職場にまた花が咲いた
昨年10月、うれしいことがあった。
待ちわびた花子さん(仮名)の職場復帰である。
大事な仕事を一身にこなしていた我が部署のしっかり者・花子さんが療養のため職場を離れたのが7月。
我が部署は10月に年一度の大きなイベントを控えていて、これからその準備に大忙し……そんなさなかのショックな出来事だった。
皆、心の中で花子さんのことを心配しつつも、仕事は粛々とこなさねばならぬ。私も花子さんがやっていた仕事の一部を担当することになり、花子マニュアルを頼りに四苦八苦しながら食らいついた。
一番大変だったのは我が部署の長である職場のマリー・アントワネットこと木村さん(仮名)であろう。イベントに向けやることが山積の状態で、スケジュールはどんどん押していく。
「大丈夫かなぁ……」
気が気ではない私だったが、そこはアントワネット様。
焦ってあくせく働いているときに高級チョコレートをほおばった木村さんに、
「えさん、これ食べた?とってもおいしいの!食べてみて🩷」
などとほんわかと話しかけられると、程よく肩の力が抜ける。
そしてチョコレートを食べながら延々と続く他愛もないおしゃべり。
そこからいいアイデアが生まれることもある。
ちょっと世間知らずで愛されキャラ、お話好きの木村さんの周りにはいつも幸運と幸せオーラとが漂っている。
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イベントを前にしての花子さんの休職という大ピンチを救ったのは、新入社員・ハヤト(仮名)の存在だった。
我が部署としては木村さん以来30年ぶり(!)の新入社員配属となった21世紀生まれのハヤト。
彼は真正のドジ男子属性であった。
ハヤトはとにかくよく物を無くす。
ボールペン、書類、伝票、etc.…etc.…
彼の半開きになった私物入れの引き出しを見れば一目瞭然、一切整理されていないごっちゃごちゃの物体が飛び出して、他人の引き出しを侵食している。
さらにタバコ吸いの彼は仕事中一服するのが後ろめたいのか、よく黙って喫煙所に向かう。猛ダッシュで階段を駆け上がり、一服して戻ったはいいが、気づけば大事な身分証が無い。
焦るハヤト。
考えた末、いちばん怒られなさそうな私に打ち明けるハヤト。
「何やってんだ、探しなよぉ!」
身分証は階段の途中に落ちているのが見つかったものの、黙って一服したことや身分証を落としたことがみんなにバレて、後々までイジられることになってしまったハヤト。
(いいネタなんでもちろんみんなに言うよね。ハヤト、ごめんな!)
うまく立ち回ろうとしてるのに、都合悪いことがすべてバレてしまうドジ男子ハヤト。
しかし、花子さんのメインの仕事を引き継ぎ、不慣れながらも奮闘したハヤトの力は紛れもなく大きかった。もし彼が我が部署に配属されていなかったら、イベントはどうなっていたかわからないのだ。
30年ぶりにやってきた新人がピンチを救ってくれた奇跡。
「木村さん、あなたはね、本当にラッキーだよ」
部長のこの言葉にしみじみと頷いた木村さんの表情が、今も私の脳裏に焼き付いている。
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三か月ぶりに復帰した花子さんに「おかえりなさい」と声をかけると、少し照れくさそうに、
「ありがとうございます。ただいまです」と微笑む。
なんだよー、ちょっとそっけないじゃん。
でも花子さんらしくて、フフッとなる。
体調はおそらくまだ無理はできない段階だろう。
けれど、以前にも増して意欲的に楽しそうに働く花子さんの姿と、花子さんの復帰に活気を増していく同僚たちの姿が、私にはまぶしい。
花子さん、伝わっているだろうか。
私はあなたの復帰が、とてもとても、うれしいんだよ。
あなたのいる職場が戻ってきたことが、とてもとても、うれしいんだよ。