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天然とイジメのコト

私には、イジメという言葉に反応して、浮かんてくる風景がある。

中学1年のある朝、いつも通りに教室のドアを開けると、何やら不穏な空気。誰も私に声をかけてくれず、ヒソヒソ話をしている。
そっと机に向かい、ふと顔を上げると
❝ 紅 女優 ❞
と黒板に書いてあるではないか。
クスクス笑い声が聞こえてくる。
いつもはしないのに、私は、スカートをふわりとさせながら行儀よく着席した。

私にとって女優とは、品があって、美しくて、みんなの憧れの存在。
えっ、私が女優?
心がウキウキした。

担任教師が入って来て、黒板を見ると、パッと振り返って私を見た。その目が心配そうだったのは気づいたが、なぜそんな顔をするのか分からなかった。そして急いで黒板の文字を消した。(あらら、消えちゃった)
ちょと残念な私。

その日は、誰も話かけてくれなかった。でも私は、平気だった。みんな私に憧れていて、今までみたいに気安く声かけられなくなっちゃったのかな?と思っていた。
だって、私、女優だし。

結局、1日中ヒソヒソ声を聞きながら、誰とも喋ることもなく、しかし、心は浮かれ気味のまま、放課後になってしまった。

突然「お前、イジメられてんだよ」とA君に言われた。そこからの会話はこんな感じ。
私 「いつ?」
A     「今」
私    「は?なんで?」
A      「お前、目立つンだよ」
私 「女優だからね!」
A    「だから、そこがイジメられてんだっ 
   つーの」
私 「へ?みんな女優だと思ってんでしょ。
  それで憧れちゃってんでしょ」
A    「お前、馬鹿だべ」
私 「何で」

周りはこらえきれずに、クスクス笑い出していた。

どうやら前日の事が関係しているらしい。
昨日、ある生徒がからかわれて嫌がっているのに、誰も止めなかったことを担任が叱ったのだ。放課後だったこともあり、説教は長かった。突然、名指しされてしまい、私は、反省文的なコメントを担任にも負けないくらいの熱量で熱く語った。すすり泣きの声も聞こえ、担任もその生徒も許してくれて解放されたのだ。あれが目立ったということか?

あの時、夕やけニャンニャン間に合うかな?なんてみんなで話していつも通りにバイバイしたのに。

こういう、日常の一瞬の出来事でイジメの連鎖は続いていってしまう。

私はイジメられる側になるはずだったのだ。
しかし、馬鹿と言われて腹がたって
「イジメに女優なんて言葉使うんじゃないよ。褒め言葉だろうが。」
と言い返してしまった。Aに「もしかして喜んだの?」と聞かれ「うん」
そこで大爆笑。イジメの主犯格Aがイジメのターゲットと談笑しているのだ。イジメは終わった。
また、元通りのクラスメートになった。

Aはその後も、そばかす顔の私が窓ぎわの席になった時、「窓ぎわのドットちゃん」と呼んだ。いちいちネーミングセンスがいい奴だ。

私は、イジメの主犯格に勝ったのだ。強かったわけではない。ただ抜けていたのだ。




     

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