんにでも無理やり”イエス”と答えてさせられるうちに、彼を取り巻く環境がいい方向に回りだす…というコメディ映画です。
 世之介も、来るもの拒まずといった性格なので、面白い人や出会いが向こうから勝手にやってくるのです。
 暗い人ほど、読んでほしい作品です。電車の中で読んでても、思わずふっと笑みがこぼれてしまいます。見開き1ページに1回は笑かしに来る本です。

 吉田修一さんは人の悪いところばかり見るお方なのだと思っていましたが、『横道世之介』は日向ぼっこみたいな作品で、勝手に『悪人』『怒り』『国宝』を読んだだけのやつ(自分)が偉そうに言ってすみませんでした・・・
 ここまで綿密に人間を描くには、やはり善と悪の側面、両方に注目できる愛がある方でなければならないのだと実感しました。
 どんな時でも作品全体を俯瞰してみておられて、自分のエゴにならずに毎回の作品の精度を高くしていられる方なのかなと思います。(若輩者が長々と吉田修一大先生のお人柄を想像してしまってすみません。)

 とにもかくにも、ぜひ読んでほしい作品です!
 スリリング、緊張感のある作品じゃないとだめなのよ!という方は『悪人』『怒り』をおすすめします。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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