【連載コラム1/2】ポストコロナ時代、GK設計の考える「マイクロパブリック」の姿
1. 人々の都市における行動変容
我々は、人々の都市における行動変容として、テレワークの普及や緊急事態宣言により急速に生活半径が自宅中心に変化した点に着目します。
出典:カオナビHRテクノロジー「リモートワーク実態調査」(2020)、Tmediaビジネスオンライン 日本を変える「テレワーク」(2019)
これまでの「beforコロナ」 の時期は自宅とオフィスを直線で結んだ線的な行動スタイルでした。そして、新型コロナウイルス感染症の台頭による緊急事態宣言時、人は自宅に留められ受託中心の点的な行動スタイルが強制され、やがて「withコロナ 」の時期には自宅中心の面的な行動スタイルへと生活が変化してきました。
これからの「postコロナ 」の予測として、ワクチン摂取や様々な対策が進み、コロナ が終息に向かう今、当然「beforコロナ 」の生活スタイルには戻らず、自宅を中心としたローカルな行動圏から線的な小さい移動が比較的自由になり近隣の小拠点を面的に活用していく生活スタイルへの需要が新しく形成されていくと考えます。
このような自宅を中心とした面的な行動スタイルは新たなニーズを生み出しています。1つ目は、自宅や自宅周辺に必要な機能・空間がないことから、自宅周辺を中心に自分が使いたい機能や空間のニーズが増加すること。2つ目は、非対面生活によるコミュニケーションの減少、社会的活動や交流不足から、コミュニケーション欲求の増加です。
これらを踏まえ、自宅を中心にこられのニーズが増加し、公共空間や民間のオープンスペースを区別なく、自分の使いたい目的で日常的に使える「マイクロパブリック」が出現すると予測します。
2.あなたのための小さな公共空間"マイクロパブリック"
我々の考えるマイクロパブリックと従来のパブリックの概念の違いとして、ターゲット、解像度、利用頻度においてより小さい視点に変わっています。
従来の日本のパブリックの概念は、不特定多数の人々をターゲットで解像度をあらゆる人に合わせ、利用頻度から主に非日常の場として、言わば「人」が「公共空間」に合わせることが当たり前でした。
それに対し、マイクロパブリックの概念は、近隣住民をターゲットで解像度を住民に合わせ、利用頻度から日常的に利用する場として自分の行動圏が活用される。小さい移動を愉しみ、小さい拠点で自分のしたいことをする。マイクロパブリックは、「人」が「公共空間」に合わせるのではなく、「公共空間」が「人」に合わせるという考え方が出発点になります。
3a.世の中の事例-1:フランス、パリ「15分の街」構想
パリ市長アンヌ・イダルコ氏は、2020年1月、再選に向けて「15分の街」を発表しました。これは2024年までに、パリを車なしでも誰もが家から15分で必要なものに全てアクセスできる「人に優しい都市」を目指しています。
出典:Paris’s mayor has a dream of ‘the 15-minute city’
・住民が15分範囲内ですべての生活が完結できるように必要な機能を提供
・パリのすべての道路と橋に自転車専用道路を整備
・パリ中心地の主要道路は車両侵入禁止
・路上駐車場の72%を撤去し緑地空間や自転車スペースに変更
・公共施設を開放しコミュニティスペースとして活用
・在宅勤務で需要が減少したオフィスや商業施設を住居施設として用途変更
・市民専用のKioskを設置し、住民同士で意見を共有し交流する場を提供
3b.世の中の事例-2:2040年、道路の景色が変わる
国土交通省は「2040年、道路の景色が変わる」ビジョンの中で、ポストコロナ の新しい生活様式や社会経済の変革も見据えながら、2040年の日本社会を念頭に、道路政策を通じて実現を目指す社会像、その実現に向けた中長期的な政策の方向性を提案しました。
・敷地境界の柔軟性、車道が休憩の場所にもなる
・「プライベート」と「パブリック」の領域が曖昧になる
・民地でも公共の機能をする、家の一部がモビリティハブの駐車スペースにもなる
出典:「2040年、道路の景色が変わる」(国土交通省)
