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危うし!Tクリニック!!
春に「テキトーすぎるかかりつけ医」と題して、毎月通っている内科のクリニックのことを書いた。
一言で言えば、なんかテキトーなことばっかり言う先生のところにめまいに効く漢方薬欲しさに通っている、という内容である。
このT先生、以前は申し訳程度に血圧を測ったりして、
「運動したほうがいいよぉ。」
などと一応は健康アドバイスのようなことも言ってくれていたのだが、最近は私の顔を見るなり、
「はーい変わりないー? いつもの漢方薬ねー、出しときますはーい」
(所要時間約5秒)
としか言わなくなった。
こっちとしてはめんどくさくなくてありがたいのだが、クリニックとしていかがなものか?
最近は先生のテキトー発言もなかなか聞けなくて、ちょっとさびしかったんである。
そんなT先生がめずらしく、
「今度、会社の健康診断の結果持ってきてー。」
などと言ってきた。
「忘れないでねー。最近ぜんぜん見てないからぁ。」
さすがに診察時間5秒は気が引けたのか。健診の結果を診てアドバイスをくれようというのである。
さっそく持っていくと、T先生はその健診結果をじっと眺め、
「うん、まあ問題ないねー。」
とおっしゃる。コレステロール値が少し高めなのが気になっていたのでそう言うと、
「まあこれくらいならね、問題ないでしょうー。」
とのこと。
次にT先生、製薬会社の社名入りのメモ帳に、お世辞にも上手いとは言えない字で何やら書きつけながら、健康アドバイスを始めた。
「まずねぇ、食事で大事なのが一汁三菜。主食とおかず三品。あと汁物。おかずは野菜、魚、豆、大豆だね。それからゴマ、海藻、きのこ、イモ。これを入れるといいからー。」
「あとは運動だね。歩くこと。これから筋力が落ちてくるからぁ、腹筋したほうがいいよぉー。」
これらの内容をメモした紙をぴりりと破ってはい、と差し出し、T先生はにっこりと笑う。
そのメモを押しいただきながら思った。
T先生と私は20年以上の付き合いだっていうのに、先生、最近ちょっとそっけなかったじゃなーい。(20年以上の付き合いだからもう話すことは何もない、というのはあったかもしれない。)
今時ネットで調べればこれくらいの情報はすぐわかる。
わかるがしかし、内容などどうでもいい。
久しぶりにT先生といろいろお話できて、ネットでもわかるアドバイスをもらえて、私はちょっとうれしかった。
さて、数日前にTクリニックに行こうとしたときのこと。
Tクリニックから数十メートルしか離れていないコンビニが閉店し、そこに新しい内科のクリニックができていた。
入り口が開いていていたのだが、できたばかりのクリニックは明るく清潔で、受付にはきれいなお姉さんがふたり座っている。とても雰囲気のよいクリニックだ。流行り病のせいだろうか、待合室にも外にも人が大勢いて大忙しのようである。
なんかえらい近いところにライバルクリニックができちゃったんだなー、などと思いながらTクリニックに向かい、扉を開けて中に入ると、
Tクリニックの待合室が真っ暗だった。
そして誰もいない。
受付も無人。
暗闇の中で熱帯魚の水槽が青白く光っている。
どうした?
どうした、Tクリニック?
今日休みじゃなかったよな?
まさかつぶれてないよな?
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ… ざわ…
「こんにちはーーーーー」
「はーい、こんにちはー。」
不安に駆られて大声で叫ぶと、T先生の奥様、Y先生が現れてパチッと灯りをつけた。
いつもの待合室が戻って来る。
誰もいないから節電していたのだろうか。
呼ばれて開けっ放しの診察室を覗くと、T先生が暇そうに座っていた。
「はーい変わりないー? いつもの漢方薬ねー、出しときますはーい」(所要時間約5秒)
T先生、誰も待ってないんだからもうちょっとさあ……。
流行り病が猛威を振るい、ライバルクリニックがあんなに繁盛している中、全然患者が来ないというのにT先生のこのやる気の無さ、いかがなものか。
しかし、今時こんなに密を避けられて、これほどゆるい空気が流れているクリニックもそうあるまい。
私はそんなTクリニックが大好きなんである。