3c.世の中の事例-3:道路活性化の社会実験
コロナ以前からも道路活性化や利活用に対する管主導での活動やイベント性が高い社会実験などの動きはありましたが、コロナを経て、屋外需要の高まりとともにパブリック空間活用の質の変化が見込まれます。
写真出典:写真左:新宿シェアラウンジ社会実験 / 写真中央:東京・丸の内仲通り「利活用アイデア実験祭」レポート(ソトノバ) / 写真右:横浜みなと大通り社会実験(みっけるみなぶん)(アーツ&スナック運動)
・広い歩道の活性化検討、公開空地の利活用
・車道の活用、歩行者天国
・再整備に向けた歩道拡幅、パークレット空間、自転車レーンの実験
3d.マイクロパブリック3つの視点
事例から我々の考える「マイクロパブリック」の3つの視点を整理すると、1つ目として、規制緩和・用途地域規制緩和、歩道と車道の境、公共と民間の敷地などの様々な「境界の柔軟性の視点」。まちにある既存の資源を最大限利活用し、時間軸を持った「場」の変質による多様性を持つ「場のレイヤー化の視点」。そして、3つ目に、住民に当事者意識を持ってもらい主導的にまちのルールを決めたり、地域問題を解決していく界隈性を持った「住民の愛着形成の視点」が挙げられます。
1. 境界の柔軟性 2.「場」のレイヤー化 3.住民の愛着形成
図版出典:Paris’s mayor has a dream of ‘the 15-minute city’、「2040年、道路の景色が変わる」(国土交通省)
4.パブリックデザインからマイクロパブリックデザインへ
現在10月2日〜10月31日の間、富山市において富山駅北のブールバール広場において「ブールバール広場空間利活用社会実験 STREET LIVING」を実施しています。
富山市では、富山駅北口から続く「ブールバール広場」において「緑の都市空間」をコンセプトに、居心地よく歩きたくなる空間を目指し、再整備を行います。
「ブールバール広場空間活用社会実験 STREET LIVING」では、ウォーカブルで居心地の良い空間を目指す整備計画に先立ち、将来の環境を実際に体験していただくことで、将来の姿の先取りと、アンケートやセンサーによる利活用調査を行うことを目的としています。
この社会実験の特徴はコンセントとwi-fiがセットとなっていることで、1人掛けから4人掛けまで数パターンの座席。屋根のある空間、人工芝のある場があります。
想定としては、お昼の食事の場や休憩のためのスペース、パソコン作業やスマホの充電、ご家族や友達の憩いの場など、アフターコロナの公共空間の需要を探ります。
企画を担当していますGK設計としてのデザイナー視点で見ると、ポストコロナの時代、ウォーカブルなまちづくりとして、公共空間で自分の家のように好きなことができる「自分のための小さな居心地の良い公共空間(マイクロパブリック」をつくることを目的しています。
■ あなたのための小さな公共空間
家族や友人、個人が公共に自分の居心地の良い居場所を見つけ、近隣行動圏を面的に活用するポストコロナの姿を模索する。
■ 新しいワークススタイルの模索
ポストコロナ以降、Wi-FIとコンセント、あとは自分だけのスペースがあればどこでも仕事ができてしまうことに気がつき、生活の場だと思っていた場所の境界が曖昧になる時代。
■移動を愉しむウォーカブルな街、小さな移動と公共空間がシームレスに繋がる
新交通BouleBaas による小さな移動と、STREET LIVING による小さな公共空間がシームレスに連携するアフターコロナの新しい街の姿。
まとめ
我々の考えるマイクロパブリックとは、あたなのための小さな公共空間。そして、ポストコロナの時代の我々のライフスタイルとしての空間活用を考える、新しい日常のデザインとは、「身の丈にあった公共空間を自ら編集可能にし、心の居場所を見つけること」。これからますますパブリックからマイクロパブリックの視点で人と人、人とモノの関係性をデザインすることが求められていると感じています。(磯部孝文)
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